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第6話:戦う男達と三人の少女達

 菜緒のとんでもない提案に侑香は大いに焦り、何とかやめさせようと声を荒げた。だが、菜緒の気持ちは変わりそうになく自信に満ちた目を興奮気味に二人の親友へと向け続ける。


「まじで言ってんの!? やばいって!!」


「でもさ! あの大砲おあつらえ向きに魔獣に向いてんだよ!?」


「難しい事言って誤魔化しても無理なもんは無理だってー!!」


 誤魔化してないよ!と言い合いをする二人を尻目に葵は考える。そして未だに統率を乱さず戦う男達を見る。だが、その戦いに疲労の色が見え隠れしていた。これは時間の問題かもしれない。


「……菜緒の考えありかも」


「はぁ!? 葵まで何言ってんの!」


「そうだよね! 葵!」


 正気か!? と葵を見る侑香と、ワクワクと目を輝かせる菜緒。もちろんちゃんとした理由をしっかりと葵は説明する。


「あの人達が撤退を判断する前に、恩を売っておくのってありだと思うんだよね」


 幸いというべきか、魔獣が巨大すぎるため、ちょっとやそっと動いただけでは大砲の照準が外れる事はなさそうだ。さらに男達を見て思ったが、どうやら決定打に欠けているように見える。


「ここであたし達があの化け物に大打撃を与えることができたら、道は開けると思わない?」


「虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつだね!」


「うぇ!? あぁ!! もう!! わかったよ!」


 半ば無理矢理決意した形にはなったが、三人の心が良い意味でまたも一致した。


ー・・


 男は焦っていた。暴れて手がつけられない想定外の巨大な魔獣。弾薬の数も尽きそうになっている。そして、軍人達の疲労もピークに達しようとしていた。


『だがここで退くわけにはいかない! この先の村を守らなければ……!!』


「小隊長! もう弾がなくなりそうっす!!」

「ルーイ! このままじゃもたない! どうする!?」


「……ぐ!」


 ルーイと呼ばれた男の肩に重い重い責任が容赦なくのしかかる。一瞬の判断が全滅を招きかねないこの状況になんとか打開策を見出そうと必死で頭の中を回転させる。だが、あまりいい案が浮かびそうにない。最早自分が囮となり皆を村まで撤退させ、少しでも長く体制を立て直す時間を作る他ない。


 せめて大砲が使えればと、チラリと大砲に目を向ける。すると、不思議な恰好をした三人の少女が大砲のもとで何かをしているのが目に入る。一瞬戸惑ったが、黒髪でストレートの少女の手元が小さく光っているのが見え、目を見開く。


『導火線に火を点けようとしている!!』


 まさに天の助けだとルーイは心が震え、味方を勝利へと誘導するために今一度声を張り上げる。


「皆! 奴の目を狙って一斉射撃!! のちすぐこちらまで下がれ!!」

「「はっ!!」」


 その声を合図に一斉に魔獣の目に惜しげもなく攻撃を加える男達。その男達の攻撃の激しさに魔獣はたまらず咆哮し、頭を力一杯振る。前が見えないのかその場を動けず巨大な両手を振り回し、近くの敵を薙ぎ払おうと抵抗する。


「点いた!!」


 その時、少女の嬉しそうな声がルーイの耳に届く。少女達を大砲の衝撃から守るため走り出し、導火線がジリジリと短くなっていくのを確認しながら最後の命を下す。


「皆伏せろ!!!」


 そのまま三人の少女に覆いかぶさり自分の体を盾にし、しゃがませる。次の瞬間、背中の方から爆音と共に凄まじい衝撃波がルーイの体中を駆け巡った。


「ぐ…!」

「「きゃー!!」」

「…っ!!」

「うわあぁぁ!!」

 

 皆の衝撃波に耐える叫び声と共に憎き魔獣の断末魔の叫びが一際大きく辺りに響き渡る。

 しばらく動けなかった。終わったのか?と皆がゆっくり頭を上げ辺りを確認する。粉塵の(もや)の向こうに魔獣が静かに立っていた。その姿に皆一様に冷汗をかく。


 一歩、二歩と歩いたと思うと、ゆっくりとその巨体を地面へと倒す。ズシンと地響きのあと、魔獣は体をぴくぴくと痙攣(けいれん)させ動かなくなった。その姿に皆が顔を嬉しそうに見合わせ、勝利の雄叫びを上げる。


「ぃやったー!!!」

「俺達の勝利だー!!!」

「ざまぁみろ!! 魔獣がー!!」


 思い思いの喜びを爆発させ、まるでお祭りのように騒ぎたてる男達。その姿にルーイはホッと安堵の息をつくが、長年の戦闘経験から最後までしっかりと皆に(げき)を飛ばすことを忘れない。


「皆! よくやった! だがまだ油断するなよ!しっかりととどめを刺せ!!」

「「イエッサー!!」」


 男達の明るい声をあとに三人の少女達へと向き直る。少女達は緊張しているのか、振り向き自分達を見つめるルーイに警戒心をにじませていた。その緊張をほぐそうとルーイは優しい笑みを浮かべ、感謝の意を表す。


「勇敢な少女達よ。本当になんとお礼を伝えていいか。言葉では足りないが、ひとまず礼を言わせてほしい。本当にありがとう。君達のおかげで俺達は救われた」


 その嘘偽りのないであろう心からの言葉に三人は嬉しそうに顔を見合わせ、喜びをわかちあっている。年頃の子供達特有の無邪気な笑顔に微笑むルーイ。その時、後ろの方から悲鳴が聞こえる。驚き振り向くと軍人の一人が大声を上げた。


「よけろ!!!」


 最後の力を振り絞った魔獣が、ルーイから少しズレた位置にいた少女達に襲いかかろうと、右手を大きく振り上げていた。しまった!と思った時にはすでに遅かった。三人の中心にいた、火を点けてくれた黒髪の少女に魔の手が振り下ろされる。


「菜緒ー!!!」


 友達の名を叫び突き飛ばす茶髪の少女。突き飛ばされた少女をかばって抱き留めたもう一人の黒髪の少女は、長すぎる魔獣の爪が腕を切りつけ血がにじむ。


 鈍い音がいやにはっきりと聞こえた。


 茶髪の少女は鮮血を吹きだしながら崩れ落ちていく。その姿に激高したルーイは持っていたサバイバルナイフを力の限り魔獣の頭部に何度も何度も叩きつける様に刺す。悲痛な叫びを上げ、今度こそ本当に息絶えた魔獣を一瞥(いちべつ)し、大怪我を負ったであろう少女に目をやる。


「侑香ー!! ゆうかー!!!」


 動けない血塗れの友達の名前を必死に叫び続ける少女。為す術がない己の無力さと取り返しのつかないことをしてしまった後悔がルーイを責め続けた。


 

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