第4話
「どうしたの二人とも、固まっちゃって。」
一虎は不思議そうに両親の顔をかわるがわる覗いた。
「トラ。」
意を決したように雅彦が口を開く。
「あのな、落ち着いて」
「待って!」
洋子が雅彦の言葉を遮った。
「トラちゃんは今日のゲームで疲れてるわ。お部屋に戻ってゆっくり休んで。」
「いや、ちょうどいい機会だ。いつかは話さなきゃいけないと思ってただろ。」
雅彦は譲らない。
「でもトラちゃんはまだ中学生なのよ。」
「大丈夫。今のトラなら心を乱したりしない。」
「何を言っているの?そんな・・・思いついたように簡単に話さないでよ。」
洋子の顔はひきつり、両眼に涙があふれてきた。
「すまない。でもトラの顔を見てみろよ。今話をやめたってかえって混乱するよ。」
洋子は涙を指で拭きながら雅彦を恨めしそうに見つめた。
雅彦は、体を少し一虎の方にひねって座りなおした。
「トラ、落ち着いて聞いてほしい。」
「・・・・。」
「黒瀬くん、名前は竜一というんだが、彼は・・・君の兄弟だ。しかも双子のね。そして君達2人を産んだのは母さんじゃない。さっき言った母さんのお姉さん、良美さんだ。」
一虎は身じろぎもせずじっと雅彦の話を聞いている。
「トラと竜一君は良美姉さんの最初の子どもだった。良美姉さんは嬉しくってたまらなかったんだろうね、毎日のように母さんに電話してきて、君たちのことを話していたよ。」
「・・・・。」
「君たちが生まれて3カ月の時だった。良美姉さんとその旦那さん、光男さんは君たちが眠っている間に車で買い物に出かけたんだ。君たちをおばあちゃんに預けてね。」
「・・・・。」
「交通事故だった。光男さんが運転する車に対向車がぶつかってきたんだ。正面衝突だ。対向車は大型のトラックで、運転手が居眠り運転をしていたそうだ。光男さんと良美姉さんは・・・即死だったらしい。」
洋子はハンカチで目を抑え下を向いて立っている。
「葬式が終わった後、君たちのことをみんなで話し合ったんだ。光男さんには兄弟がいなかった。おばあちゃんは君たち2人を育てたいと言ったけど、生活が苦しいことはみんな知っていたから反対された。俺と母さんが君たち2人を預かりたいと申し出た。みんな賛成してくれたよ、おばあちゃん以外はね。」
「・・・・。」
「おばあちゃんは、その5年くらい前に旦那さんを亡くされていてね、光男さんの家族が唯一の心の支えだったんだ。だから、君たち2人を手元に置きたくて仕方がなかった。でもパートのアルバイトだけで生活できるわけがないから、私たちに育てさせてくれと頼んだんだ。」
一虎の眼から一筋の涙が流れた。
だが涙はふかずじっと父の話を聞いている。
「親せきの人たちもそれがいいとおばあちゃんを説得したんだけれど、おばあちゃんは首を縦に振らなかった。そしてそのうち親せきの誰かから提案があった。二人のうち、一人をおばあちゃんが育て、一人を私達夫婦が育てたらどうかってね。」
「・・・・。」
少し間をおいて雅彦が続けた。
「これが真実だ。いきなりこんなことを話されて、さぞびっくりしたことだろう。本当のご両親が亡くなっていたなんて。そして父さんや母さんが実の親じゃなかったなんてな・・・。」
雅彦はふうっとため息をついて続けた。
「だが、これだけはわかってほしい。私たちはトラを実の子と思って育ててきたし、その思いはこれからもずっと、ずっと変わらないということを。」
「そうよトラちゃん!あなたは私の子どもだからね!」
顔中涙でいっぱいの洋子が一虎をぎゅっと抱きしめた。
「うん、わかってる。わかってるよ母さん。」
一虎が静かに頷いた。