16 お茶会前日
明日お茶会だが、今日は予定がない。
意味があるかどうかはわからないが、会場の下見をおこなう。
春の花が咲き乱れ、美しい庭園。
裏庭とは言え手を抜いたりしていない。
いい仕事をする庭師だと思う。
今のところ何の仕掛けもないようだ。
それもそうか。
仕掛けるなら夜間だろう。
今から仕掛けてばれてしまっては元も子もない。
造り自体はありふれた中庭なため、何か不測の事態が起こっても問題なく対処できるだろう。
図書館へ行き、礼儀の本を借りる。
今日はゆっくりこれを読もう。
礼儀作法は一通り習っているが、国が違えば何かしら違いがあるかもしれない。
「リト」
「あら、こんにちは」
「こんにちは。昨日は突然押しかけてごめんね」
ヴァンが微笑む。
「別に気にしてないわ。それよりも昨日話たかったことって何だったの?」
「ああ……ただ少し話したかっただけで。ヴィーレがいたからああ言っただけ」
「ヴィーレのこと、嫌いなの?」
あれだけ分かり易く慕われておいて悪い気はしないと思うんだけど。
裏があるのならともかく、ヴィーレに裏はなさそうだし。
まぁ王位の問題とか色々あるんでしょうけど。
「嫌い、っていうわけじゃないんだ。ただ……妬ましいだけっていうか」
「は?」
「僕にはない健康な体があるってだけで」
ぽかん。
それだけ?
いや当人にしてみれば、”それだけ”ではないのだろう。
リトの目線だとヴァンはそんなに病弱に見えないけど、実際のところはわからないわけで。
「……へぇ。ヴァンは健康な体で何がしたかったの?」
「え?」
「羨むのなら、何かしたいことがあったんじゃないの?」
今度はヴァンがぽかん、だ。
何故?
様子のおかしなヴァンは放っておいて、部屋で読書に勤しむとしよう。
放心状態のヴァンに一言かけて、図書館を後にした。
「これなら問題なさそうね」
読み終えた本を閉じて、テーブルに置いた。
この本に書かれていることに関して相違点はないようだ。
元々言葉も同じだし、文化もそんなに違わないのかもしれない。
冷めてしまったお茶を飲み干し、安眠効果のあるハーブティを淹れ直す。
お茶会は明日の午後。
今日は早めに寝てしまおう。
「って、思ってたところだったんだけど」
「明日お茶会に招待されているそうだな」
「人の話聞きなさいよ」
やはり髪を掻き上げるベル。
金髪が煌めく。
綺麗な髪だとは思うが、何かこう……受け付けない?
「気をつけろよ」
その言葉にリトは思わずベルを見上げた。
「気をつけないといけないことがあるの?」
「いや……」
ベルは言葉を濁すことが多いように感じる。
何というかじれったい。
「正室候補?」
「もう聞いてるのか」
「ほんの少しね」
本当に少しだけだ。
ヴァンに聞いた、悪戯好きだという彼らの従姉妹。
「過激なことはしないと思うんだが……」
一体どんな人なの、正室候補。
帰る前に一度くらい会えるかしら。
「大丈夫だと思うけど、ありがとう。気をつけるわ」
そもそも”悪戯”という言葉で済んでいるのなら問題ないだろう。
大抵のことは対処出来ると思っている。
自信過剰だろうか。
しかし腕に覚えもあり、弟妹もいるため悪戯に対する耐性もある。
「皆元気かしら」
しばらく会ってないなと思うことはザラだったが、それでも隣の山だし、と安心していた。
それがいざ距離が出来てしまうと不安になってしまうものなのだろうか。
「恋しいのか?」
「そうね。恋しいから帰してくれる?」
「俺の側室になるのなら、里帰りの許可を出そう」
「遠慮するわ」
それなら逃亡する方がいい。




