ファーストコンタクト 3
まず一人目の男達が叫びながら突進した。
上段からの袈裟斬りだったが、アイシャはそれを近くにあった椅子を使って防ぐと、そのまま相手の勢いを殺して、一気に椅子を相手に向かって押し込んだ。
体勢が崩れた男は、椅子による圧迫に脚を掬われ、派手に転倒する。
そこにすかさずアイシャは、曲刀を逆手に持ちなおすと、容赦なく振り降りろした。
鋭利な切っ先は男の肋骨を砕き、肺や心臓等の臓器を傷付けた。
絶命した男を尻目に、アイシャは次に右真横にいた男に向かって、懐に仕込んでいたナイフを放り投げた。
ナイフは音もなく、男の額に突き刺さり、男はそのまま倒れ、動かなくった。
その隙を突いて、アイシャは部屋の西側に位置した窓に向かって走ると、両腕で顔を庇い、窓ガラスを割って脱出した。
「貴様らっ! 何をしている! 早くあの女を追え!」
ファラジオはアイシャの手際の良い脱出劇に面喰らいつつも、手下の男達に指示を出す。
その間にアイシャは居住区の表通りとは逆方向の狭い路地に逃げ込んだ。
この路地裏はアイシャの緊急時の逃走ルートであり、彼女は暗闇の中で視界が悪い状況の中でも走り抜ける事ができた。
しかし、追っ手達も、彼女をみすみす逃すような間抜けな連中ではなかった。
アイシャは少し路地を走れば奴らを撒けると思っていたのだが、いかんせん、追っ手の声が消えることはなく、むしろ段々と接近されているように感じられたのだ。
ーーこのままでは追いつかれる。
路地に積まれた木箱や樽等を転かし、追跡の妨害を試みるも、追っ手達はそれに動じる事もなく、徐々に距離を詰めてくる。
相手は追跡技術に秀でた手練れらしい。
このまま反転し、追っ手と一戦交えることも一瞬考えたが、それはただの時間稼ぎにしかならないのはアイシャ自身がよく理解していた。
ではどうするか。
酸素が欠乏していく頭で、打開策を打ち出そうと思案したその時だった。
「ぐっ!!」
彼女の左肩に何か鋭利な物が突き刺さった。
追っ手の何者かが投擲したのだろうか。
アイシャはその痛みの感覚から、矢等の細い物でなく、ナイフ等の刃物であると瞬時に感じとった。
瞬く間に手負いとなってしまったアイシャの動きは緩慢になり、激痛からその場に倒れ込みそうになる。
しかし、彼女は何とか体勢を保ちつつ、逃走ルートではない大通りに進み出ると、その道傍に繋がれていた馬を強奪した。
すぐそばにいた馬主であろう男が何やら怒鳴っていたが、アイシャの耳には一切入らない。
そしてアイシャは馬に跨ると、両足で馬の腹を蹴り、その場から走り出した。
その様子を見た追っ手達は一度戸惑う様子を見せたものの、アイシャと同じく、市民達の馬を奪い、再び追跡を開始した。