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第16話:協力者

 男は唖然としていた。さっきまで自分を追い詰め殺そうと牙を向けてきていた恐ろしい魔獣達が次々に倒れていく。だが、その攻撃が魔法ではない事に気づき血の気が引く。ガサガサと暗闇の森からランドールとは違う軽装姿の男達が次々に姿を現し、今度こそ自分の最期を覚悟した。


「お怪我はありませんか?」


 その一言に男は虚を突かれ、すっとんきょうな声をあげてしまった。


「……え? 私を……殺さないのか……?」


 男は無我夢中で魔の手から逃げていたとはいえ、ここにエトナの者達がいるという事は軍事境界線を越えてしまったと察しがついた。すぐに殺されても文句は言えない状況にもかかわらず、己の心配をしてくれる若者に大いに戸惑っていた。差し出された手をまじまじと見つめていると、もう一人の体格の良い男が嫌悪を向けてくる。


「なんだ? 悪魔には触れたくないってのか?」


「やめろバルト。命が危なかったんだ。無理もない」


 男は慌てて手を取る。この場で一番礼を欠いているのは自分だと恥ずかしくなった。


「すまない。助けてもらったのに礼も言わずに失礼した。ありがとう。君達のおかげで助かったよ」


「何だ。ランドールのくせに殊勝な奴だな」


「バルト! いい加減にしろ!」


 二人の若者の人間らしいやり取りを見て、男は今までの価値観がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていた。周りの人間も多少自分に対して緊張を隠せてはいなかったが当然だろう。もしここがランドールだったら、迷い込んだエトナの人間は問答無用で殺されている。


「んで、おっさん何で外なんかにいるんだ? 見たとこあんた貴族だろ」


「っ! そうだ!! 娘が流行り病に罹ってしまって……!」


 そこまで口に出し、しまったと思った。ランドールの内部事情を少しとはいえ口にしてしまうなど、とんでもない裏切り行為だ。そんな男の様子を気にすることもなくバルトと呼ばれていた若者は話を進めていく。


「流行り病? あれかイースト風邪か? エトナでもこの時期流行ってるけど……。マーカス軍医!!」


 バルトに呼ばれて一人の穏やかそうな男性が前へ出る。軍医とは何であろうかと、聞きなれない言葉に男はとっさに身構えた。その男の様子に気づいたマーカスという男は人の好さそうな笑みを浮かべ、敵意がない事を見せる。


「僕は医者をしているマーカスと申します。医者とは簡単にご説明しますと、病気や怪我を治療する事を専門とする職業の事です」


「え!? あなたは聖……女? いや、男だから……」


 困惑する男に皆が笑顔になった。馬鹿にされているのではない事は分かっていたが、奇跡を起こす専門と言われて困惑するのは当然だといえる。なにせランドールでは伝説でしか聞いたことがない。軽い怪我などは自然にまかせるが、病気を治すのは怪しい魔術に頼るのが一般的だ。なにせ自分もその魔術に縋って、今危険な外にいるのだから。


「笑ってしまって申し訳ない。僕は聖なる力はおろか、魔法ももちろん使えません。治療といってもすべてを治せるわけではないのです」


 マーカスは順を追って丁寧に医者の役割を説明していく。人体のこと、細菌のこと、医術のこと。男は賢いのであろう、驚きながらも納得していた。一通り説明し終わると、男は項垂れ悲しそうに呟いた。


「そうか……。世には知らない事が沢山あるのだな。知ろうとしなかったために沢山の犠牲と冤罪を生み出してしまっているのだな我々ランドールは……」


 常識的なこの男に皆が心配になった。この者はランドールに帰っても大丈夫なのだろうか。変に振舞えば一族ごと消されてもおかしくはない国だ。


「あの……。ここで話した事は内密にされた方がよろしいかと……。あなたの身が心配です」


「なんと……。ランドールの私の身の上まで気遣ってくれるのか……」


 男はまた深く項垂れ喋らなくなった。何かを一生懸命考えているのだろう。その思考を邪魔しないように皆が固唾を呑んで見守った。しばらくすると男は突然顔を上げ、目をキラキラとさせとんでもない事を提案する。


