第一話 闇の中で初めての経験
私は東御雪乃。年齢は20歳。11月19日、大学3年生。
私の人生を一言で表すなら闇。
幼稚園時代から男子からいじめられ、小学校の中学年まで男子にはいじめられ続けていた。この頃から女子も一緒にいじめに参加するようになり、高学年でクラスで幽霊扱い、教科書が消える、靴が無くなる。
この頃から髪の毛を伸ばし始めると言うか、美容室に行くのも嫌になっていた。
中学生になっても幽霊扱い、教科書は残るようになったがノートが無くなる、靴がなく無くなったり、体操着が消えたり、わざとぶつかられたり。
高校に進学しても変わらなかった。体罰が増えた、中学時代のいじめは高校になってもスライド。制服のまま体育の授業を受けるのも日常。
髪が長すぎるので、美容院に行くようになった。話しかけられるけど、受け答えする勇気は消え、あるのはホワイトアウトした頭の中だけ。
大学は東京有名6大学、T大に進学。
しかし闇の18年を過ごした私に、話術などはないし愛想もない。そもそも髪の毛で目や口は見えない。
面接時はヘアピンで顔を出した。正直受かると思ってなかった。
第二志望のIT関係が強そうな大学受験してたのに。
親には絶対T大に行けと懇願されて断れなかった。
誰と会話することもないまま気が付けば3年生になっていた。
唯一話しかけてくれてた人がいた。同じゲーム同人サークルの同じ学年の男の子。
でも返事は一度もしたことはなった。彼が一方的に話すだけ。
頷くこともしない。ひたすらに無視していた。
この同じ学年の男子、大学内でも結構人気者で一人でいるのを見たことがない。
女の子たちも噂するほど人気。関りになってはいけない危険な人。
その日も変わらない一日。誰からも声をかけてもらうこともなく講義も終わり、サークルの部室へ向かう途中だった。
「よっ!」
同時に肩に手をかけられる。
と、同時に脳内ホワイトアウト。
戸惑ってる中、彼は話を続ける。
「今からサークル?ならいっしょに行こうぜ。」
慌てて、手を払い小走りで逃げに徹した。
「おーい、まてよー。一緒に行こうぜ。」
視線を感じる。早く逃げたいと足早に移動する。
「相変わらず無口だなぁ~。そんなんじゃ友達出来ないぞ?」
彼にとっては何気ない言葉だった。
しかし彼女には違った。声を出さないのは防衛反応なのだ。自己保身のためだ、傷つきたくない!
足早に急ぎ部室へ向かった。
「もー待てって~。」
ガン無視で部室に到着。私の席にそそくさと座る。
「もー、先に行っちゃうなんて、そんなに俺嫌われてるの?」
彼が入室早々に、雪乃は口に出した。
「やめて」
それはとても小さく聞こえるか微妙な声だった。
彼は東御の側に寄り聞き返した。
「ごめん、聞こえなかったからもう一度お願い。」
雪乃は部屋に私たち以外、居ない事を確認した。
「わ…私…私に…話……かけないで…やめて。」
雪乃は精一杯の反論だった。
「何か気に障った?いつもは無視だけだったのに、今日は答えてくれて。嬉しいけど悲しい回答で。なんで?」
「外で…話……かけな…いで……他…他の人…見てる。」
「見られるのが嫌なの?誰も気になんてしてないよ?自信過剰じゃない?」
私は会話をやめ、ノートに記した。
「あなたは気にしなさすぎ。あなたの噂を聞かない日なんてない。それだけあなたは注目の人。私なんかと話してるの見られたら、何されるかわからないわ。」
「私はあなたとは違う、幼稚園の4歳から18歳の高校卒業まで虐待、盗難、無視され続けてきたの。」
「小学校で体育着5回買いなおした事ある?」
「親にお願いしたことは?」
「中学校でも4回買いなおしてもらったことある?」
「靴が無くなるから、靴を下駄箱に入れずに隠して生活したことは?」
「教科書じゃなくてノートが無くなることはあるの?」
「体育館裏に呼び出されることは?
