第四話 美容院の洗礼
現在私は美容院に居る。
理由は髪の毛のせいで服が決められない。といういたってシンプルな結論に至ったからだ。
まるで、かの有名なホラー作「貞〇」とまるで同じ髪型な私の髪では、着せ替え甲斐の無いお人形だったようです。
そして現在私は美容室の椅子の上。そう、まな板の上の鯉状態なのです。
しかも私の言ってる美容院ではないので、無言という訳にもいかず…。
「雪乃ちゃんでいいのかな?私は美園って言います。よろしくね。」
「あ、よろしくお願いします。」
「髪を濡らすから移動しまーす。ついてきてね。」
そういってシャンプー台に案内された。
「雪乃ちゃん、あまり美容院に慣れてないでしょ?緊張してる?」
「はい、ものすごく緊張してます。今までは毛先を伸びた分切ってただけなので。」
「しかし、勿体ない!顔出せば結構モテそうなのに。視線が怖くて隠すなんて…。」
「私なりのシールドだったんです。」
「でも何でシールドを取り除こうと決心したの?」
「梨穂さんや、遥さん、楓さんのおかげで、心境に変化があったと言いますか…何というか。」
「はーい、髪濡らせたのでお席に戻りましょう。」
再び鏡の前の椅子に座らせられる。
「じゃぁカットしていきますよー。」
「ところで雪乃ちゃんは可愛くなりたいの?大人に見せたいの?」
「私としては来年に就職活動があるので大人路線が良いかなと思ってます。」
「梨穂ちゃん達には伝えたの?」
「いえ、言ってません。」
「それには理由があるの?聞いても平気なやつかな?」
「3人ともとても楽しそうに話していらっしゃって、私もそれを見て楽しい思いさせて頂いてます。そこに水を差すのはどうなのかな?と言うのが私の考えで。」
「別に言ってもいいやつじゃない?私が見てて思うのは、あの3人はそんな事で冷めたり怒ったりしないと思うよ?」
「はい、私もそんな気はしています。ただ勇気がないだけです。」
「勇気か…それ必要かな?いや必要なときはもちろん有ると思うのよ?でもお友達同士でさ、楽しく会話してる時にさ、自分の考えを言う事に勇気は必要ないと思うよ?」
「口に出して大丈夫でしょうか?」
「勇気が必要なときは、たいてい大参事なときだよ?友達同士が喧嘩をしててその仲裁をするとか、初めてバイトするとか、就活の時とかね、別れを切り出すとか、告白するとか位じゃない?」
「とても現実味があるお話ですね。」
「実際そんなもんよ?さっき、3人ともとても楽しそうに話していらっしゃって、私もそれを見て楽しい思いさせて頂いてます。そこに水を差すのはどうなのかな?って言ってたけど、私に言わせれば、それは意見交換をするだけの話だよ?」
「意見交換…そっか…うん…確かにそうですね。」
「みんな、雪乃ちゃんの意見聞きたいんじゃないかな?みんなアンテナ張ってると思うよ?」
「私の意見ですか?」
「そうそう、梨穂ちゃん達の人生でもあるけど、雪乃ちゃんの人生でもあるでしょ?4人は交わり友達関係を築いてる、理穂ちゃん達が意見を言うなら、雪乃ちゃんも言わないと。4人で居る意味あるの?3人で良くない?って話になる。聞いてるだけなら、居なくても回るよね?会話。」
厳しいけど言ってることは間違っていない。私は今まで聞いてばかりで会話にほとんど参加していない。喋れるようになったけど、それは相槌や受け答えしているだけ。そこに居る意味があるのかを問われている。人生の先輩は厳しい、そんな感情を抱きつつ会話していた。
「確かに私が居なくても回りそうですね、会話。」
「そんなの寂しいじゃない?せっかく仲良くなれたんでしょ?やっと手に入れたお友達でしょ?」
「はい、私にとってとても大切な友達です。」
「なら、言おうよ、参加しようよ、流されて美容院に来てる場合じゃないんだよ?」
「なんで解ったんですか?!」
「だって、今、雪乃ちゃん私に流されてるのよ?」
「え?どこがですか?」
「雪乃ちゃん、喋るの得意じゃないよね?」
「は、はい。あまり得意ではありません。」
「前回の美容院で喋らなかったんじゃない?携帯いじって。」
「なんで解るんですか?」
「え?そういう人たくさん見てきたもの、少し喋れば解るわよ?」
「でも、雪乃ちゃん携帯いじってるかしら?」
「!!」
「私とずっと会話してたよね?私のペースに流されて?」
「それは…」
「悪い事じゃないから、別に気にしなくていいのよ?話しやすいであろう話題を振ってただけだからね。気が付かなくても無理もないわ。」
「お友達の話してたので嫌ではなかったです。」
「そうでしょ?話している間にカットも終わったわよ?」
鏡に映った私の前髪は、分け目から超緩やかな曲線的にセミロングの長さにまで前髪がカットされていた。耳にかけても前髪が片目を隠していて、最初に聞いていた通りの形になっていた。
「じゃぁカットは終わったから、これに袖を通して。」
美園さんに言われるがまま、黒いマントの様なものを着せられる。
「あ、あの、終わりじゃないんですか?」
「カットは終わったわよー?」
「じゃぁ、これは一体?」
「これから髪を染めまーす。」
