18 お茶会2
彼女たちは固まったあと、何事もなかったかのように話題を変えた。
失礼なとは思うものの、老け顔は自覚済みなので気にしない。
菓子をこっそりトーカにプレゼントしつつ、適当に相槌をうつ。
王子の話からお家自慢、流行の話と移り変わる。
お家自慢に興味はないが、流行には多少興味を持っている。
雑貨作りに関係するからだ。
しかしさっきからルナシアとフィオーナが組んで、攻撃を仕掛けてくる。
攻撃といっても物理的なものではなく、厭味だとかそういうものだ。
正直ダメージなんてないが、うっとうしい。
リトはともかく、アリスは少々表情が暗い。
同情はするがどうしようもない。
「私はあの方に信頼されているの。逆らわない方がよろしくてよ」
あの方と暈しているが、要は正室候補の後ろ盾云々を匂わせているらしい。
いや暈してないだろ、という突っ込みはやめておく。
はげしくどうでもいい。
だが前々から疑問に思っていたことがある。
「妨害は勝手だけど」
紅茶が美味しい。
トーカもサブレを気に入ったようで、それだけでお茶会に来た甲斐があった。
「側室出来なきゃ子供も出来なくて、正室候補も正室になれないんじゃないかしら?」
側室候補を悪戯で妨害って意味あるのかしら。
「「あ」」
「…………」
何それ、気付いてなかったの?
「まぁいいわ。私は側室になる気はないからそう伝えて頂戴。その正室候補とやらに。下らない悪戯はするだけ無駄よ」
「ねぇフィオーナちゃん、どうしたらいいのかしら?」
「うーん、側室になるつもりないって言ってるし、良いんじゃないかしら」
「そうよね。じゃあ、エリーザ様に報告しなきゃー」
ぽむ、と手を合せるルナシア。
にこにこ相槌を打つフィオーナ。
メイドを呼び寄せ、手紙を渡す。
メイドが立ち去ったことを確認し、ルナシアはにっこり笑った。
「じゃあお茶にしましょ」
何がどうしてそうなった。
っていうかずっと飲んでるから。
そして口調が違いますお嬢さん方。
「リトちゃんはどうして側室になりたくないの?」
リトちゃん……。
ここは流すべきよね……。
「結婚する気は今のところないのだけど、どうせするなら自分だけを愛してくれる人がいいわ」
どうせ結婚するなら両親みたいになりたいと思う。
……いや子供の前でもいちゃいちゃしたいとかそういうことではなく。
「そういうものかしら。よくわからないわ」
ルナシアがこてんと首を傾げる。
貴族は政略結婚が多いのでそれが当然の感覚なのかもしれない。
そもそもリトは誰かを好きになったこともない。
最も同年代の異性なんてほとんど知らないが。
態度の軟化したルナシアとフィオーナ、未だ現状が把握出来てないらしいアリス。
何故かお茶会はほのぼのと進行し、お開きとなった。
もっとこう、殺伐とした空気を想像していただけに肩透かしだ。
しかし収穫はあった。
正室候補の名前はエリーザ。
ルナシアとフィオーナに指示し、リトやアリスの王子との接触を遮ろうとしたと。
2人に訊ねたらぺろりと吐いた。
秘密ではなかったのだろうか。
大丈夫かこの2人。
いやそれはエリーザの人選ミスとしか言いようがない。
ネズミのことは知らないらしいので、エリーザ本人(といっても使用人だろうが)か、別の側室候補に指示を出したのだろう。
裏庭から直接部屋に戻る。
今日は疲れたし、早く休みたい。
「って思ったのに何故いる」
髪を掻き上げながら首の角度は45°か?
そのポーズはもういらない。
「人が心配して来てみれば……。何事もなかったようだな」
「えぇ。何事もなく無事にお茶会は終了しました」
これで遅効性の毒物が混入されでもしてたら天晴だ。
トーカが何も言ってこなかったのでそれはないと思うが。
「無事ならいいんだ」
安心したように表情を緩ませる。
「……何故?」
無事を願うほど親しくもないし、ベルはリトを好ましく思っていないのではないだろうか。
どうでもいい人間を心配するほど慈愛に満ちた性格でもないような気がする。
「……礼を、言いたくて」
「礼?」
「あぁ。兄上が俺達に笑いかけてくれたことなんて、それこそ10年はなかったことだ」
「……それと私にどんな関係が」
「リトのおかげで吹っ切れた、と」
「はぁ」
何事だ。
とにかくヴァンがベルとヴィーレに笑顔を向けて、それが久々だと。
まぁ良いことなのね?
何もした覚えはないが良い方向に物事が進んだというのなら、それはそれで。
「ありがとう。感謝している」
言いながら額にキスされたので、とりあえず鳩尾に一発打ち込んでおく。
そろそろ不敬罪で死罪になってもおかしくない気がする。