「私は決めたぞ!! 諸君! 私とどうか内通してくれないだろうか!?」


「はぁ!?」 


 男の発言にエトナの軍人達は面食らった。堂々とスパイを持ちかける男に皆が困惑する。


「誤解しないでくれ! 内通者は当然私だ。もっといろんな真実を教えてほしい!! もちろんこれからも変わらぬ態度でランドールで過ごす。だが、あの国は未だ混乱期の最中……。苦しんでいる者達が多くいる。そんな者達のために少しでも正しい行動をしたいんだ!! エトナと協力したい……! だめであろうか……?」


 熱意に燃える男の目は真実を語っていた。男自身とても思慮深くおもいやりもあるのだろう。話を聞けば娘のために魔術で使う材料を外まで取りに行き、御付は全滅させられ逃げていた所を我々に助けられたという。ルーイは慎重に考えた。まずはこの男を信じるために一つ話を持ち掛ける。


「我々としても願ったり叶ったりですが、ひとまず娘さんの病気を治し、元気になったら折を見てエトナの国に少しの間、滞在されてみるのはどうですか?」


「……娘の事まで気にかけてくれて……ぐすっ…」


 男は涙ぐみながら提案を受け入れる。娘の症状を事細かに伝えると、マーカスに薬を渡された。


「ちょうど良かったです。エトナでも流行っている風邪に間違いないですね。薬を持ってきて正解でした。この薬を1日朝晩2錠ずつ飲ませて安静にしてください。3日程で熱は下がると思いますが、菌はまだ体内にいるので無茶はだめですよ」


 お大事にと手渡された薬を大事そうに抱え、礼をする男。そして男を安全な場所まで護衛し、一旦別れることにした。和気あいあいとランドール近くまできてルーイは男の名前を聞いていなかった事に今更ながら気づく。道中楽しかった事もあり別れを惜しみながらも男に名前を尋ねた。


「ところであなたのお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「おぉ! これはまたまた失礼した! 私は、ウィリー・クローベルと申す。今後ともよろしく頼むよ!」


 そう快活に笑い、ウィリーと名乗った男は無事ランドール領へと帰っていった。その三か月後、ウィリーは約束通りエトナへとやってくる。情報共有がしっかりと行き渡っていたエトナの人々は、ウィリーの訪問を心から歓迎するのだった。


 こうしてウィリーとエトナの人々の絆は強固なものへとなっていき、今でも連絡を取り合い、ランドールで行き場をなくし苦しんでいる者をエトナへと手引きするようになった。


ー・・


「……という事で、今でもウィリーさんとは繋がっているんだよ。あの後回復された娘さんは、エルバートとご婚約されたそうで、水面下でもエトナと協力できないか頑張ってくれてるんだ」


「じゃあウィリーさんってかなり身分の高い方なんですね。……それにしてもあの王子に婚約者か。愛梨つくづくついてないね」


「はは、しょうがないよ。何と言っても王族だからね。ランドールでは政略結婚は当たり前みたいだよ。それに葵君が言うように、ランドールでクローベル家といえばかなり格式高い侯爵家らしい。王族や貴族からも信頼が厚いみたいだから連絡は慎重でなかなかできないけど、話ができてこうして協力し合えている事がまさに奇跡だよ」


 昔を懐かしむように微笑むルーイに菜緒達も嬉しくなった。


「いいなぁ! うちもウィリーさんに会ってみたい!!」

「私も!」


 菜緒と侑香はまともな人がいてよかったねーと笑い合う。葵も嬉しそうに話しを聞いていたが、ルーイの事を完全に信頼する域まで達したためもう一つの疑問を思い切ってルーイにぶつける。


「菜緒の力で魔法を得た人って、エトナの中でいないんですか?」


 その問いにルーイは残念そうな顔で答える。


「今の所一人もいないね。これは軍医のマーカスが言っていたんだが、もしかしたら菜緒君の力は何らかの形で遺伝子に作用しているのかもしれないとの事だ。エトナで生まれてくる子に魔法の力はないし、ランドールは見ての通り魔法が受け継がれている。まだまだ研究中だから何とも言えないが、一つ気になっている事はある」


「気になってる事……?」


「菜緒君の力を今エトナの国の人に使う事ができれば魔法を使える者があらわれるかもしれないって事さ」


 それは、菜緒があらわれた事による一つの希望でもあった。この仮説が事実となった場合、ランドールを説得できる最大のカードとなるだろうと……。


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