ムキムキでも妄想したい。
姫様の新事実発覚。
ある国にそれはそれは勇猛果敢な凛々しい姫様がおりました。
剣をふるえば、ばったばったと相手をなぎ倒し、
組手をすれば、軽々と投げ飛ばし蹴り飛ばし、
走れば風のように早い。
その肉体は鋼のように強く…なんと言いますかムキムキマッチョでした。
姫様は六人の弟妹がおりました。
二の姫から五の姫まで、おまけに末の弟も皆が美しいと評判の王妃様に似ましたが、その姫はそれはそれは父である国王の面差しに似ていましたので強面でした。
父である国王は周辺諸国どころか隣の大陸まで名を轟かすほどの強さを誇り、かつ戦場では冷酷無慈悲な悪魔の王と呼ばれ恐れられておりました。
そんな父に似た姫は大変男らしい顔立ちな上、ムキムキマッチョでした。
☆☆☆☆☆
「天使たん(リヒト君)キター!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
部屋の窓という窓、ドアというドアを閉じると、ムキムキマッチョな姫様は布団を被って叫びました。
「……やかましい…」
ゆらりとソファーから起き上がった幼馴染みの侍女シャルロッテことロッテのドスのきいた声と睨みに姫様は一瞬怯みました。
二日酔いの頭には姫様のハニーボイスは猛毒でした。
そうなのです、ムキムキマッチョな姫様はとても愛らしい声の持ち主だったのです。
顔との格差が激しすぎました。
(某正義の味方なパンのメロメロにしちゃうパンチを放つ女の子のような声なのです。)
「ロッテごめん。」
「…いえ…出すぎた真似をしました、申し訳ありません…
申し訳ついでに水をいただきたく…」
普通ならば怒ることですが、姫様は素直に要求に答えてあげました。
ロッテの顔は青通り越して土色で、見ているだけで可哀想でした。
「大変申し訳ありませんが、しばらくこのまま寝かせてもらえないでしょうか…」
「許可する。寝てろ。昼には起こす。」
寝たまま敬礼をすると、ロッテはすぐに寝息をたて始めました。
姫様は荒事や遠征もこなす姫様なので、姫様付の侍女ロッテも現場に同行します。
なので、どこでもグッスリ眠れるのが特技のひとつでした。
姫様としてはさっきのリヒト君の事、贈り物の事、嬉しいけどどうしたらいいか、というかむくんだ顔見られた(涙)話をしたかったのですが、我慢です。
リヒト君は苺を樽一杯分持ってきてくれました。
昔、王子誕生祈願のため等々の理由で山に籠るたび、よく食べていた苺です。
苺自体は群生しているのですがいかせん小粒なので沢山集めるのは根気がいります。
よく姫様が山で訓練中ロッテが集めてくれました。
新鮮なうちに川のみずで洗ってから食べるのが好きでした。
二人で口の回りが真っ赤になるほど食べたものです。
(まるで血のようで、呼びに来た護衛をどんびかせたのは姫様だけが知らないことでした。まるで野性動物貪ってるように見えたそうな。)
ひとつ取って口にしてみると、まるでさっき取って水で洗って出されたような新鮮さです。
おそらくあのメイズが息子のために面倒くさい術式を樽に込めて、新鮮!もぎたてフレッシュ!を実現させているのでしょう。
大量に苺が詰まってるのにも関わらず、樽は子猫ほどに軽いのでした。
「懐かしいな…」
姫様は目を細めて思い出に耽りました。
その間も苺をつまむ手は止まりません。やめられない、止まらない☆そんな某菓子状態です。
「…取ってきた、と言っていたな…?」
ふと天使なリヒト君の言葉がリフレインしました。
一つ一つ彼が取ったのでしょうか?
いや、全部はさすがに無理でしょうが、何割かは可憐な指先で摘まんだ苺があるかもしれません。
樽がいくら軽くても、この大きさの物を持ったまま歩くのは大変だった事でしょう。
『うんしょ、うんしょ。』
フウフウ息を吐き、薔薇色の頬を更に赤く染めながらヨロヨロ樽を持って歩くリヒト君。
想像…いや、妄想した瞬間姫様は心のなかで絶叫し、エアゴロゴロを心のなかでしたのでした。
☆☆☆☆☆
昼の鐘がなると同時に自力で目覚めたロッテが見たものは、
口と手を苺の果肉まみれにしてぷるぷるしている姫様でした。
苺の香りが充満していなければ、何かの動物をむさぼり食う途中に見えたことでしょう。
「姫様、正直言って見た感じがグロいです。」
ポロリと本音を漏らしたロッテに姫様はちょっぴり傷付いたのでした。
愛する人の妄想が止まらないムキムキマッチョの姫様はどうなってしまうのでしょう。
ハニーボイス姫様。