1.4 初めての「シェア」:鬼塚先生の怪力
パニックになりながらも、俺は必死に考えた。あの声が言っていた「スキルシェア」。他人のスキルを借りる。誰かの力を借りるしかない。この状況を打開できるのは、もはやそれしかない。
その時、脳裏に一つの映像が鮮明に浮かんだ。それは、俺が通っていた高校の体育教師、鬼塚先生の姿だった。鬼塚先生は、柔道部の顧問で、その腕力はまさにゴリラ級。体育祭の綱引きでは、一人で相手チームを引っ張ってしまうほどの怪力だった。彼の腕は、まるで丸太のように太く、その拳は、どんな壁でも打ち砕くかのように見えた。もし、あの先生の「怪力」スキルが借りられたら……。
「対象の同意が必要です」
また、あの無機質な声が響く。同意? 今、俺の目の前にいるのは岩石狼で、鬼塚先生は地球にいる。どうやって同意を得るんだ? 直接話すことなんてできない。電話もできない。メールも送れない。
パニックになりながらも、俺は必死に考えた。同意……。そういえば、あの声は「対象の意識にアクセスし」と言っていた。もしかして、イメージするだけでもいいのか? 強く願うだけで、意識が繋がるのか? 藁にもすがる思いで、俺は試してみることにした。
俺は、目を閉じ、鬼塚先生の顔を思い浮かべた。彼の筋肉隆々の体、そしてあの豪快な笑顔。彼の「怪力」スキルが、俺の脳裏に鮮明に焼き付いている。
「鬼塚先生! お願いします! 力貸してください! このままだと俺、死んじゃいます! 助けてください!」
心の中で、魂の叫びのように強く願った、その瞬間。
体が、熱くなった。
それは、まるで体中に熱い電流が走ったかのような感覚だ。全身の筋肉が、まるで膨張するかのように盛り上がり、普段の何倍もの力がみなぎる。手のひらを見ると、うっすらと緑色の光が宿っている。それは、まるで生命の輝きのような、温かい光だった。その光は、俺の体から放出されているかのように、じんわりと周囲を照らしている。
「これ、が……スキルシェア?」
俺は、自分の体に起こっている変化に驚きながらも、その力を実感していた。体が、まるで岩のように硬く、それでいてしなやかになったような感覚だ。
岩石狼が、俺が固まっている間に、ついに飛びかかってきた。その巨体が、目の前に迫る。その口からは、鋭い牙が剥き出しになり、生臭い息が俺の顔にかかる。俺は無我夢中で、その岩石で覆われた巨体を、渾身の力で殴りつけた。
ドゴォォン!!
鈍い、しかし強烈な音とともに、岩石狼は吹き飛び、近くの巨木に激突した。全身の岩石が砕け散り、魔物はそのまま動かなくなった。木には、岩石狼がぶつかった跡がくっきりと残っている。
「す、すげぇ……!」
自分の拳を見つめる。先ほどまでの非力で、情けない自分とはまるで違う。これが、鬼塚先生の「怪力」スキル。本当に借りられたんだ。まるで夢のようだ。いや、これは現実だ。俺は、この異世界で、生き残ることができたのだ。