第3話:一人は本物、三人はイジメっ子…って、は?
女神は一人。自分達は四人。
葵の質問に確かにそうだ、と皆が一斉に葵の方を向くが、葵は動じることなくさらに続ける。
「この四人の中の一人が聖女ってこと?」
「そ、それは……。申し訳ありません。私どもも召還の儀を執り行ったのは初めてのことだったので、このような結果になるなど思ってもなく……。」
本当に不測の事態なのだろう。正確な答えをだすことができずに焦る王子。周りの大人達もざわざわと話し合っているがらちがあきそうにない。異世界とはいえ焦る大人達などあまり見たことのない菜緒は不安になった。しかしその時、そんな現状を打破するかのように愛梨がとんでもない爆弾発言を投下する。
「聖女はきっと私! 愛梨です!! そしてこの人たち三人は私をイジメていた悪い人達なんです!!」
「「はぁ!?」」
「えぇ……?」
愛梨に対しての嫌悪感が三人初めて一致した瞬間だった。
「愛梨てめぇ! 嘘ぶっこいてんじゃねぇよ!! いつうちらがお前をイジメたってんだ!!」
「侑香ちゃんっていつもそうやって愛梨に脅迫じみたこと言うからこわーい!!」
そう言って王子の腕に縋りつく愛梨。
「はぁー……。あんたってほんと性格ブス!! まじで今の状況わかってやってんの? わかってやってんならまじ最悪なんだけど!!」
「むぅ! 菜緒ちゃんっていつも愛梨のこと目の敵にしてたよね……! 愛梨は菜緒ちゃんのそういう態度、ちゃんと気づいてたけど大人な対応してたんだよ? 自分のことしか考えてない菜緒ちゃんこそ自分の性格の悪さ治したら……!?」
「殺す! このくそアマ!!」
「きゃー!!」
愛梨に飛びかからんとする菜緒と侑香を止める葵はいつだって冷静だった。そんな葵だからこそ本気で危険だと周りの大人達の反応を敏感に察知し、思わず体を一瞬こわばらせる。そして怒りから興奮する侑香と菜緒を力一杯、自分の方に引き寄せ耳打ちをする。
「二人共落ち着いて。まじでヤバいよ。周り見な! このままじゃ愛梨のドツボに嵌ってとんでもないことになりそう……!」
その葵の言葉に侑香も菜緒も周りを見てギクッとする。王子も含め周りの大人達が三人に対して冷たい視線を向けていた。そのあまりにも異様な事態に菜緒の背筋は凍ってしまいそうになるほどのおぞましさを感じる。
「そういえばあの二人、さっき彼女の口を無理矢理おさえつけていたな」
「聖女を殺すと言ったぞ……!」
「この三人どうする? 聖女様のお側におくのは危険なのではないか!?」
「あの口の悪さ間違いない!!」
口々に大人達は喋りながらも怒りをどんどんと募らせていく。そしてその怒りは収まることはなく膨れ上がっていき、やがて三人に対する敵対心は最高潮に達しようとしていた。
「殺せ! 聖女様をお守りするんだ!!」
「そうだ! 殺せ! 殺してしまえ!!」
「見せしめだ! 殺せ!! 殺せ!!!」
大人達の異常な興奮に押され三人は恐怖からお互いに身を寄せ合った。自分達を守る術がそれしかないほど追い詰められ本気で死というものを覚悟する。まさかこんな事になるとは思っていなかった愛梨もさすがに焦りを見せ、エルバートの腕を強く引き寄せると強く懇願した。
「エ、エルバート様! お願いです! 彼らを止めてください! 愛梨は三人に死んでほしいわけじゃないんです!! ただ謝ってくれればそれでよかったんです……! 殺すなんて、そんな酷い事やめて!! お願い! 愛梨怖い!!」
「聖女様……! なんとお優しい! あなたがやはり聖女様だ。わかりました。このエルバートにおまかせを」
震えて本気で怖がる愛梨を労わる様にエルバートは肩に手を置き、愛梨の願いを聞き入れるために片手を上げる。そして一際大きな声をだし家臣達に堂々と命令を下した。
「静まれ皆の者!! 聖女である愛梨様の慈悲のお言葉を聞け!! この三人の死を愛梨様は望まれていない! だが、この三人を愛梨様のお側に置くのは危険と判断し、僭越ながらこのエルバートが命を下す!!」
エルバートの言葉に皆が今か今かと注目した。
「この三人を国外へ追放する!!」
「うおおおおぉぉ!!!」
その命令に皆が沸き立ち興奮した。とりあえず処刑を免れた四人はホッと胸を撫で下ろしたが、菜緒と葵は密かに目配せをし確認し合う。本当の危機は去っていない。国の外にはまだ見ぬ恐ろしい魔獣が本当にいるかもしれないということを二人は警戒しなければならなかった。
