14 さてどうしよう?
さて今日は厨房へ行こう。
アデルから今日はヴィーレと訪れるので、夜食が食べたいを連絡があったのだ。
試したいレシピもあるし、材料をわけてもらわないと。
まずは午前中に図書館へ行って本を借りて……。
昼過ぎに厨房で試作がてら昼食とコーダとおしゃべり。
厨房では自由に出来るので、トーカも嬉しいだろう。
リトは自分の中で予定を立てることが好きだ。
そしてその邪魔をされることは嫌いだ。
だからこそのあの生活なのである。
極端だということは重々承知。
しかし身内はともかく、他人には迷惑を掛けていない。
それでよし、ということにしておいてほしい。
図書館は相変わらず閑散としている。
さくっと本の返却を済ませ、物色を始めよう。
さて、今日は何の本にしようか。
迷った末、農業関係の本を数冊選び取る。
ついでに家庭向けの本も探す。
家に戻ったとき参考にしよう。
「今度は農業?」
「えぇ。あとは工作の本にでもしようかしら」
「本当に色々読むんだね。僕でもそこまで読まないよ」
図書館で見掛けるとき、ヴァンは大抵魔術書を読んでいる。
以前何でも読むとは言っていたが、やはり魔術が好きなのだろう。
厨房で材料を分けてもらい、袖まくり。
さて何から作ろうか。
まずは東大陸の名産品である、茎漬けを刻む。
これを炊いた米の上に乗せ、香花茶を注ぐ。
習ったレシピはこれだけなのだが、折角の石鍋、粥風にしてしまおう。
茎漬けは濃い目の味なので、他に味付けはいらない。
「簡単なのに、美味しい~!」
「それは良かったわ」
「これだけ簡単だと、賄いにぴったりだな」
材料さえ揃うなら、米を炊くことが一番の難関である。
米は主食としてあまり普及していないのだ。
「次は? 何を作るの?」
コーダが目を輝かせて訊ねてくる、が。
「コーダ、アナタ、仕事は?」
「あ……」
コーダがちらりとダニエル料理長を窺う。
盛大な溜息。
「……しっかり、習うんだぞ」
「……ッ! 料理長大好きっ!!」
「阿呆」
リトはリダインの料理を教えてもらいつつ、こちらになさそうな料理を作っていく。
毎日出される食事は貴族向けなので、家庭料理を学べるいい機会だ。
リダインにおける一般的な食材の調理法が訊けるのでありがたい。
「そういえば、リトはこのまま側室になるの?」
「ならないわよ」
なるわけがない。
「じゃあ、いつかはエトランに帰っちゃうのね」
そんな風にしょんぼりされると帰り難くなるじゃない。
かといって側室になるのは絶対に嫌なので帰るしかないのだが。
「折角仲良くなれたのに……」
「遊びに来るわ」
苦労して侵入しなくても、城下町で会うという手もあるのだし。
「きっとよ?」
寂しげに微笑むコーダに胸が痛んだ。
熱く熱した石鍋に炊いた米と茎漬けを入れ、手早くかき混ぜる。
そこに香花茶を注ぎ淹れる。
たちまちじゅわじゅわと沸騰し、粥のようになった。
仕上げの薬味をぱらぱらとかければ完成だ。
「今日のは簡単そうだったな」
「えぇ、簡単です」
そもそも火のない場所で石鍋料理なんて、簡単なものしか思い浮かばない。
リトは火の魔法も使えるが、威力があっても持続しないのだ。
料理は好きだがそうまでして凝ったものを作りたいとは思わない。
そもそも凝ったものを作りたいなら厨房に行けばいいのだ。
「いいですね、石鍋……」
アデルが呟く。
欲しいなら買えばいいのに。
「宿舎は自炊は出来ないのですよ」
あぁ、そういえば騎士だった。
独身の王宮騎士は強制的に宮内の宿舎住まいである。
「最後まで熱いまま頂けるという点も良いですね」
「ふひゃい、あひゅい」
何て言ってるのかわからないわよ。
口の中にものがある状態で喋るんじゃない。
3人で夜食を食べていると扉がノックされた。
何だ?
アデルがここにいるというのに、一体誰が?
ベルか?
「……どなた?」
「僕。ヴァンだよ」
「え?」
ヴァンが来るのは初めてだ。
確かに来て良いとは言ったが、予告なしか。
あれかこの国の男は女の寝所にいきなり訪れるのが常識?
いや側室候補だからか?
っていうか疚しいことは何一つないけど、この状態はどうしたら良いの?