第七話
設定、題名を大幅に変更しました。もし今まで追っかけてくださっている方がいるのであれば、すいませんが、最初から読み直した方がいいかもです。
「せやぁ!」
パシャ、という水が弾けるような音がして、緑色をしたスライム状のグール『ゼル』が霧の様に消えていく。
そして、
『レベルが2に上がりました』というアナウンスが、ピロンという音と共に頭の中に響く。
俺たちは今、第一冒険ステージ『最初の平原』で、冒険をしていた。
なぜこんなところにいるのかというと、それは数時間ほど前のこと。
チャットの中でいつの間にか広まっていた俺たちの話。それのせいで部屋の中に追い詰められ、いつ押し掛けてくるかわからない状況だったが、新島と柊のMPがほとんど回復したためワープ機能でここまでとんできたわけだ。
『ワープ機能』というのは、メニューの中にある、一瞬で他のステージなどにとんでいけるシステムのこと。
『全てを繋ぐ街』のあるステージは、とにかくひろい。
ほとんどのプレイヤーがすむことになる中心の街自体が広く、さらにそのまわりには、高い山々、そこから流れる川や滝、さらには海もあるなど、豊かな自然が広がっている。その広さは、北海道くらいの面積なら余裕であるだろう。
そのくらい広い場所で、自動車や自転車のない状態で暮らそうとすると、とても不便だ。そこをカバーするのがワープ機能である。
しかし、金を払っていない店や食堂の中では使えず、『ステージ・グール(ボス)』戦中も使えない。さらにMPを10消費するため、『ステージ・グール』戦に行く際は、所々に点在していて、ワープ機能と同じ効果を持ち、MPを消費しない『ポータル』をつかう場合が多い。
とまあ、そんなこんなで今に至るわけだが…
「お~、おめでと~!」
「ん~…なんかお前に言われんのむかつくな~、レベル3の柊さん」
「しょうがないじゃん。遅いの木ノ原だし。凩なんて、もうレベル4位までいってるはずだよ」
「まじかよ!」
「ひっ…いや~!」
柊と駄弁っているときに、突然叫び声が聞こえた。
何事かと慌てて声の主を探すと、体を真っ赤に染めた新島が、こっちへ向かって走ってきていた。
その迫力は、ホラー映画にも負けていないものだった…
「ごめんごめん。言うの忘れてたね~」
「うぅ~…」
新島が戦っていた、というかボコっていたグールは、人型の『ゴブリン』だったらしい。
初期装備の短剣【ダガー】で脊椎のあたりを削ぎ、動けなくなったところを鞭で絞殺するという、えぐいことをしていたときに、突然首が弾けとんで大量の血が吹き出し、それを浴びたらしい。
首が弾けとんだのは、それぞれの部位のうち、首の体力がなくなったからだろう。
「しっかし血なんて…この世界はリアルだな…」
確かにこの世界は他のVRにくらべても現実に近い。というか、もう現実と変わらないといってもいいだろう。
青く澄んだ空。眩しい太陽。生き生きとした草。柔らかい土。そして爽やかな風。
どれもまったく違和感のないものだ。2025年の今にこんなものが作れるとは、とても感心する。
そんなこんなでもう数時間後。
みんなのレベルが5に上がり、体力、MP、精神的にも疲れ、時間は4時を回った頃。街に戻った俺たちはさっそく------
-----沢山の人に囲まれてしまった、ということはなかった。
「嬉しいんだけど…なんでだろ?」
「…!」
柊がとても驚いた顔をした。どうやら『フリーチャット』を見ているらしい。
そこには、パーティーへの勧誘と、
「スイアリーのメンバーとは普通に接すること」
と書いてあった。
要するに、大量の人が宿屋に押し寄せたあのとき俺たちが逃げるように冒険へとむかったため、「嫌な思いをさせたくない」という良心的な考えの人がいたのだろう。
というわけで、最大のともいえる問題は無事解決した。
そして宿屋にて。
「パーティー名【スイアリー】だって!!いいじゃん、もう名前これにしようよ!」
「…はいはい、いいんじゃないか?」
「やった~!これから私達は、『パーティー【スイアリー】』よ!」
