殉職からの召喚 4
それから何時間か経過した。
大和が眠りに落ちた時から、時間はあれよとばかりに経過して、遂には朝日が昇る頃となっていた。
大和は疲れ果てたのであろう、眩い光が彼の顔面を照らそうとも、中々目を覚まさず、心地の良い寝息を立てている。
そんな夢の中の真っ只中の彼に、上空から近づく影があった。
鳥だ。
しかし、鳥と言えども、見た目は猛禽類のそれで、翼の幅は軽く見積もっても、2メートルは超えるほどの大きさだった。
その鳥はしばらく滑空しながら、旋回していたかと思うと、高度を下げて、大和が体を預けていた岩に降り立った。
そして、大和が動かないと判断したのか、彼の背後まで接近すると、その鋭い嘴で彼のうなじを突いたのだった。
「っ! いってぇ!!」
あまりの痛さに目を覚ました大和は驚いた拍子で立ち上がった。
しかし、体はまだ眠ったままだったのだろう。
すぐさまその場に転がった。
そんな間抜けな醜態を晒す大和に対して、鳥は一度は間を保つ為に飛び去ったのだが、彼の反撃してこない様子に調子付いたのか、凄まじい速度で急降下したのだ。
もちろん、目標は間抜け面の大和だ。
「一体何だってんだよ!!」
大和は悪態をつきながらも、その場から全力で逃げ出した。
しかし、人の走る速度と鳥の飛行速度では雲泥の差である。
鳥は今度は足の鋭い爪で、大和に襲いかかった。
「っあぐっ! いってぇなっ!!」
鳥の鋭い爪による攻撃は、大和の右肩に食い込んだ。
まるで大きな針で刺されたような痛みに大和は叫ぶ。
そんな大和に対して、鳥は弄ぶかのように、一撃、また一撃と、一撃離脱戦法で大和を苦しめていく。
襲われている最中、大和は懸命に飛来する鳥に対して腕を振り、反撃するも、空振りに終わる。
あれだけ大きな体の鳥なのに、一撃も当てることが出来ない大和は、反撃するのを諦めて、全力疾走で逃げることを選ぶ。
「これが異世界なりの歓迎ってか!? 糞が!!」
大きな声で文句を言うが、何の効果もなく、鳥が背後まで迫る。
再び、鳥の鋭い爪が大和の背中を捉えた。
今度は大和の首筋を狙う軌道だ。
そんな鳥の迫力に、大和は声をあげるが、これ以上やられてたまるかと、前方へとダイブする。
そんな彼の真上を鳥が通過した。
大和はダイブした勢いそのままに回転受け身をとると、すぐさま姿勢を正し、駆け出した。
そんな時に大和は視線の先に木々が立ち並ぶ森があることに気づいた。
あの鬱蒼とした森に入れば、この鬱陶しい鳥から逃げることができるかもしれない。
そう判断した大和は残った体力を使い切るかのように、疾走する。
その間に、鳥からの猛攻猛追に苛まれながらも、何とか大和は木々が覆う森に辿りつき、一目散に低い茂みへと飛び込んだ。
そんな大和の姿を見た鳥は、一度身を振り返し、様子を伺うように旋回すると、悔しさから高い鳴き声を上げながら、その場から飛び去って行く。
「…行ったか?」
飛び去った鳥の姿を確認した大和は恐る恐ると茂みから抜け出した。
辺りをグルリと見渡して、異常が無いことを確認すると、大和はその場にへたり込んだ。
「はぁ〜。 疲れた。そしてあちこち痛い…」
服を着ている部分は幸い、出血は無かったが、肌の露出している首筋からは薄っすらと出血していた。
大和はポーチから携帯用消毒液と絆創膏を取り出すと、傷口の消毒を済ましてから絆創膏を貼り付けた。
簡単な治療が終わると大和はゆっくりと立ち上がった。
そして、ここからどちらに進むか考え込む。
先程と同じく丘陵地帯を歩くか。
それともこのまま森に入って行くか。
丘陵地帯を歩くほうが迷う心配もないし、見通しも良い。
しかし、さっきの鳥がネックである。
また襲われて、走り回るのは勘弁してもらいたいところだ。
しかし、だからと言って、森を進むのも危険である。
道もないような木々が生い茂る森は何が起こるか分からないし、この森の全容も不明である。
小さな森かもしれないし、樹海のような森かもしれない。
そして何より、さっきみたいな人を襲う生き物がいる可能性があること。
進むも退くも、どちらも危険だ。
なら、大和がとれる唯一の選択と言えば。
「とりあえず、森の淵を進もう。」
と言うことに落ち着いたのだった。