21 別れ
懇々と続く”お話”にエリーザが青褪めた始めたちょうどその時。
アデルとベルがお迎えにやって来た。
エリーザが退室していくのをを見送りつつ、ベルに視線をやる。
何故コイツは残っているのだろう。
目が合うと突然、手を握られた。
何事。
「見事だった……!」
「は?」
ぶんぶんと握られた手を上下される。
何?何なの?
「素晴らしい鞭捌き! 美しかった……」
うっとりと囁かれ、鳥肌がたつ。
見てたの?
っていうか見てたならもっと早く人を呼べ!
「初めてみたときは気付かなかったが……なるほど、絶世の美女というだけある」
「は?」
だからそれは人違いだ。
っていうか近い近い近い!
リトが若干引いていると、アデルが戻って来た。
助かった。
アデルはベルの手元を注視して、気まずそうに目をそらした。
「……その、ベル様は、何というか……強い女性がお好きで」
「は……」
「凛々しい婦人といいますか。美しいことが前提にはなりますが、騎士などもお好きなようで」
「…………」
何も言うまい。
異性の好みなど人それぞれ。
「傭兵ほど粗野な者はさすがに連れて来れませんでしたので、ベル様お好みのご婦人は今のところ、ここにはおりません」
「他はいらん。リトさえいれば良い」
「言っておくけど、側室にはならないわよ」
「ならば正室にしよう」
「いやそういう問題じゃなくて。私そろそろ帰るのよ」
「帰る? はっ、逃がすわけないだろう?」
「家族が心配してるわ」
リトの不在に気付いているかどうかはわからないが。
「そうですね……一度帰ってご家族にご挨拶するべきでしょうか」
「……だから側室にはならないわよ。……正室にも」
一瞬、アデルが挨拶するのかと思った。
いやアデルも担当なんだし挨拶するかもしれないけど、そういう意味じゃなくて。
「とにかく、本当に帰らないと。家族が騒げば外交問題にもなりかねないわ」
むしろ攫ってくる前にそこを考えろと言いたい。
エトランの方が大国だし、問題になって困るのはリダインなのではないだろうか。
「一度帰っていただいて、正式なお話はそれから致しましょう」
まだ言うか。
しかしアデルが帰宅を推すことに違和感を覚える。
身元が判明してしまったのだろうか。
「そもそもあの山の管理は私がしてるから離れられない決まりなの」
嘘だけど。
管理のようなことはしてるけど、決まりなんてない。
「代わってもらえば良いでしょう? ……ご家族に」
久々に胡散臭い笑顔みたわ。
……コイツ、調べたな。
昨日マチルダに声をかけられたのが痛かった。
どこまで調べたんだか……。
とにかくこのまま話しても折れそうにない。
図書館の本も大分は読めたし、本当にそろそろ帰ろう。
帰ってしまえば側室云々も有耶無耶になるだろうし。
2人を追い出して図書館へ向かう。
最後だし、リダインらしい本にしよう。
歴史の本と郷土料理の本を数冊選んだ。
「リト、おはよう」
「おはよう」
「朝から大変だったみたいだね」
「もう知ってるの?」
「本人が報告に来たからね」
肩を竦め溜息を吐く。
「あの子は懲りないから、また何かあると思う。気を付けて」
「あぁ、大丈夫よ。明日か明後日にでも帰るから」
「え?」
「エトランの家に帰るの。明日も会う気がするけど、今までありがとう」
ヴァンと本の話をするのは楽しかった。
「そんな……どうして?」
「私はエトランの家が好きなの」
「リト……」
手を伸ばしヴァンの頬を撫でた。
「ごめんなさいね」
別れは寂しいが、帰らないという選択肢はない。