「無視されることは?」
「わざとぶつかられたりは?」
「体育を制服で受ける事あった?」
「水泳を制服で受けた事は?」
「食事中にバケツで水かけられたことは?」
「トイレしてても上から水被ったことあるの?」
ここで筆が止まる。我に返ったのだ。
髪の向こうに見える彼は、顔をゆがめ言葉が出てこないようだった。
筆を走らせる。
「大学では物が無くなったり、無視されたり、体罰されたりもなくなった。」
「でも目立つ行動は避けたいの。あなたは目立つから、私に関わって欲しくないの。」
「ほかの女子に目をつけられたら、生きにくくなる。」
彼はそっと口を開く。
「迷惑だった?」
私は書く言葉に悩んでいた。
彼は再び口を開く。
「外で話しかけるのが迷惑だって事かな?それとも人前で話しいかける事が迷惑なのかな?」
私は再び筆を走らせる。
「そうですね。それは正解です。」
「今ここには、私とあなたしかいません。だから会話できますが、一人でも来たら会話は終了します。」
「ほぼ、18年間いじめられてた環境に居たんじゃ、今更変えようとするのは難しいね。」
ノートの中で会話する。
「分かって頂けましたか?なので私には関わらないで下さい。」
「じゃぁ、MINE交換しない?文字なら会話できるんでしょ?」
「なんで私のMINEを教える必要があるのですか?」
「いや、暗い子なんだろうなぁとは思ってたんだけど、1年からずっと一緒にサークルやってるわけだし、友達になれないかなって思ってさ。」
筆を止めた
「どうしたの?友達欲しくない?今まで言えなかった愚痴とかも聞くよ?」
「僕も気になってたこと聞きたいしさぁ~。」
「また、僕の一人語りになっちゃったかな?」
「じゃぁ、いつもの始めますかぁ~。」
ノートに書きだす。
「少し考えさせてください。」
「おっけー!でも喋ってくれても良いよ?練習台くらいにはなるよ?」
「しかし、いじめか~俺は経験ないんだよなぁ。」
「よく生きてくれたね、本当に頑張ったね。」
「俺なら、耐えられないかもしれない。」
「登校拒否もしなかったの?」
雪乃は泣き声は出さなかったが、泣きながら絞りだした。
「登校…は…毎日……行った。」
「まじか、すごい精神力だね!俺なんて絶対ひきこもる自信しかないよ?」
「虐められるの解ってて、足が動く気がしない。」
「親は虐め知ってたの?止めたりしなかった?俺が親なら絶対止めるよ~。」
「命あってのものだからね、自殺でもされたら悲しすぎる。」
この後、他部員が来たのでお喋りは終わった。
帰り道、走って駅まで来たので息切れしていた。
付いて来そうな気がしたのだ。
駅のホームで息を整えながら、今日のことを振り返った。
何年ぶりに口開いただろう…こんな身なりだし。
お化け扱いされるのが落ちだし、でも、全然喋れなかった。
親とはもう少しまともに喋ってたと思うんだけど。
頭の中では喋れてるのに、言葉にすると詰まって言葉が出ない。
でも、彼とMINE交換なんてしたら、どうなるんだろう。
身バレしないかな、私の名前知ってる人なんて、両手で足りるくらいだし?
そもそも彼の名前も忘れてる。一年生の時挨拶したはず…したよね?
記憶とは時に曖昧である。
電車が来たので乗車。
ふと思った、バイトしたら喋れるようになるかな?
でもこの身なりだし、無理だよね…
と自己完結。
夕飯のメニューへ志向が変わった。
名も知らない同級生の彼と初めて会話してから1週間が過ぎた。
今日も講義終わりに部室へ着くと、彼は席を立ち私に向かって一言だけ言って部室を出て行った。
「待ってるから」
私は返事をすることもなく席に着くと、私のパソコンに付箋が貼ってあった。
「今日、サークル終わったら上野駅近くのビッグケコー上野駅前店に来てね。」
彼女の中で脳内会議が始まる
いや、まず時間指定がないし、いま彼は出発したんでしょ?すぐ来いって事?
て言われて、行ったら他の人も居たらどうする?
居なかったとして何が目的なの?
ここじゃダメなことなの?
何がしたいの?言い逃げって流石に無いような?
