1.2 「スキルシェア」の響き
「スキルシェア……って、なんだ?」
あの声が最後に告げた言葉を反芻する。スキル? ゲームに出てくるような、特殊な能力のことか? だが、俺にはそんな力があるようには思えない。体に異変があるわけでもない。ただ、漠然とした不安と、疲労感だけが残っている。
考え込んでいると、突然、頭の中に直接語りかけるような、機械的で無機質な声が響いた。それは、耳で聞く音ではなく、脳の奥底に直接響き渡るような、奇妙な感覚だった。まるで、俺の脳に、何らかのシステムが直接インストールされたかのような、そんな非現実的な感覚だ。
「ようこそ、転生者よ。あなたは『スキルシェア』の能力を授けられました。この世界では、誰もが固有のスキルを持ち、それによって生計を立てています。あなたのスキルは、他者のスキルを一時的に借り受け、共有することを可能にします」
「うわっ! なんだ今の声!?」
驚いて周囲を見回すが、誰もいない。木々のざわめきと、遠くで聞こえる鳥のような鳴き声だけが響いている。風が、青や紫の葉を揺らし、さわさわと音を立てる。どうやら、俺にしか聞こえていないらしい。まるで、俺の頭の中に、誰かが直接話しかけているかのようだ。
「あなたのスキルは、対象の同意を得ることで発動します。スキルを共有する際は、対象の意識にアクセスし、必要なスキルを選択してください。ただし、借りられるスキルの数や持続時間には限りがあります。また、対象のスキルレベルが高いほど、より強力な効果を発揮します」
頭の中に、まるで説明書を読み込まれるように情報が流れ込んでくる。スキルシェア。他人のスキルを借りる。同意が必要。借りられる数や時間には制限がある。対象のスキルレベルが重要。情報が多すぎて、脳が処理しきれない。
「同意って、どうやって取るんだ? そもそも、誰かのスキルを借りるって、どういうことなんだ? 意識にアクセスって、どういうことだ? 俺は、誰のスキルを借りられるんだ? 地球の人のスキルも借りられるのか? それとも、この世界の人のスキルだけなのか?」
疑問は尽きない。頭の中の声は、一方的に情報を流し込むだけで、俺の質問には答えてくれない。まるで、ただのシステムメッセージのようだ。俺は、まるでゲームのチュートリアルを一方的に聞かされているプレイヤーのような気分だった。しかし、これはゲームではない。俺の命がかかっている、現実だ。
スキルシェア。他人のスキルを借りる。そんな能力、聞いたこともない。チート能力でもなく、特別な魔法の才能でもない、地味な能力。本当に、この能力で、この未知の世界で生きていけるのだろうか? 不安が、再び俺の心を支配し始めた。