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8 厨房使用権

さてそろそろ、リダインの料理に飽きてきた。

割と豪勢で美味しいのだが、幼少時より独特な食生活を送って来たリトには、少々物足りない。


ここは一つ、厨房に忍び込むべきか。


厨房は大きく分けて2つ。

王宮内と別宮にそれぞれ。

側室候補の食事は、王宮内で作られている。

細かく言うと王族とは別の厨房だが、隣接しているようだ。

王族の食事も作っているというだけあり、こちらの厨房には侵入できそうにない。

もう一つの厨房は図書館の隣の宮にあるらしく、時間帯によっては良い匂いがするのだ。





厨房は隣の宮一階にあった。

大きな水場が宮の外にあるので、芋洗いに使用人が度々出てくる。


リトは芋洗いをしている少女の隣に座った。


「え?」


きょとんとリトを見上げてくる。

ぱっちりと大きな瞳はよく見ると金色だ。

リトよりも小さく、細い体。

編みこまれた髪がかわいらしい。


「手伝うわ」


断られる前に芋を掴み、洗った。

そのまま手早く皮をむいていく。


「え? え?」


「貴方も剥いたら、すぐに終るわよ?」


うろたえる彼女を後目に次々と皮を剥いて、水に浸していく。

彼女もそれを見てわたわたと皮を剥き始めた。


すべて剥き終わり、厨房内に運ぶ少女の後ろを歩く。

ちらちらと不思議そうに見てくるが何も答えず、ただついていくだけ。


「あの、ありがとう」


芋を置いて振りかえった少女が言う。


「それであなた、一体だれ?」






芋洗い少女の名前はコーダというらしい。

コーダに側室候補として拉致られたというと、すごい勢いで謝られた。

どうやらお客様扱いらしい。

それもそうか。

悪いことをしてしまった。


「気にしないで。私が勝手にしたことだから」


厨房侵入の手段として手伝っただけだ。

善意ではない。

少しでも断りにくくなるように出た行動なので、打算100%である。


「コーダ? どちら様だ?」


「ダニエル料理長」


お。

ボス登場か?


「あの……側室候補のリト様です。芋の皮むきを手伝ってくださって……」


コックコートを身を纏った、恰幅の良い中年男性が、太い眉を顰めてリトを見下ろしてくる。


「なんだって?」


「初めまして、リトです。他国の出身なものですから、ちょっと故郷の味が恋しくなり、厨房をお借り出来ないかと思いまして」


「……側室候補様の食事はここで作ってないよ」


ここは使用人専用の厨房らしい。

場所に拘りはないし、近い方が便利なのでできればこの厨房を借りたい。


「勿論邪魔な時間帯にはお邪魔しませんし、できる雑用は手伝います」


さすがに戦場と化している厨房には入れない。

料理は好きだが素人だ。

邪魔になるだけなのは重々承知。



「……変わった側室候補だな」


「元々人違いですので」


無能すぎるわ、リダインの騎士。

ちゃんと標的くらい確認した方が良いと思うの。


「いいだろう。邪魔をしないなら厨房を使うと良い。ただし上質な食材はここにはない」


「構いませんわ。ありがたく、遣わせて頂きます」


元々高級食材に拘っていない。

しっかし使用人もゆるいな、リダイン大丈夫なのか。

リダインは周りの国とも戦争がないし、平和なんだろうな。


とにかく、厨房の使用権は入手出来た。

材料も大丈夫。

足りないものはアデルに言えば用意してくれるだろう。




上機嫌で部屋に戻る。

うん。


「またネズミ」


トーカのおやつね。

犯人はリトを良く思わない人物なのはわかる。

可能性が一番高いのは正室候補か?

いやでも側室がいないと自分の正妃になれないわけだから……うん、誰でもいいわ。

不思議なのは、こんなねずみの死体でダメージを受ける人なんているのかってことだ。

だって部屋の前よ?

自分で掃除するわけでもないし、死体がめちゃくちゃなわけでもない。

部屋の中に入る時は跨げばいいだけだし。


「よくわからないわね」


考えてもわからない。

もしかしたらこの国ではネズミはとんでもなく悪いものの象徴なのかもしれないわ。

挑戦状とか果し状の類なのかもしれないし。

アデルが来たら聞いてみようかしら。




とりあえず、ネズミをトーカにプレゼントして、本の続きを読むとしよう。




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