彼女の中で答えがまとまる。
いや、時間解らないし。一方的に言ってきただけだし。
私の返事もなしに出て行った訳だし。
行かなくても…いいよね。
その日、雪乃は約束の場所へは向かわなかった。
次の日、部室に行くと彼が待ってた。
「もぉ~、昨日なんで来てくれなかったの~?」
「22時まで待ってたのに。」
雪乃は久々にある感情がわいた。
苛立ちだった。
「嫌でも来てくれれば、無理強いはしないし。」
「8時間待つ方の身にもなってよ~。」
「じ、時間」
「え?時間?時間が何?」
「指定…なかった。解らない。」
「確かにしてなかったけどさ、普通来るでしょ?」
ノートを取り出して筆を走らせる。
「あのね、あんな一方的なのは約束とは言えないの。」
「まず場所は言ったのは良い。次は時間、いつ行けばよいのかわからないよね。」
「あなたの向かった時間と、私の向かう場合時差が生じるよね?」
「その時間の差時間つぶしで、どこかに移動したりするかもしれないでしょ?」
「行ってら多人数だったら怖くて行けないわ。」
「虐められてる人間が、カラオケなんて行った事があるとでも思ってるの?」
「人とのコミュニーケーションが欠如してるのに、他人と行動すると思いますか?」
「他人と行動しないのに、カラオケなんかに行くと思いますか?」
「行ったとして何をする気だったんですか?」
「これらの理由により帰宅しました。」
「多くない?!こんなに理由出てくるの?!」
「あなたに私は理解できないわ。」
「虐められてないし、孤独を感じたことも無いでしょ。」
「人がいる恐怖も、逆に居ない恐怖。」
「解らないから解ろうとしてるつもりなんだけど。」
「なら明確に約束しよう。」
「じゃぁ、明日!明日行こう。行先は前と同じ。」
「上野駅近くのビッグケコー上野駅前店。」
「時間は18時お店の前に集合で。」
「お断りします。行く理由がありません。」
「友達になりたいからさ、きっかけとして、まずは二人で練習しない?」
「練習?何の練習ですか?」
「人と話す練習、大学で誰かと話した事あるの?」
「その無言は無いみたいだね。大学卒業したら人と関わらないことはできない。」
「仕事上、誰かと必ず会話は発生する。」
「その際、少しでも喋れるようにしておいた方が安心でしょ?」
確かにその不安はあった、来年は就職活動が始まる。
面接は避けて通れない。来年には確実に訪れる試練。
でも、他の人が居たら…
「ゆっくり練習しよう?焦らすような真似はしない。」
そこで彼が初めて、顔が困った顔をした。
「君の名前知らないや、俺の名前は有坂優悟、有坂でも優悟でも好きに呼んでよ。」
「私は東御雪乃。」
「東御って珍しい苗字だね。東御さんよろしくね。」
自然と名前は言えた。
「どう?練習してみない?ここじゃいつ誰が来るかわからないから、不安でしょ?」
「カラオケボックスなら部屋に入りさえすれば、だれか来ることはないから。」
「誰も誘わない、二人だけでまずはフリートークが出来るようになろう。」
「喋ることがわからないなら質問でもいい。俺に聞きたいことがあればだけど。」
彼が一生懸命なのは伝わってきた。本当の目的が私の為ならば。
でも、他人のために本当にそこまでできるのかな?
私は…闇を抱えてる私には理解できない。
そして、怖い。裏切られたら、多人数だったら。
何か違う目的があるのでは…
頭の中がホワイトアウトしそうだ。
ノートで返答する。
「ごめんなさい、あなたの事がまだ信用できません。」
「いつも話しかけてたのに?」
確かにいつも話していた、独り言のように。
だけど話してる内容は聞いてないので全くわからない。
「あなたの独り言ってたのは、私に対してだったの?」
「東御さんが居る時しか、独り言は言ってないよ?他メンが居る時は静かだったと思うけど?」
やばい、あまりに無関心すぎてそんなこと全くわからない。
「東御さん同学年だしさ、勝手に親近感で話しかけてたんだよね~。」
「めげそうな時もあったけどね。」
私はノートで返信した。
「分かりました。明日のお約束お受けしますが条件があります。」
「行先は同じで構いません。時間も同じで構いません。」
「行くのは一緒に行きましょう。もし店の前で誰かいたり、店内で誰かに会ったら即帰ります。」
「なるほど、これはどういう意図?」
「私に知人はいません、なのでお店前で集団で待機されても解らず、近づいてしまいます。」
「一緒に行けば店前に誰かいたとしても、有坂さんに反応すると思うので、その時点で逃げれます。」
「部屋も中に人が居ればわかると思うので、逃げれます。」
「対集団時の回避行動です。」
「いや、二人だけだって、俺と東御さん二人だけ!」
家に帰り、食事やお風呂を済ませ、いざ布団に入ったら明日の事が気になって眠れない。
ちゃんと二人なのだろうか、話す内容は?
質問攻めでもいいって言ってたけど、少しは話のネタ考えなきゃ。
こうして夜は更けていった。




