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23 別れ3



朝食の後、図書館へ本を返し、厨房へ向う。

最後だと思うと寂しいが、側室云々と無関係なコーダとなら城下町で会える。

国は違うが距離にすればそう遠くない。


「今日は何を作るの?」


「甘くないバターケーキにするわ」


父親は一口サイズの貝殻型を使用しているが、一般に普及されていない。

代わりに用意してもらったのは花型。

一口サイズとまではいかないが、小さめでかわいらしい。


「甘くないのにケーキなの?」


「えぇ。食事用っていうか……すぐに出来るパンみたいなものね」


生地はすぐに出来るし、寝かせる時間も30分と短い。

小さめの型なら焼成もすぐだ。


チーズ入り、バジル入り、野菜入りなどを作り、生地を寝かせている間にサラダとソースを作る。

ソースはトマトをベースに辛味をきかせた。

これはつけてもつけなくても良い。


「ついでだし、甘いケーキも焼きましょうか」


時間も余ったので、焼成中に甘い生地を作る。

焼き上がった甘くないケーキとサラダで昼食にし、その間に甘い生地を焼く。


「ふふ、塩味のケーキなんて初めて」


出来上がりが早いので、パンがなく急いでいるときにちょうど良い。

色々バリエーションもあり、形もかわいいので姉や妹も大好きだ。

 

「もう、帰っちゃうの?」


「えぇ、明日帰るわ」


しょんぼりとしてしまったコーダに優しく声を掛ける。


「隣の国っていってもすぐそこだわ。城下町に来たら、会ってくれる?」


「ッもちろん!」


嬉しそうなコーダを見て、リトも嬉しくなる。

リトにとって初めての友達だ。






一通り別れの挨拶も済み、あとは明日の迎えを待つだけだ。

アデルが反対していないので、明日は正面から帰ることが出来る。

拉致されたことは今でも気に食わないが、貴重な体験ではあるし、許してやろう。

訴えることはするまい。


「ちょっと、帰るってどういうこと!?」


エリーザが勢いよく扉を開けた。

ノックはなしか。


「そのままの意味よ。家に帰るの」


「まだ……まだ、勝負がついてないじゃない!」


いや勝負してないから。

しかも勝負してたならどう考えてもリトの圧勝ではないだろうか。


「いいじゃない、これで私が側室になる可能性はゼロよ」


「このままだなんてあたくしのプライドが許さないのよ!」


何のプライドだ。


騒がしくしていたせいで、人が集まって来る。

メイドに混じって王子たちもいるようだ。

ちょうどいい、止めてもらおう。


「ちょっと、聞いてるの!?」


エリーザが魔法を放つ。

余所見をしていて反応が少し遅れてしまった。

髪の毛が少し切れた。

先の方なので問題ないが。


「とにかく、人も集まってきたし、おしまいよ。さあ、お部屋に戻って」


しかし部屋の中で戦闘用魔法とは頂けない。

城が壊れたらどうするんだ。


「その必要はない」


「リゲル、いたの? 帰るのは明日でしょう?」


何か様子がおかしい。


「その子供、リトの髪を切ったな?」


声が怒っている。

こんなリゲルは珍しい。


「死んでも良いということだな?」


「いや先の方が少しだけよ、いいじゃないそれくらい」


「それくらい、だと……? キイトから譲り受けたその絹のような黒髪を、それくらいだと?」


「あああああ、違う、違うのごめんなさい。でも子供のしたことよ、許してあげて!」


「あたくしは子供じゃないわ!」


「ほう……」


リゲルがにやりと笑う。

余計なこと言わずに黙ってて!

膨大な魔力が放出され、知らず汗が浮かぶ。

身体が恐怖に震える。

リゲルはこれでもエトランの”魔女”。 

人は誰しも魔法が使えるというのに、”魔女”という異名がつくほどの実力者。


「リゲル、やめて」


魔力耐性が弱い人はすでに気絶しているレベルだ。

メイドの大半は気絶しているし、王子たちも辛そうにしている。

ヴァンが魔力耐性が強いのか、わりと平気そう。


「……すまない、つい我を忘れた」


ふと、怒りを解く。


「しかし、だ。リト、金輪際この城に来ることは許さん。特にその子供と止められなかった者を見ると、ついうっかり手が滑ってしまうかもしれん」


淡々と言い放つ言葉に青褪める。

リゲルは意外と根に持つのだ。

そしてリトはリゲルに勝てない。


「大丈夫よ、この城に来ることはもうないわ」


もう会うことはないだろう。

そう思うと何故か息苦しく感じた。

ふと目が合っていまい、慌てて逸らす。

しまった、わざとらしかった。

今のは何か勘付かれてしまったかもしれない。



彼との別れが寂しい、だけじゃないということ。









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