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第一話 眠り姫の城で

「いってえ・・・アノ阿呆!!」

烏が鳴く夕暮れの道を零児は薄っぺらな鞄を肩にかけて歩いていく。

あの後誠と大喧嘩となり、こうして頬を押さえてるわけだ。

鬱憤を晴らすために道端に転がっていた空き缶を蹴りながら何時もの交差点をこえ、煉瓦の歩道から曲がって少々暗い小道に入る。

ゴミが落ちているが蹴り飛ばしながらどんどん奥へと進んでいく。途中ポリバケツの上で丸まっている野良猫を起したが気にせず進み、大通りにでる。

「あと少しか・・・」

独り言を呟き、更に歩いてゆく。

春には綺麗な桜並木で有名なこの通りだが、今は葉桜が青々と茂っている。

最後の坂道を登り、見えてきた目的地に少々小走りになりながら目的地の正門を抜けた。

星霜市浮世病院と黒い大理石で出来たオブジェをみながら、自動ドアを抜けた。

夕暮れ時の混雑にチョッと困惑するも、目的地に向け歩き出す。

消毒液などの独特のにおい病院のの空気を胸いっぱい吸いながら、改装したてのエントランスを進み少々オンボロのエレベーターに乗り込む。

一人二人と降りたり乗ったりしながらエレベータは登ってゆく。

ガタガタと揺れるエレベーターが6階で止まり、そこから病棟の南に向けて歩き出す。

顔見知りの医者に頭を下げつつ、早歩きで足を動かし病室を目指す。

そして目的地の405室の引き戸を開ければ、自分の住む町が見下ろせる大きな窓と、白い白い病室の中で眠る彼女がいた。花瓶の花はまだ枯れてなかったようで、少し安心した。

痛々しい酸素呼吸器が取り付けられた顔は綺麗に整って、可憐な唇は桜の花びらのようで、固く閉じた眼は長い睫毛が彩る。真珠のような白い肌に栗色の長い髪が入院生活の長さを暗に語っていた。

まるで童話の眠り姫その人のように。

「・・・よう、慧」

どかっと乱暴に彼女の近くの椅子に腰を下ろす。彼女の顔を見つめるも、残酷な眠り姫様は眼を開けてはくれないようだ。王子様のキスは俺じゃ出来ない、そう皮肉めいて思ってしまった。

「もうさ、慧が眠ってからもう五年だぜ・・?いい加減起きろよな」

諭すように言っても、彼女は何も言葉を返してはくれない。空っぽの人形のように。

「・・・なあ起きてくれよ慧」

俺は彼女を呼ぶも、きっと彼女は五年前から止まってしまったのだろう。

あの事故を最後に。

その日も俺たちは元気良く遊んでいたと覚えてる。ランドセルをベンチに投げ出して、鬼ごっこ、カクレンボ、ぽこぺん、と飽きる事無く、ただ無邪気に遊んでいた。

不安も恐れも何も無く、ただ今日のような毎日がずっと続いていくと信じて、泥に塗れて駆け回っていた。何もかもが不思議で、何もかもが楽しくて、そんな日の夕暮れだった。

五時を告げるチャイムで、また明日と皆帰っていく。

俺も、家が近い慧と何時ものように空き缶を蹴ったり、道草しながら夕暮れの街を歩いていた時だ。事故は唐突にやってきた。

“その時”は良く覚えてはいない。兎に角交差点を青信号で渡っただけだったのに、そこで俺の記憶はブッツリと切れてしまった。

目覚めたのはソレから一年後の事だった。目覚めてみれば白い天井が見えて、首を動かしてみれば包帯だらけの右腕と点滴のチューブが見えた。

親父の話によれば、俺が助かったのは奇跡だそうだ。なんでもトラックが俺たちに突っ込んだ時、俺の左腕は原型を留めていなかったうえ、臓器の何個かが弾けていたらしい。

そうして奇跡と言う偶然を引き当てた俺だが、慧はそうも行かなかった。

医者に言わせれば、慧は俺とは違い外傷こそ少なかった物の、人間の要である脳に衝撃が直結したらしく、昏睡状態に陥っていたのだ。

医者は更に言っていた。慧が昏睡に落ちたのは脳に傷が生まれたのではなく、一時的な仮死になったからではないかと。

医学系の道を志していない俺には一つも理解が追いつかないが、一つだけ確証があった。

ソレは医者の言葉通り何時か慧は目覚める事だ。

そうして奇跡に愛され助かった俺はこうして彼女の病室に毎週金曜日に通っている訳だ。

しかし、五年も毎週毎週金曜日に通っているとなると、ナース(ココの病院は不思議と男の看護士さんがいないのだ)サンたちに『金曜日の子』なんて大変不本意なアダ名を賜る羽目になってしまった。つい此間なんて、十三日の金曜日だったのでケチャップ付きのホッケーマスクを危うく被らされるとこだった。

「・・・おっともうこんな時間か・・それじゃまた来週だな」

親父の御下がりの腕時計が六時半を指していたので、零児は椅子から立ち上がり引き戸に向かった。最後に振り返って一言だけ告げる。

「おやすみ慧」

その時、彼女が眼を開けた気がして眼を擦ってみたが、彼女は天使の寝顔で眠っているだけだった。長い長い夢を見る彼女がいきなり眼を覚ますなんて、馬鹿な自分の淡い期待を振り払い俺は一人呟く。

「・・・・・・気のせい・・かな?」

期待があったが、夕食の当番が今日は自分の番なので、俺は駆け出していた。その日から自分の毎日が慌しくなるともしらず。






へッポこですが頑張ります!よろしくおねがいいたしますね

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