表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

10  厨房

鉄製の片手鍋を大きく振るう。

リダインでは煮込む・焼くが主流で炒めるという調理法は珍しいようだ。

片手鍋の中の食材が宙を舞うたび歓声が起こる。

遣り難い。

遣り難いから見ないで欲しいんだけど。


アデルに用意してもらったのは、スパイス一式。

こちらの国ではあまり刺激物が使われないため、厨房にも数種類しかなかったのだ。

ほんの少し加えるだけで味がぐっと良くなるものもあるのに、なんてもったいないのだろう。


「おお……」


出来あがった異国の料理に、皆興味津津だ。

しかしこれは異国エトランではなく、父親の故郷の料理である。


「この、オムレツの下の赤いものは?」


「米よ」


米はリダインでも使われている食材だ。

ただし煮込み料理でしか見たことはない。

米は独特の臭みがあるので、そのまま食べるよりも味付けを濃くした方が美味しいと思う。

これはトマトとスパイスをふんだんに使い、刺激のある味付けに仕上げてある。


米を炊いてなおかつ炒めるという調理法は珍しく、概ね好評だった。

アデルの分に一人前、容器に入れてもらう。

魔術を使えば温め直すことが出来るので大丈夫だろう。


「エトランの料理っておもしろいですね! また作って欲しいです!」


「いくらでも」


厨房を貸してもらっている身である。

それくらいお安い御用だ。


「あれ……? リトさん、今、カバンが……」


革のリュックから、するりとトーカが現れた。

匂いに釣られたのかもしれない。


「トーカ、お腹が空いたの?」


皿を差し出すと勢いよく食べ始める。

悲鳴を上げるかと思ったが、コーダはぽかんとトーカを見つめているだけだ。


「へ、び……?」


「えぇ、私のペットなの」


「はぁ……変わったご趣味なんですね」


それで済ませてくれるならありがたい。

魔物だということには気付いていないようだし、助かった。


「トーカというの。他の人達にばれると厄介だから、よろしくね?」


ここの厨房の人たちは何故かリトに好意的なので、悪いようにはならないだろう。



「しかし興味深いな」


ダエニル料理長が顎に手をあて、呟く。

一瞬トーカのことかと思ったが、料理の方らしい。


「異国とはいえ隣の国で、こうも味付けが変わるとは……」


「あぁ……いえ、エトランよりも遠い国の料理です」


「ほう?」


「父の出身国ですので、大陸すら違います」


他にもスパイスの遣い方や炒めることに関して話が盛り上がる。

リダインには炒めやすい鉄製の片手鍋もないらしく、珍しがられた。

アデルに頼めば数を増やしてもらえるだろうか。


「他にも色々食べてみたいな。また来るんだろう?」


「えぇ、そのつもりよ。お邪魔じゃなければお願いしたいわ」


「邪魔だなんてとんでもない! ぜひまた来てくれよ!」


「トーカちゃんも連れて来てね!」


いつの間にか、コーダはトーカと仲良くなったらしい。

蛇が好きという人は珍しいので吃驚だ。

身内ですら一部はトーカに近付かないというのに。


「それじゃあ、また。今日はありがとう」


トーカがリュックに入るのを確認して、厨房を後にした。









アデルが頼んでおいたものを持って、訪ねて来た。

約束通り昼間に作った料理を差し出す。

魔術で温めたので味はあまり落ちていないだろう。


「美味しいです!」


「そう? それは良かったわ」


今のところ、スパイスが苦手という人はいないようだ。

リダインの味付けとはかなり違うため、好き嫌いが別れるかと思ったのだが。



夢中になって頬張るアデルを見て不思議に思う。

……もっと上品に食べそうなイメージだったんだけど。

いつもと違い猫背気味だし、掻き込むし。


「いつもと違うわね」


「貴方の前で格好付けても意味ないですし」


「……いつも格好付けてんの?」


「格好付け、というより、騎士ですからね。それなりには」


そうね、確かに騎士は見られる仕事だし。


「いつもより、こっちの方がいいわね」


胡散臭くないし。


え、何でそんな目で見るの。

鳩が豆鉄砲というやつね。


アデルが何故か固まったままだ。


「何?」


「……何でもありません」


変なの。

まぁいいけど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