第113話 「“偶然の侵入者”と、静かに崩れない日常」
■大学・突然の空気変化
その日、大学はいつも通りだった。
講義前のざわめき。
椅子を引く音にノートを開く音。
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だが―― その空気は、ある瞬間で変わる。
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「……え?」
「今の誰?」
「本物?」
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視線が一斉に入口へ向かう。
そこにいたのは――“斉藤もも”。
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■颯太は知らない
水上颯太は、その存在を事前に知らされていない。
いつも通り席に座り、ノートを開いているだけ。
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だから最初、気づかない。
周囲のざわつきだけが先に届く。
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「え、ももじゃない?」
「なんで大学に?」
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そしてようやく顔を上げる。
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■視線の中心
そこにいるのは、間違いなく“もも”。
ゆっくりと教室を見渡しながら歩いている。
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その姿は、まるで場の空気を持っていくようだった。
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(……来たんか)
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颯太の心の中でだけ、静かに反応が出る。
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■目的
ももは講義室の中央付近で足を止める。
そして、少しだけ深呼吸をしてから口を開く。
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「今日は少しだけ、お時間いただきます」
声は落ち着いている。
だが教室全体に届く強さがある。
ももは続ける。
「最近、私のことや周りのことについて、いろいろな話が出ていると思います」
「その中で、憶測や詮索が広がることがありました」
一度言葉を切り… そして、ゆっくり続ける。
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「でもそれは、誰かを傷つけるためのものではなくても」
「結果的に、関係ない人を巻き込んでしまうことがあります」
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教室は静かになる。
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■続く言葉
ももは、少しだけ視線を下げる。
「なのでお願いがあります」
「これ以上、私たちの私生活や関係について、詮索するのはやめていただきたいです」
「私も、普通に生活を続けたいです」
短い沈黙。
そして最後に付け加える。
「ただそれだけです」
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■空気の揺れ
教室はすぐには反応しない。
誰も言葉を探している。
その間に、ももは軽く頭を下げる。
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■杏香・綾音・絢佳の反応
後方席。
藍田杏香、蒲田絢佳、鎌田綾音。
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三人は目を合わせる。
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(やっぱり……)
(あの人は普通じゃない)
(でも、普通に接していい人でもある)
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杏香が小さく頷く。
綾音が視線を戻す。
絢佳が静かに腕を組む。
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そして、あえて“いつも通り”に接する。
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「久しぶりですね」
「今日は授業見学ですか?」
「相変わらず忙しそうですね」
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ももは少しだけ微笑む。
「うん、ちょっとね」
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普通の会話。
それが逆に教室の空気を柔らかくする。
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■颯太のもとへ
講義終了。
人が動き始める。
廊下に向かう人波。
その中で―― 人だかりができている。
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(……なんやこれ)
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颯太が近づく。
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■そこにいたもの
中心にいるのは、やはりもも。
学生たちに囲まれ… だが混乱ではない。
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むしろ“好奇心の静かな集中”。
その中で、ももは颯太に気づき… そして一歩近づく。
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■耳元の言葉
周囲には聞こえない距離でももが(颯太に)小さく言う。
「後で、してほしいことあるから」
「楽しみにしててね」
その一言だけ残し、少し離れる。
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■場の収束
そして彼女はそのまま、
周囲の学生たちに軽く握手しながら去っていく。
「ありがとうございます」
「今日は来てくれて助かりました」
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自然な動き。
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■夜・すべての意味が繋がる
夜。
家。
静かなリビング。
三つ子は眠っている。
そして、ももが現れる。
何も言わず、颯太の前に立つ。
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■答え合わせ
「後でって、これのこと?」
颯太の言葉に、ももは小さく笑う。
そして―― 唇を重ね… 深く、確かめるようなキス。
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そして離れてから言う。
「これでいいよね?」
颯太はゆっくり息を吐く。
(あの“後で”はこれか)
すべてが繋がる。
大学での言葉も、昼の行動も、今この瞬間も。
その後の風呂場。湯気の中。
二人の距離はさらに近く… 言葉は少ない。
ただ、確かめるような時間。
そして颯太は理解する。
この“偶然”は偶然ではなく、
最初から繋がっていた行動だったと。
日常は崩れない。
むしろ、静かに強化されていく。
外の視線は収まりつつある。
だが内側では、関係はより濃くなる。
そしてその中心にいるのは、
変わらず三人… 颯太、桃華、そしてもも。
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