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第14話:続 愛梨VSティティー

 そのお茶会は表面上とても穏やかで優雅であった。貴族であるティティーはもちろんだが、なかなかどうして愛梨もそれなりに負けてはいなかった。お互いニコニコと微笑みを崩さず相手の出方を探り合う。何も知らない侍女達は、この聖なる空間を汚さぬよう気を遣い静かに二人の動向を見つめていた。


「ティティー様とエルバート様はいつからのご婚約なんですか?」


「7歳からですわ。親が決めたとはいえ、わたくしはもっと幼い頃からこの方を隣でお支えしたいと思っていたので当然の事だと思っていますの」


 当然という単語を力強く発言されたような気がした愛梨は額に青筋を浮かべつつも笑顔を崩さず反撃の一手を模索し続ける。


「まぁ! ではお互い仲が良いのでしょうね。政略的な婚約には愛がない事が常の中、お二人の関係がうらやましいかぎりですぅ♡」


 愛という言葉に一瞬ティティーの手が動揺した。愛梨はやっぱりねと内心ニヤつきがとまらなかったが、もちろんおくびにもださない。政略結婚などしょせん決まり事。愛がある方が珍しいというもの。愛梨的にはエルバートの方がティティーに興味関心がないと嬉しいなと思いつつティーカップを口につける。


「……聖女様のいらっしゃった世界では婚約とはどういうものなのですか?」


 少しティティーがしおらしくなった様な気がしたが、それは愛梨の油断を誘おうと画策しているのかもしれない。愛梨はこう見えて用心深い。あまり本性をちらつかせるのは少し控えようと事実を述べる。


「そうですね。愛梨のいた世界ではほぼすべてと言っていいくらい自由恋愛ですよ。親同士が婚約を決めるなんて、実際あったら愛梨達にとって雲の上の様な存在か、時代錯誤もいいところって感じですね」


「時代錯誤……」


 ぼそっと呟かれた言葉にしまったと思った。本音を言いすぎてしまった事に焦って取り繕うとした。そんな愛梨に気づかず、ティティーは悲しそうに言葉を紡いでいく。


「わたくしはエルバート様をお支えしたいと思い、心からお慕いしています。ですが、これを愛と呼んでもよいのかはまだ分からないのです」


 愛梨は驚いていた。あんなにも敵意を向けてきたくせに何を言っているのだろうと。だが、目の前の女性から嘘は感じられない。それとも、貴族には特有の心理戦があるのだろうか。愛梨は少し混乱してしまっていた。


「……ティティー様はエルバート様のどんなところをお慕いしているのですか?」


「そう……ですね。彼はとても努力家なのです。いつも見えない所で努力を重ね、人一倍国の事を考えていらっしゃいます。冷たく思われることもありますが、それは王族としての責務を全うするために己にも他人にも厳しいのです。そんな彼を……お慕いしています。だからこそ、わたくしも彼の隣に立っても恥ずかしくないよう日々、研鑽(けんさん)を積んでいますの」


 最後に一撃をかましていくティティーに愛梨は、やはり油断ならない女だと自分に言い聞かせる。と同時にティティーの人となりが少し分かってきた気がして攻略法を再度模索しなければと、頭をフル回転させようとした時だった。部屋の扉を控えめにノックされ、声をかけられる。エルバートが戻ってきた。


「エルバート様! どうぞお入りください♡」


 愛梨はパッと顔を明るくさせ、城の主を部屋に招き入れる。相変わらず気品を崩さず優雅に歩いてくる姿に思わず見惚れそうになったが、ティティーの存在を思い出し己の欲望を少しだけ引っ込ませた。


「愛梨様、お部屋は気に入っていただけましたか?」


「はい! それはもう♡」


 エルバートに頭を下げるティティーを素通りし、構わず愛梨に話しかけるエルバート。その姿に意地悪な愉悦を感じる愛梨だったが、次のエルバートの言葉に戦慄する。


「申し訳ありません愛梨様。先程追い出した三人の行方が分からなくなってしまい、完全なる死を確認することができませんでした。ですが、このランドールが愛梨様を必ずやお守り致しますのでご安心ください」