「え?なんでですか?聞いてませんけど?」
「うん、言ってないからね。」
私の周りには美園さんの他に2人のスタッフが追加されている。
「染めるのは初めて?」
「あ、はい。初めてです。」
「じゃぁ、誰かが染めてるのは見たことある?」
そう言いながらすでに作業は始まっていた。
「母が染めていたので知ってはいます。」
「なら、大丈夫ね!今回は少し明るめのブラウンだから就職活動に支障はないはずよ。」
「本当ですか?」
「大丈夫!雪乃ちゃんの性格的に営業職にはならないと思うし、事務ならもっと明るくても平気よ?」
「信じて大丈夫なんですよね?」
「雪乃ちゃんの希望する職業は何系なの?」
「IT企業系か公務員です。」
「公務員とは、堅実的な…志望動機は聞いても良い感じ?」
「安定収入、残業無し、営業も無さそうで、私に出来そうだからです。」
「動機が不純だけど、まぁ無難な選択肢ね。」
「褒めて無いですよね?」
「雪乃ちゃん、無難なのは悪いことじゃ無いわよ?」
「これで完了、15分から20分ほど時間を置くわよ、雪乃ちゃん飲み物は何が良い?」
「何があるんですか?」
「コーヒー、緑茶、紅茶、ハーブティが有るけど?」
「じゃあ、紅茶をお願いします。」
美園さんはスタッフさんにお願いして片付けを始める。
「じゃあ、アプリのインストールしようか。」
と、突然の言葉に動揺する。
「あ、アプリ?なんのアプリですか?」
「この美容院の専用のアプリだよ?予約したり、予約変更出来たり、ポイント貯めてサービスを受けたり出来るから、入れておいて損はないよ?」
「つまり私の美容院は、ここになると言うことですか?」
「そう言うことー!因みに染めたから1ヶ月から2ヶ月の頻度で来ないと、見っともない髪になるからね?」
「ちょっと待って!それはお願いして無いですよ?」
「梨穂ちゃんに頼まれてるよ?」
「私は同意してません!」
「しちゃったものを、あーだのこーだの言っても仕方ないじゃない?」
「何故確認してくれなかったんですか?」
「したら嫌がるからに決まってるじゃないの。それとも素直に応じた?」
「嫌がりますけど…」
「なら梨穂ちゃんの言った通り、確認無しでやるのが正解じゃない。」
「料金はどうなるんですか?詐欺になりませんか?」
「やだなぁ、人聞きの悪い…取りあえずお茶でも飲んで落ち着こう?」
紅茶を飲んだが落ち着くわけがない。でも、染めてしまったのは事実…
取りあえず気になっていることを聞いて見た。
「見っともない状態ってなんですか?」
「髪って伸びるでしょ?染まってない部分が伸びてくるから、2色ヘア、通称プリン頭になっちゃうの。」
「つまり、強制度が増したって事ですよね。」
「言い方を悪く言うならそうなるかな?でも次きた時に、黒く染めれば強制的に来なくても良くなるよ?」
「また染めるんですか?人の髪をおもちゃか何かと、勘違いしてませんか?」
「そうやって悪い方向に考えて、まずは変わった自分を梨穂ちゃん達に見て貰えるんだから、良いじゃない?」
「そうでしょうか、どこかまた流されている様な気がします。」
「あら、今度は自分で気づけたわね。別に、流されることが悪い事じゃ無いのよ?さっきからずっと私のペースで、流れでお喋りは続いてるけど、これは悪い事だと思う?」
「…いえ、正直お話ししていて学びもあり、有意義なもので有ると感じています。ただハメラレタ憤りもあります。」
「ハメラレタね、梨穂ちゃんは良かれと思って私に相談して来たのに、それを悪意として受け止めるの?」
「相談はして欲しいと思いました。」
「相談したらゴネるのが分かってた、時間も経過する、結果押し切られてやるのが私のは想像出来るけど?」
ぐうの音も出ない、今の私には、でも、だって、けどそんな抵抗する未来が見えた。でも嫌だと言う自分は想像できない。
「雪乃ちゃんが、どんな子なのか梨穂ちゃん達には分かってるのよ。さてソロソロ良いかな?流しに行くのでシャンプー台に移動するよ。」
髪を流してる間も会話は続く。
「しかし雪乃ちゃんは大事にされてるね。」
「そうなんですか?」
「さっきも話したけどさぁ?居ても居なくても良い子の為に、普通はここまでしないよ?」
「遊ばれてるだけじゃ無いですか?」
「多分後で分かるから、大丈夫。雪乃ちゃんは自分を出さないとねー。」
「どういう事ですか?美園さは占い師か何かなんですか?なんで分かってる様に、話を進められるんですか?」
「私は美容師だよ?他の何かに見えるの?」
「美容師さんです。」
「私は私でしか無いし、数時間しかない間に相手を理解して、会話をしてるだけに過ぎないわ。」
「美容院でここまでお喋りしたのは初めてです。」
「携帯いじるお客さんは、話しかけないでオーラが出てるからね、私も尻込みすることはあるわよ?」
「喋らない美園さが想像できませんけど。」
「もっと想像力を膨らませないと。」
髪を洗い終わったので、ガラス前の椅子に戻る。
あと数十分で終わるとのことだったので、MINEで3人にもうすぐ終わる事を伝えた。




