17 お茶会1
お茶会当日である。
早めに昼食を済ませ、ゆっくりと過ごす。
体力温存だ。
ドレスは袖の膨らんだ薄紫。
リトにはピンクやオレンジのかわいらしい色は似合わない。
そのため黒や紫、赤を好む。
1人でドレスを着用出来るのでメイドは呼ばず、着々と準備を進める。
髪は編み込みひとつにまとめただけなので、ひとりで十分。
「トーカも来る?」
訊ねるとしゅるりと袖口に入って来た。
行きたいらしい。
それでは裏庭へ行こう。
本来のお茶会なら手土産が必要なのだが、今回は別。
主催者の家ではなく城内だからだ。
裏庭には主催者であるルナシア・ヘルメスとメイドしかいなかった。
ルールその一。
名乗る。
「お招き頂きありがとうございます。リトと申します」
ルールその二。
褒める。
本来は庭や屋敷とドレスなどに賛美を贈るのだが、ここは主催者の庭ではない。
「素敵なドレスですね。……縦ロールも、素敵ですね」
褒めるって難しい。
御世辞って言ったことないんだもの。
気の利いたことなんて言えない……。
でもその縦ロールはある意味素敵だ。
初めてみたわ。
「ありがとう。主催者のルナシア・ヘルメスよ。家名を名乗らないなんて失礼ではなくて? 家名がないのかしら?」
小馬鹿にしたように笑う。
あまり好感のもてる人ではないわね。
「他国の人間ですので、家名は名乗らないようにしています。申し訳ございません」
貴族は家名を名乗ることが常識で、名乗らねば平民。
一般的にそういうものではある。
しかしリトはあまり家名を名乗りたくないのだ。
余計なトラブルは避けるに限る。
白いテーブルにイスが4脚。
メイドは立ったままなので、多くてあと2人しか来ないということだ。
アデルが招待状を預かったという2人だろうか。
程なくして小リスのような少女が現れた。
一つに束ねた髪がくるんとカールして、リスのしっぽのようだ。
かわいい。
「アリス・プーチと申します。本日はお招き頂きましてありがとうございます」
時間ぎりぎりにもう一人やって来た。
背の高い、すらりとした美女。
身長はリトと同じくらいありそうだ。
「フィオーナ・モスと申します。私が一番遅かったようですね。申し訳ありません」
「いいのよ。さぁ、座って」
顔見知りなのだろうか。
何となくそんな感じだ。
全員揃ったところで、いよいよお茶会がはじまる。
メイドによりお茶やお菓子が配られる。
「ふふ、本日はお越し下さってありがとう。ぜひ皆さんとお話してみたかったの」
ルナシアが小首を傾げ、楽しげに笑う。
何の話しをしたいというのだろう。
この世代の人間に耐性がないのだが、うまく話せるだろうか。
コーダはたまたまうまくいったが、コーダが変わっているということはわかっている。
そして何故こうなった。
「やっぱりベル様ですわ! あの美しい顔、達振舞い!」
ナルシーなだけじゃ……。
あぁ、ナルシーって普通の人には通じない言葉だったかしら。
説明出来ないわね。
「アデル様も素敵ですわ。あの優しい笑顔が素敵!」
……優しい笑顔?
「あら、それをいうならヴァン様の儚げな雰囲気も素敵だわ」
儚げ……まぁそれはわからんでもない。
というかこの会話。
無理。
どうやって合わせたらいいの。
どうにか相槌をうつだけの聞き役に徹しているが。
「リト様はどなたが素敵だと思う?」
キタ。
正解は誰なの?
一番人気のあるベルだって言うべき?
それとも一番名前が出てないヴィーレ?
わからない。
彼女たちは同意を得たいの?
それともライバルじゃないことを確認したいの?
「えぇ……と、ヴィ、ヴィーレ様が素敵だと思うわ……」
我ながらぎこちない。
難易度高いわこのお茶会!
正直舐めてた。
「あらぁ、ヴィーレ様とは年が離れすぎてるのではなくて?」
ルナシアがくすりと笑う。
言外にオバサンひっこんでな、と聞こえるのは気のせいだろうか。
だがしかし、だ。
「……1歳差なんだけど」
「え?」
「老けて見られるけど私、他の王子よりもヴィーレ様が一番年齢近いんですけど」
実はそうなのである。
今まで実年齢より上にしか見られたことはないが、まだ若いのだ。
「「「………………」」」
え何この沈黙どういうこと。