4 王子たち
図書館で借りた本は全部読み終わった。
3冊だけでは足りなかったようだ。
明日はもっと沢山借りて来よう。
本を棚の上に積み上げて紅茶を淹れた。
リトのいる別宮にはそれなりの数のメイドがいるようで、用事があれば呼ぶように言われている。
しかしたかが紅茶一杯のために呼ぶなんて。
元々一人暮らしだし、何でも自分で出来るのだ。
別宮にいる貴族の娘とはわけが違う。
ポットがあればお茶なんてすぐに淹れられるではないか。
紅茶を飲んでいるとアデルがやって来た。
「ヴァン様とお会いになられたようで」
「は?」
開口一番何なのだ。
ヴァンに会ったからって何かあるのか。
というかコイツも図書館にいたのだろうか。
「ヴァン様は第一王子ですよ」
溜息をついた。
「何も知らないようですね」
「当り前じゃない。私はこの国の人間じゃないの。しかもいきなり拉致されて予備知識なんてあるわけないでしょ」
勝手に連れて来られてこの扱いか。
人違いなんだからさっさと帰せ。
「……説明しましょう。わが国の王子は3人」
「は?」
いきなりだな。
というか説明なんていらないんだけど。
図書館攻略したらすぐ逃げるんだし。
「第一皇子がヴァン様。第二王子がベル様。第三王子がヴィーレ様です。
誰の御子を身篭ったかわからなくなりますので、側室は兼任出来ません。
もちろん側室に上がらず、帰されることもございます」
それなら帰してくれ、いますぐに。
「我が国の王位は、継承時に一番御子が多い王子が継承します」
第一王子が有利ってわけじゃないんだな。
むしろあの病弱そうな感じ、一番不利か。
「ですので側室はいればいるほど良い。現王は10名を越える側室がいましたが、4人の御子しか生まれませんでした」
すごいな。
正室いれて11人なのに子供4人。
平均1人で1人以下だなんて。
うちは側室なんていないっていうのに子沢山だぞ。
分けてやりたいくらいだ。
あげないけど。
「あ、そうだ。私の家から荷物持って来て欲しいんだけど」
「荷物ですか? こちらで何でも揃えますが」
揃えてもらった方が品質的には良いものが揃うんだろうけど。
「愛用品じゃないと駄目なのよ。革製のリュックを中身を確認せずに、そのまま持って来て欲しいの」
中身を確認されるとトーカの存在がばれてしまう。
「男性に見られるのは恥ずかしいから、開けないようにお願いね」
「わかりました。遣いをやりましょう」
我が家は国境に近い場所にあるので、大した距離ではない。
問題は山なだけで。
「やぁ」
「どうも」
読み終えた本を返却途中、ヴァンに遭遇した。
図書館の主のようだから、会わない方が珍しいのだろうけど。
「魔術書、どうだった?」
「イマイチね。前に読んだ本とあまり変わりなかったわ」
著者が違うからと思ったのだが、言い回しや種類が少し違うだけで目新しいものは何もなかった。
「それならこれはどうかな。難易度は少し上がるけど」
「ありがとう。読んでみるわ」
読んだことのない魔術書だ。
上級レベルのようだからちょうどいいかもしれない。
「魔術は得意?」
「魔術より魔法の方が得意だわ」
最も、魔術の方が得意という人間は稀だ。
世界中探しても魔法が全く使えない人間はいないが、逆に魔術は1割程度の人間にしか使いこなせない。
「そう。僕は魔術の方が得意なんだ」
「珍しいわね」
宮廷魔術師でさえも、魔法の方が得意だという人間が多い。
「本当は魔術師になりたいんだけどね」
「なればいいじゃない」
魔法より魔術が得意だと言うのなら、魔術師になれる腕はあるだろう。
「……いつか、ね」
そう言って、寂しそうに笑う。
そういえば王子だったっけ。
王位継承が終わるまで自由に出来ないのかもしれない。
「大変ね。好きなこと出来ないって」
リトは自由に生きている。
趣味を仕事にしているし、嫌なことはしていない。
自給自足の一人暮らしも、あまり家族に賛成されていないのに、貫いている。
賛成されていないと言っても、心配だからとか寂しいからとかそういうことだ。
「君は好きなことしてる?」
「してるわね。好きな本を読んで、好きなものを作って」
「いいね」
「いいでしょう」
ついつい自慢げに笑う。
ヴァンが目を瞠る。
何?
王子に自慢なんてとんでもないとでもいうの?
誘拐犯の分際でそんなこと言わせないわよ。
「それじゃ私、本を物色するから」