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描けない場所

その場所には、入口がなかった。

森を抜けても、道を辿っても、辿り着いたという感覚だけが残る。

気づけば、そこに“立っている”。

「……ここ?」

ユイは足元を見た。

土でも、石でもない。

けれど宙に浮いているわけでもない。

視線を上げると、空は白かった。

雲でも霧でもなく、ただ“何もない白”。

「やっぱり来たか」

背後から声がした。

振り返ると、一人の人物が立っていた。

年齢も性別も、はっきりしない。

顔を見ているはずなのに、印象が定まらない。

「あなたは……」

「名前を失くした者、だよ。

正確には――名前を失くしても、消えなかった者」

ユイの喉が鳴った。

「ここは、どこですか」

「世界の外れ。

名前が場所になりきれなかった、最後の残り滓だ」

その人物は足元を軽く踏んだ。

音はしなかった。

「ここは地図に描けない。

理由は簡単だよ」

――名前が、存在しない。

ユイは鞄から地図帳を取り出した。

白紙の頁にペンを当てる。

だが、線が引けなかった。

インクは落ちる。

けれど、線にならず、滲んで消える。

「……本当に、描けない」

「描けるのは、名前があるものだけだ」

その人物は微笑んだ。

「そして君は、名前を持っている」

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