柊のテンションが高い…。
そう言えば対照的に守山のテンションが低い。
よほど【スイアリー】を気に入ったか、名前をつけてもらって嬉しいのか知らないが、とにかく
「…寝ていいか?」
「え?まだ五時だよ?」
「MPがもう限界なんだよ…体がだるくてさ…」
どうやらMPが少ないと、リアルで言う「疲れた」状態になるらしい。
スキルのおかげでHPは大丈夫だが、MPがやばい。
部屋に戻ると、既に凩はベッドで横たわっていた。やはり凩も同じだったらしい。俺はベッドに身を任せるように倒れこみ、深い眠りについた…。
「~~ぃろ~!起きろ起きろ起きろ起きろ~!」
「...んあ?」
「お、起きた起きた。」
「...なんだよ」
「え?あ、いや、午前中忙しかったから、買い物がてらご飯食べに行こうかなったおもって」
「ご飯...?てか、いま何時?」
「んと...六時だよ」
「なぁ...ひどくないか?」
「ん?」
「...」
「ふぅ~食った食った!」
俺が寝ていた時に守山も寝ていたらしく、いまはいつものテンションに戻っている。
「守山...お金のこってますか?」
「おう?ああ、大丈夫だ!ドロップ品が多かったからな」
「え…まさか、全部売っちゃった?」
「ああ、そうだが?」
そうだった。こいつゲーム初心者だ…
「そうだったね…いい?ドロップ品は、武器や防具などの装備品を作るための素材として使うことができるの。…というか、最後の方はそうやってやってかないと厳しくなるよ」
「そうか…そうなのか。ならこれだけでは後で厳しくなるな」
そういって、守山はメニューを操作し、アイテムを…
否、武器を装備した。
「そ、それって…『ドロップ武器』!?」
柊はあからさまに驚いている。
『ドロップ武器』は、そのグールから出る素材を使って作る武器よりも強い、が、なかなか出ない、らしい。
「ん?あぁ、これそんなに驚くものだったか。なんか『センゴブリン』とやらを倒したらこんなもんがでてきたんだ」
「…『センゴブリン』?」
この時点で柊の顔が曇る。
「ああ、たしかそんな名前だった気がするが…なかなか手強かったぞ。ああそうだ!そいつを倒したら一気に2もレベルが上がったんだ!」
「その『センゴブリン』って見たの一体だけ?」
「そういえば…ほかに見なかったな」
その言葉を聞いたとたん、柊の顔から血の気がひいた。
「そいつ…希少出現だ…」
「希少出現?」
「稀に出てくるの…一回りも二回りも強いやつが…」
希少出現は、稀に出てくるグールのことで、どの冒険ステージにも出てくる。その出現率に見あったアイテム・武器を落とすが、そのステージに出てくる通常のグールより強力で、強いものでは10ステージ先レベルの強さを持つものもでる、らしい。
「守山は、実は危なかったってこと?」
「そう。もしかしたら死んでたかもしれないってこと」
「そういえば…」
さっきから気になっていることがある。
「HP0になったらどうなるんだ?」
「っ!そ、それは…えっと…」
何故か言葉を探しているようだが…
「えっと…プレイヤー権限の剥奪」
「!ってことは…」
「ログイン…出来なくなるってこと」
「……」
「……」
「……」
「……あ!こ、ここじゃない?」
「……あ、ああ。ここだろうな」
よかったよかった。あの空気が続いていれば心がもたなかった。
やって来たのは「機械鍛冶屋『レイク』」。
このゲームの鍛冶は、『機械鍛冶』と、『P鍛冶(プレイヤー鍛冶)』がある。
機械鍛冶は絶対成功するが、P鍛冶は失敗する可能性がある。
しかし機械鍛冶は基本に忠実であるが故に、『追加効果』がないが、P鍛冶では、攻撃力アップや防御力アップなど、様々な『追加効果』がつくようになる。
そのため、どちらをとるかはプレイヤーの自由なのだが…最初の内は鍛冶が出来るプレイヤーがいないため、機械鍛冶に頼るしかない。
というわけでやって来た機械鍛冶屋に…
「おぉ、アンタたち!すっかり有名人になったじゃないか!」
…サルサさんがいました。
字数はもうこれが限界かもしれないです…
新島:「私の紹介まだ~?」