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1 夜中の訪問者


スパイスを利かせたひき肉と、葉野菜とトマト、チーズを組み合わせ、米にのせた。

アツアツのそれを頬張ると程良い辛さで食が進む。

オニオンスープの甘さが良い組み合わせだ。

一人と一匹で囲む食卓。

いつも通りの光景だ。

ごくたまに隣山に住む家族と食事をすることもあるが、今は旅行中で不在。

一人が好きなので特に寂しいとも思わない。



魔動石式ランプの灯りで夕食を終え、早々に就寝。

リトは早寝早起きが基本だ。

ベッドに潜り込む。

昼間に干して置いたので、ミントとお日様の匂いがする。

近くに人気はないので、天窓から降り注ぐ月と星の光だけ。

今日はいつもより気持良く眠れそうだ。









夜中に物音で目が覚めた。


「ん、何……?」


安眠妨害なんてここで暮らしてから、一度もなかったことだ。

元々魔物除けされているし、人も滅多に寄り付かない。

何より夜にこの山で活動するなど自殺行為だ。


控え目に扉をノックしているようだが、遠慮するくらいなら初めから夜中に来るなと思う。

仕方なくベッドから這い出て扉を開ける。

不審者だと困るので武器の携帯は忘れない。


「どなた?」


扉越しに声を掛ける。


「夜中に申し訳ない。道に迷ってしまって……。朝まで休ませてもらえないだろうか」


嫌だ。

しかし春先とはいえ、夜中は冷える。

この辺りに他に民家はないし、魔物が出ないとはいえ山を下るのは危険だ。

ランプを灯し、仕方なく扉を開ける。

リトよりも年上に見える青年が二人。

白銀の胸当てや手甲などには花の紋章と薄紫の石。

隣国の騎士の装備である。


「どうぞ」


部屋の中央、テーブルへと促した。

ジンジャーを加えたハーブティを用意する。


「どうぞ、温まります」


「ありがとうございます」


騎士たちが一息吐いている間に、寝具の準備を整える。

幸い予備を用意してある。


「隣の部屋に寝具を整えましたのでお使い下さい」


「ありがとう、申し訳ない。家主はもうお休みかな? 出来れば挨拶を……」


黒髪を短く刈った騎士が立ち上がり、申し出る。

家主はリトだ。

一人暮らしなので、リトしかいない。


「家主は、私です。この家には私しか住んでおりません」


騎士たちが目を瞠る。

うん、何が言いたい。


「若い女性がこんな山奥に……?」


「一人だなんて、心細いでしょうに……」


余計なお世話である。

リトは好きで一人山奥に住んでいるのだ。

それに家族と住んでいたときから山奥住まいである。


「別に、快適な生活を送っていますから。私はもう休みますので、あなた方もどうぞお休み下さい」


言い捨てて、寝室に籠もる。

寝室は仕切りを隔てて向こう側だ。


「はぁ……」


面倒臭い。

身内以外の人間と関わるのは苦手なのだ。

さっさと寝てしまって、明日の朝にはさくっと追い出してしまおう。


警戒心がないわけではないが、すんなりと眠りに落ちた。












「ん……」


ぼんやりと目を開ける。

いつもより日の光が少ない気がして、違和感を覚える。

今日は雲が多いのだろうか。


寝ぼけた頭のまま、シーツの隣を弄る。

ひんやりとした感触がない。


「トーカ……?」


もう出掛けたのだろうか。

朝食も食べずに出掛けるとは珍しい。


そこではたと気付く。


「は……?」


私の部屋じゃない。

そこは知らない部屋の中。

やたら華美な広い部屋。

赤のカーテンやカーペットには金色の刺繍。

趣味が合わない。

どうせお金をかけるなら、もっと違うデザインにしたい。


「お目覚めですか?」


昨日の騎士の片方だ。

くすんだ金髪に青い目。

リトをじっと見つめ、微笑む。


「どういうこと?」


「見ての通り、私はリダインの騎士。ここはリダインの王宮です」


「はぁ?」


「昨夜は貴女様をお迎えに参上したのです。……側室候補として」


側室候補……?

って側室!?


言葉を失ったリトに、騎士は何を勘違いしたのか満足そうに微笑んだ。










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