「……え? 死……? どういう事? 殺さないって……! 国外へ追放しただけですよね……!?」


 あまりの愛梨の本気の動揺にその場にいたすべての者が驚いた表情を見せる。その空気に愛梨はますます焦ってしまう。そんな愛梨にティティーが声をかける。


「恐れながら聖女様。国外追放された者が辿る運命をご存じないのでしょうか?」


「知るわけないじゃん!! 追放って言ってんのに何で死ぬわけ!? 愛梨は死んでほしいわけじゃないって言ったよね!?」


 ティティーの言葉に思わず激昂する愛梨。先程まで本性を隠しつつ冷静に対立していた相手の激しい感情にティティーは思わず気圧されてしまう。


『どうしよう……!! そんなつもりじゃ……。どっか村とか町とかあるんじゃないの!? ただ菜緒ちゃんの悔しがる顔が見たかっただけなのに……!!』


 口にはださないが愛梨は怯えていた。平和な世界から来たのもあるが、魔獣の脅威を全く知らない愛梨にとって追放=死がどうしても結びつかず頭は混乱でいっぱいになっていく。顔から血の気が引いていく愛梨にティティーは思わず励ます。


「聖女様! 希望はまだございます! 運が良ければきっとそのお方達はエトナの者達と行動を共にされているかもしれません」


 エトナという単語に侍女達はビクッとする。そして、愛梨の前では決して優しい仮面を取らなかったエルバートが怒りのあまり、ティティーを怒鳴りつける。


「ティティー!!! エトナという悪魔共と一緒などと、よくもそんなおぞましいことを口にしたな!!! 聖女様のお気持ちがお前には分からないのか!? お前は金輪際、愛梨様に近づくことを許さん!! 今すぐ出て行け!!!!!」


 エルバートのあまりの剣幕にティティー以外の皆が氷ついた。侍女達はその場を動けず、ティティーとともに来た従者達も主であるティティーに声をかけることもできず震えていた。頼りになる味方がいない中、ティティーは興奮し肩で息をするエルバートをまっすぐに見つめ、美しく礼をし謝罪する。


「聖女であらせられる愛梨様に出過ぎた真似を口にしてしまい大変申し訳ございません。ティティーは二度とあなた様に近づかぬ事、お目に触れぬ事をここに誓います」


 部屋から出て行こうとするティティーに愛梨は嫌な予感がした。今ここでティティーを失う事はまずいのではないか?確かにティティーは鼻もちならない女だ。だが、短い時間とはいえ話をする中で人を騙したり、嘘偽りを吹き込むような姑息な人物ではないと言える。


「待って!! ティティー様!!!」


 愛梨の叫びにも近い静止を求める声に、ティティーは立ち止まり振り返る。その表情は完全なる無ではあったが、良く見ると手が微かに震え、服を掴んでいた。愛梨は直観した。その震えは悔しさや嫉妬などという愚かなものではなく、ただ傷ついているのだと。


 エトナという名前を出せばこうなる事など分かっていたはずだ。だが敵対していたはずの愛梨のために発言し、この場を取り繕うでもなく、醜く喚き散らすでもなく、誇り高い貴族として矜持を全うしようと努めている。その気高い姿に愛梨は賭けるしかなかった。今、この場で真実を口にしてくれるのはティティーしかいない、と。


「愛梨に城での礼儀作法を教えてくれるっていう約束を破る気ですか?」


 侍女もティティーも一瞬止まった。侍女達はそんな約束をしていただろうかと疑問に思ったが、身分が下の自分達が今この場で口を挟むなど許されるはずもなく、黙って聞いていた。


「愛梨様。ティティーではなくこのエルバートが最高の教師をおつけいたしますので……」


「ティティー様でなければ意味がないんです!! エルバート様には……愛梨のこの気持ち、分かってはくれませんか……?」


 あなたに懸想しています。と愛梨は頬を染め、渾身の上目遣いをエルバートにぶつける。その想いに気づいたエルバートはもはや何も言えなかった。所詮聖女も一人の女である。婚約者であるティティーを蹴落としたいのか、上手く自分の情報を探りたいのか……。どちらにしろ、これ以上は不毛なやり取りになるだけだと諦め愛梨のわがままを受け入れることにした。


「……わかりました。では、ティティーを愛梨様の教師としてお側につけますが、何かあった場合すぐに替わりをご用意致します」


「はい! ありがとうございます♡ では、ティティー様さっそくよろしくお願いしますね!」


 嬉しそうに笑う愛梨にエルバートは礼をし、部屋を出て行こうとする。その時、ティティーの横まで来ると目配せをした。長年の付き合い故に何が言いたいのかを察し悲しい気持ちになるティティーに、エルバートは去り際に一言呟く。


「迷惑をかけてすまん……頼んだ」


 小声だったが凛としたその声は確かにティティーの耳に入る。ティティーは自分の中で何かが弾けた様な気がした。嬉しさから涙が出そうになったが、グッとこらえ、部屋を去るエルバートに深々と礼をする。そしてゆっくりと愛梨に振り返るとニコリと笑って対峙する。


「聖女様。わたくしに何をお聞きになりたいのでしょうか?」


美しく微笑む強敵に愛梨は覚悟を決めた。



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