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第7話:聖女覚醒

 何が起きたのかわからなかった。


 目の前の大人が自分達の味方になってくれるかもしれない。その嬉しさで、ただこれでもう安心だと思っていたのに。それだけのはずだったのに……。


「菜緒ー!!!」


 その叫びと共に軽い衝撃が自分の体を突き飛ばす。突然のことにされるがまま葵の体に受けとめられた。自分をかばってくれた親友の体から鮮血が吹き出し、まるでスローモーションのように崩れ落ちていく。その現実味のない光景に少しの間、理解が追いつかなかった。


「……侑香?」


 ゆっくりと侑香の前に膝をつき、傷が痛まないよう優しく抱き上げる。それでも痛いのであろう、呻き声を小さく上げた侑香に...、侑香から流れ出る温かな血にこれは現実だと嫌でも理解させられていく。


「……侑香!! ゆうかー!!!」


 どうしていいのかわからず、ただただ親友の体からこれ以上血が出ないように抱きしめようとする。


「菜緒! まずは止血しないと!!」


 いつの間にか白い布を手にしていたもう一人の親友にわけもわからず侑香を預ける。側にいた少し年配の男も葵の行動を手助けしているが、その顔は諦めに近い表情をしていた。


「わ……わたしのせいだ……! 私が……! 火を点けに行こうなんて言わなかったら、侑香は……!! ゆうかはー!!」


 泣きじゃくりパニックを起こす菜緒に我慢できなくなった葵は、侑香を男にまかせ、自分を責め続ける親友の両肩を掴み必死で呼びかける。


「菜緒のせいじゃない! 菜緒、あたしの目を見て!……あたしの目を見ろ!!!」


「……っ!!」


 いつもの冷静さを捨て語気を強める葵に押され、震えながらも葵の目を見つめる菜緒。


「誰も間違ってなんかない。菜緒も侑香も……。できることをしようとしただけ。間違ってるとしたら、それは……あたしなんだよ」


 その言葉に目を見開く菜緒。そんな事ない。葵はいつだって私達の安心できる絶対的な指針だった。葵の揺るぎない判断があったからこそ、この世界でこんなにも頼れそうな住人に会えたのに……。


 そう言いたくても喉が引き()り上手く声がだせない。そんな菜緒の顔を優しく両手で包み込むと葵はさらに言葉を続ける。


「あの時、軽はずみな質問をしたあたしのせい。もっとよく様子を見てから聞けば、きっとこんな事にはならなかった……。聖女の重要さを理解できてなかったあたしのせいなんだよ……。菜緒。ごめん。ごめん……。侑香……!」


 そう言ってうつむく葵に菜緒は何も言えなかった。菜緒こそ言いたかった。誰も悪くない。少なくとも私達三人はこのわけのわからない世界で必死に助けを探そうとしただけ。


 なんでこんなことになっちゃったんだろう。


二人の少女が親友の危機に何もできずにいる姿を心苦しく思いながらも、先程の〈聖女〉という単語にルーイは人知れず反応していた。


『聖女だと? まさかランドールの奴ら……。禁断の儀式に手を出したのか……!?』


その時、侑香の応急処置をしていた男が菜緒達に呼びかける。


「お嬢さん達! お友達が……!」


 その声に最悪の事態が頭をよぎり慌てて侑香の元へと膝をつく菜緒と葵。男は侑香の上半身を壊れ物を扱うように丁寧に菜緒と葵に預ける。まだかすかに息をし、虚ろながらも自分達を見つめる侑香に安堵する。


「侑香!!」

「侑香……!」


 それぞれ声を掛けると侑香は、ゆっくりと口を開き菜緒に話かける。


「…菜緒…ごめ……ん。ずっ…と……あやま…たくて……」


「もういいって!! 絶対大丈夫だから……! だから……!!」


 そう言って話を遮ろうとする菜緒の手を今できる限りの力でぎゅっと握りしめる。最後まで聞いてほしいと侑香の目が訴えてくる。その弱々しい力に菜緒の嗚咽が止まらない。


「さみ…しくて…。つい…怒っ…て…。ごめ…ん。大…好き……ずっ…と」


 消え入るような声で言葉を紡ぎ小さく笑う侑香。菜緒は自分の涙で侑香が見えなくなるのが嫌で、ずっと激しくうなずき侑香を見つめる。侑香は次に葵に何か言おうとするが、もはや体力の限界だった。菜緒よりも少しだけ長く一緒にいた相棒ともいうべき友に目で訴える。


 『あとは頼んだ。』


 その侑香の意志をしっかりと汲み取りうなずく葵。涙を止めることなく流し続ける葵を見て、侑香は珍しいものを見たというようにふっと笑う。そして徐々に侑香の体から力が抜けていく。目はさらに虚ろになり、呼吸も浅くなっていく。


 菜緒の腕の中で侑香の命の灯火が消えていく。


 周りの男達は、少女達の友情を引き裂いてしまったことが申し訳なくて、泣きながら小さく謝罪の言葉を呟いていた。できるだけ最期のお別れを邪魔しないように、漏れ出そうになる嗚咽を我慢する。


 しかし、この現状に菜緒はどうしても納得できなかった。


 なぜ自分達なのか?なぜこんな目に合わなければならないのか?

 なぜ侑香を失わなければならないのか?


「……この世界に神様っているんでしょ?……だったら……なんとかしてよ……! 私達の友達返してよ!! 私達の日常……返してよ……!! やだよ……。こんなの……。やだよぉ……!!!」


 侑香に縋りついて泣く菜緒に皆が咽び泣く。葵は、自分だけはこの現実を受け入れ菜緒を守らなければと決意を固めようとする。するのだが、どうしても受け入れられなかった。まるで半身を失ってしまったかのような消失感に襲われ、自分は思っていた以上にショックを受けていた事実を認め涙する。


『気持ちを……切り換えなければ。菜緒を守らなければ。侑香との約束を……』


 そう無理矢理にでも自分の気持ちを納得させようとした時だった。魔獣に負わされた傷が暖かみを帯びているような気がして腕を見る。


「え……? 何これ……」


 その腕は柔らかな白い光を(まと)っていた。そしてよく見ると傷が少しずつ綺麗に塞がっていく。あまりの出来事に呆然としていたが、ハッと我に返り何が起きているのかと辺りを見回す。するとその光は菜緒を中心にゆっくりと広がっていた。菜緒から放たれるその白く淡い優しい光は侑香を包み込んでいる。そしてその光は、避難させている重症人や周りにいた男達のことも包み込んでいく。


「な……なんだ?」

「……あたたかい」


 その美しい光と暖かさに皆が何が起きているのかとその発生源を探す。その時、一人の男が驚愕の声を上げる。


「みんな見ろ!! 傷が! 治っていく……!!」


 本当に何が起きているんだと男達は自分の体を見る。一生傷が残るだろうと覚悟を決めた傷さえ何もなかったように治っていく。そして、さらなる奇跡が起きる。


「……な…お?」


 その小さな声に菜緒は弾かれた様に顔を上げる。


「…ゆう……か?……侑香……!」


 その菜緒の喜びを含んだ声を聞き葵も侑香を見る。そして、信じられないという様に目を見開き、そしてまた涙が止められなくなる。


 侑香が息を吹き返したのだ。



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