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四神の王国  作者: カリカリテフロン
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弱き者

乾き草と藁が詰められた布団。

 自作なので布団と言うにはお粗末かもしれないが、ないよりはマシだ。

 足で蹴られた布団をまた子供達の上に被せる。


 その寝顔は世にも美しく、全てを知らない様に純粋で、そっと肩を揺らすだけで消えてしまう程に儚い。


 この小さな洞窟で、藁の防寒材に囲まれ、彼女を中心に子供達が寝ていた。


 異常に発達した聴覚を駆使して子供達の全てに聞き入る。藁が痒くて足を掻く音、先程まで布団を被ってなかった子供の鼻を啜る音、そして寝息と少し起きてる時の息の違いも聞こえる。

 

 最後の子供が寝息を立ち始めた時、雑魚寝している子供達を起こさない様に、慎重に布団から抜け出す。

 

 足を進める度に藁の地面は軋み、子供達を踏まない様にそっと歩く。


 夜風を防ぐドア――というよりは藁のカーテンだが――を開く。


 最後に振り向き起きた者はいない。

 それも納得。彼女が動き始めて約1時間、ものすごくゆっくり動いていたからだ。


「行って、きます」


 その掠れた声帯と小さな声は夜風にかき消されるほど小さかった。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ん、あれ?」


 藁のカーテンからさし光る朝日が子供の顔を照らし、一人の不在を気づく。


 子供達にとって姉兼母親のような存在。

 そんな彼女が居ないとなれば、少しでも探すのが子供なのだろう。


 少し匂う生臭い匂いも探す理由の1つだろう。

 

 ガサゴソと起き上がり歩き始める子供は、音も他の子も蹴りながら外を目指し、それが連鎖的にみんなを起こしていく。

 

 藁のカーテンを外には、女性が頭から足まで血まみれなままで振り返り、3メートル以上の惨殺されたクマを捌いていた。

 それも緑色の鎌に変身している鎌を使って。


「ム、ムシ姉!?何でここで血を抜いてるの!?ムシ姉も地面を血まみれじゃん!」

「あれ、どう、した?もう、おなか、空いた?」


 子供の疑問も驚きを通り越して、ムシ姉と呼ばれた彼女は何が悪いのかも理解していないかの様にたどたどしく、途切れ途切れに話す。

 

 かすれた声と言葉に詰まりながら話すのは、あの非人道的な人体実験による影響だろう。

 顔の表情も一切動く事なく、固まったように無表情である。

 

 だが、以前のように、何も変わってないかのようにその子供は接する。


「だから!ほら、見てよ地面が血まみれじゃん!」


 近づいて、黒く変色した地面を指さす。

 だが、その仕草でも何を言いたいのかが理解できていないのか、首をかしげる。

 

 いや、違うと彼を思い返す。

 

 彼は藁のカーテンへと戻って、赤いスカーフを身に着けるとまた外に出る。

 

「ア、アル。おはよう」


 そう呑気に挨拶するムシ姉を無視して、地面をまた指さす。


「地面!血まみれ!!ダメ!!!」

「……!ごめん、なさい…………」


 ようやくムシ姉は意図を理解する。

 本質を理解したかは別として、やってはいけない事は覚えたはず。


 彼女が理解できなかった理由。

 それは彼女が人ならざる者へと変質した時に、頭の中も変えてしまったからだ。


 「アル……怒ってる?」

 

 彼女は理解できない。

 子供によって自身に何かを要求する。

 それもご飯以外を要求している。

 地面が血や肉片の残骸が転がっている事が嫌だ。

 

 社会性も人ならざる物に変わり、この子供達は彼女の群れで、彼女の庇護下にいる者達と認識するようになった。

 アリの嬢王と働きアリの関係の様に、自身の役割を明確に持っているが、それだけしかやれない。

 

 それだからか、何時からか人の顔を認識しなくなった。

 いつも読んでくれた名前も当然結びつく事はない。


 野生動物を狩って子供達に運んでくる以外はぼーっと、子供達を見つめて微動だにしない。

 話しかけても会話が成り立つことは稀で、いつしか彼女に話しかける子供は少なくなった。

 

 あの研究施設で皆のまとめ役であり、心の支えであったムシ姉はもういない。

 あの実験の日々が奪ってしまったのだ。

 

 研究施設から皆で命ながら脱出し、森の中で生活するようになってから、彼女の生き方は子供達の生き方が噛み合うわけなく破綻していた。

 だからこそ、子供達の中では最年長でしっかり者――そうならざる負えなかった――アルは率先して子供達を統率するようになった。

 

 それだからか、いつしかムシ姉はアルを認識し始めた。

 

 皆で泣いて喜んだ日を覚えている。

 まだムシ姉は思い出してくれると、人の心を取り戻せると。

 

 その日からこれまで以上に皆ムシ姉と会話し、何が楽しいか、何が美味しいか、どれだけムシ姉が好きか、そんな話をし続けた。

 自分も思い出してくれると信じて。

 

 アルへの認識もまばらであったが、唯一認識されている子供として優越感もあり、得に気にはしていなかった。

 だが、春になり始めた頃、ムシ姉はぱったりとアルを認識しなくなった。


 自分が何か悪いことをしたのか。

 自分を嫌いになったのか。

 なんでまた忘れてしまったのか。

 そんな考えが頭を巡る日々で、その答えが突然出る。


 一人の子供が遊びでアルの赤いスカーフを振り回していた。

 自分が見つけた物は自分の物、そういうルールをアルが作り、そのスカーフもアルが森で見つけた物だ。


 その子が何も考えずに赤いスカーフを首に巻くと、ぼーっと座ってたムシ姉の顔がその子に向く。


 『アル……』


 ただただムシ姉は、その子供をそう呼んだ。

 

 後々分かったことだ。

 その赤いスカーフを着ている人、彼女は男子だろうが女子だろうが『アル』と認識する。


 他の子供達と違い、唯一子供達を統率するリーダーという役割を持つ子供、それが『赤いスカーフを巻いたアル』ってだけであった。


 

「アル……?」

「…………はぁ。ムシ姉はそのクマを川に持ってって水浴びして……皆起きて!スコップでここの土を掘って捨てるから!」

 

 そうやってアルは、クマを抱えてトボトボ去っていく――ただの印象であるが――ムシ姉を後ろ目で見ながら、石でできた自作スコップを取りに洞窟へと戻った。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これ運んでって。ふぅー、これで終わりだ」


 おでこの汗を服で拭くアルは、その少し凹んだ段差を見て何かに使えるかもしれないと思考していた。


 他にも寝起きで汗と泥まみれになった少年少女たち15人。

 生臭い土は少し遠い場所で積まれており、男子女子関係なく運び掘っていた。

 

「なぁ、ムシ姉遅くないか?」

「……川で水浴びしに行ったんでしょ?」

「もう直ぐ帰ってくるんじゃない?」

「あ、じゃあさ!私達も泥だらけだし、川まで探しに行こうよ!」

「ね、じゃあ行こ行こ!」

「ムシ姉と水浴びする」


 皆が好きに盛り上がり、総意で川に行く準備をしだす。

 水浴びの後の暖房として木材や着火剤。替えの服。洗い物の服と洗濯版。昨日使った汚れたままの木の食器。誰かが作った魚を吊った事の無い釣り竿。


 それらをかき集め、子供達は川へと向かった。

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