ー・・
「さっさと歩け!この悪女共!!」
あの後すぐ三人は別室へと連行され、愛梨は言葉をかわすことなく王子と腕を組みながらさっさと行ってしまった。そして今、三人は城壁の外へと追いやられている。
「うっせぇな! 言われなくても出てってやるよ! クソ野郎!」
収まらない怒りから侑香は苛立ちをぶつける様に城の騎士に中指を立て挑発する。その行為にまんまとカッとなった騎士は額にいくつもの青筋を立てると三人を睨みつけた。
「なんって口汚い女だ……!! さっさと出て行け!!」
そう怒ったかと思うと、左手をボールを投げるようなポーズをとる騎士。三人は、やべ石投げられるかもと身構えるが、予想が大幅に外れ大いに狼狽することになる。
「くらえ!! 悪女共!!」
そう言って投げられた物は石などではなく、火炎の塊だった。
「!? うっわ!! 熱!!」
「うぇ!? 何で!?」
「……! あれが魔法か……!」
次々と飛んでくる炎を無事に避けながらすぐさま道沿いを走って逃げる菜緒達。無事に逃げおおせたこと、まだ日が高く明るいことにも安堵の息を吐きながら、息を整えるために三人は立ち止まる。
「はぁっはぁ! 何!? 今の!!」
「あれが王子の言ってた魔法ってやつでしょ」
「まじか……。ねぇ! わかんないことだらけだけど、これからどうする?」
菜緒の言葉に二人は顔を見合わせる。侑香はまじでどうしよう……! と焦っていたが、葵はいつものように冷静に考える。そして少し考えがまとまったのか真剣な顔をして二人に問いかけた。
「あたしはエトナの国に行くのがいいと思ってるけど、二人はどう思う?」
その言葉に侑香は驚きを隠せず、菜緒は少し覚悟を決めたようにうなずく。
「え!? いや噓でしょ? 二人共! あいつら言ってたじゃん!エトナは悪魔の末裔だって!!」
「でもランドール? の奴らも私らからしたら悪魔だったじゃん」
「う‘‘……! 確かに……でも……」
あんな事があったのだ。侑香の嫌悪感と恐怖からくる尤もな意見だ。だがこのまま外にいては危険すぎる。なら奴らの敵に賭けてみるしかないのも事実であった。
「あとさ、あたしもうひとつ疑問に思ったことがあるんだけど」
「あ! それ私も同じヤツかも!!」
「え!? 何々!! 二人共頭良すぎてついていけないんだけど!」
葵はそんな不安がる侑香にもわかるように嚙み砕きながら説明する。
「あいつ、エルバートだっけ? あいつ〈王子〉なんでしょ?異世界だから序列がどうなってるのかわかんないけど、王子ってことは〈王〉か〈女王〉がいるんじゃないの? 王子が独断であんな大切な儀式するとは思えないし、まして国を挙げてするくらい大切な儀式なら一番偉い人が出てこないってなんかおかしくない?」
「葵! 私も全く同じこと思った! でも家臣の傀儡って感じでもなさそうだったじゃん? てことは、不在か動けないほどの病気だと思うんだよね」
「まってまって! だから何なの? 何か問題でもあるの?」
二人の一致する疑問に丁寧に説明されてもついていけない侑香はさらに焦ってしまう。そんな侑香に葵と菜緒は諦めることも呆れることもなく説明を続ける。
「侑香だったらどうする? お父さんもお母さんも家にいないのに、大事な、それこそ家族に関わるような契約書に判子を押してくれって言われて押せる?」
「お……せない!!」
「つまりね侑香、エルバートは自分のことを〈王〉じゃなくて〈王子〉って言ったの。それって自分が国の一番ではないって断言してるわけ。そうなると、王がいないことをいいことに勝手に動いているのか、王が動けなくて王の判断のもとで動いているのかで全く違う状況になるってこと!」
「な……るほど? それで?」
「これはあくまで仮説だけど、王不在のもと勝手に動いているのなら[聖女伝説]を利用して、クーデターを起こそうとしているのか、本当に魔獣とエトナって国にやられてまいっているのかどっちかかもしれないってあたしと菜緒は考えてる。」
「じゃあ! もしクーデターの方だったら愛梨は……」
「聖女がいる、いないは置いといて、利用されてるだけかもしれないってこと!」
そうだったらいいのに。とまたも心が一致する三人だった。




