5 王子たち2
リトは本を5冊抱き抱え、図書館を出た。
今日は魔術書2冊に魔法書1冊、戦記を1冊にリダインの歴史書を1冊だ。
特にリダインの歴史書は、こちらにいる間に読んでおくと楽しいかもしれにない。
だって今いる建物のことにも触れられてるのよ?
それってすごいと思う。
「おい、そこの女」
何、コイツ。生意気な。
背は高いが顔立ちはまだ幼い。
おそらくリトよりも年下だろう、黒髪の少年だ。
偉そうにリトを見下ろしている。
何だか誰かさんを彷彿とさせるわ。
「図書館で兄上と話していたな」
「は?」
いきなり何なの。
っていうか兄上。
兄上ってことはコイツが第三王子?
「兄上が女と話すなんて珍しい。見ない顔だが側室候補の一人か?」
っていうか王子って普段何してるんだろう。
暇なの?
遭遇率が高いような……。
「隣国より拉致されて側室候補を押し付けられたリトと申します。よろしくしなくてよろしいですわ」
不敬罪だなんだって騒ぎたてたら即刻逃げてやるわ。
図書館の本持てるだけ持って。
「くっそ生意気な女だな」
「はっ、貴方に言われたくないですわね」
むしろお前の方が生意気だ。
こっちが名を名乗ったんだ、名を名乗れ。
「ふん、平民風情が。……まぁいい、特別にヴィーレ様と呼んでいいぞ!」
誰が呼ぶか。
リトの微妙な視線に気付いたのか、ヴィーレが慌てる。
「と、とにかくっ! 兄上と何を話していたんだ?」
「はぁ……本の話ですよ」
図書館なんだから一々確認しなくても、想像つくだろうに。
「本ねぇ……色気がないな。お前は兄上の側室になるのか?」
「なりません」
側室なんてなってたまるか。
私は一生独りで好きなように生きるんだ。
トーカは寿命も長いし、ひとりと一匹気ままに暮らそう。
「ふぅん……まぁ顔は悪くない。スタイルも」
その不躾な視線に、リトのこめかみがひくりと引き攣る。
「そうだな、何だったら俺様の側室にしてやってもいいんだぞ?」
「……はっ」
つい鼻で笑ってしまった。
っていうか俺様って。
……残念な頭の持ち主なのね。
「側室になんてなりたくないし、しかもアンタのだなんてお断りよ!」
こういう意味なく威張る人種は嫌いだ。
無駄なプライドなんて圧し折ってやりたいわ。
ぽっきりとね!
ヴィーレはぽかんと口を開けたまま、リトを凝視している。
「俺様にそんな口のきき方をする女は初めてだ……」
当たり前だ。
王子にそんな口をきけるわけがないではないか。
いくらリトでも、普段ならここまで口は悪くない。
無難に挨拶でもして、さっさと退場することだろう。
今は他国に拉致されて、側室候補などというふざけたマネをされているからこそだ。
そしていつでも逃げ出せると思っているからこその行動である。
やはり残念な頭なのか。
「……まぁいいわ。それでは失礼」
茫然としたままのヴィーレを残し、リトは別宮へと戻った。
「ちょうど良かった」
廊下で革のリュックを持ったアデルに遭遇した。
自分で作った革のリュックなので一点モノだ。
間違える筈がない。
「早いわね。ありがとう」
ここは王宮だし、ドラゴンの亜種がいるのだろう。
アレならばかなりの速さで走れるはずだ。
革のリュックを受け取り、本の上で抱き抱える。
リュックの中にトーカの気配がある。
良かった、無事に入り込めたわね。
「ヴァン様には今日もお会いになられましたか?」
「……そうね。いつも図書館にいるみたいだから、これからも会うでしょうよ」
リトは図書館に入り浸るつもりでいる。
当たり前だ、そのために逃亡を延長しているのだし。
「そうですか。ヴァン様も中々側室が決まらないですからね、大歓迎ですよ」
必要以上に笑顔で、何か気持ち悪い。
失礼なのはわかるけど、言わずにはいらなれない。
「胡散臭いっていうか気持ち悪いから、その笑顔をこっちに向けないでくれる?」
別に好かれようと思ってないから言える言葉だ。
というか、嫌われようが傷付こうが、どうだっていい。
とにかくその笑顔、こっちに向けないでほしい。
アデルは笑顔のまま固まった。
さっきと同じようなパターンね。
気のせいかしら?
「……中々、失礼ですね」
「そうね。自分でもそう思うわ。だけど、人攫いに気遣うような寛大な心は持ち合わせていないの」
残念ね。
アデルは胡散臭い笑顔を引っ込めた。
無表情だけど、こっちの方がいいわ。
勿論営業スマイルも大事だと思うけど、時と場合と相手による。
「まぁいいでしょう。この調子なら側室になれそうですし、期待してます」
しなくていいし、ならないってば。
だけど油断させておいた方がいいだろうし、アデルの前ではあまり態度に出さないようにしよう。