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第13話:菜緒の告白

 菜緒は恐怖と罪悪感で目を覚ます。体中を嫌な汗がまとわりついていた。あまりの不快感に、今が夢なのか現実なのかも区別がつかない頭をしっかりさせたくて、フラフラと廊下へ行き外へ出る。外の冷たい空気が頭をすっきりさせてくれたが、同時に疲弊しきったランドールの住人とその住人に手を差し伸べるエトナの軍人を見て、自分がした事が長い時を経てまだこの人達を苦しめていることを認識してしまった。


 その事実に胸が痛くなる。気づくと泣いていた。


「……菜緒?風邪ひくよ。中に戻ろう……」

「え? どしたの菜緒。泣いてんの?」


 その声に振り向くと、別世界で苦楽を共にした無二の親友達が心配そうに自分を見つめていた。二人をじっと菜緒は見つめ返す。菜緒は真実を伝えるべきか迷っていた。この世界を菜緒が二手に分かれさせてしまった事、そのせいで三人を巻き込み傷つけてしまった事を。変わらず葵も侑香もなにも言わずに菜緒がどうするのかを静かに待ってくれている。その姿に愛梨との事を思い出す。


 自分が何も言わなかった事で余計に二人を傷つけ迷惑をかけた。侑香も葵も、菜緒の自惚れなどではなく本気で菜緒を大切に想ってくれている。それが分かるからこそ、覚悟を決めた。


「私のせいだった……。前世の私がこの世界を二手に分かれさせたの……」


 言った。言ってしまった。二人の反応が怖かったが目を逸らしたくなくてまっすぐに見つめ続ける。侑香は困惑し、葵は何かに気づいたようだった。


「……前世か。そうか……。おかしいと思ったんだよね。ランドールの奴らの話を聞いて、この世界と関係ないあたし達が何で呼ばれたのかって……」


 葵も菜緒の目をまっすぐに見つめ返す。菜緒も本当は混乱しているはずだ。この世界の、それこそ自己の力が突然発動し、それがきっかけで思い出したばかりなのではないか、と。自己完結しなければ何も言おうとしなかった菜緒が自分達に今分かったであろう最大の秘密を打ち明けている。


「あたし達はずっと <召喚> だと思ってた。でも違ったんだね。あれは菜緒を呼び戻すための <召還> の方だったんだ……。そうでしょ? 菜緒」


 問い詰めるでもなく、いつものように優しく問いかけてくれる葵に菜緒はごめんとうなずいた。だが、その言葉の意味を何も知らない侑香は更に困惑していた。


「え? 何? どういうこと? しょうかん? ん? 二人で納得しないでよ!! うちだけまじで何もわかんないんだけど!!」


 いつもと変わらない侑香に緊張感が溶けていく。さっきまでの緊迫感が嘘のように消えた事に菜緒も葵も笑ってしまう。そして、侑香にも分かるように1から説明するため部屋へと戻る。


ー・・


「じゃあ、前世の菜緒の力で魔法が使える人と使えない人ができて、今もその二つで争ってて、ランドールのいう召還の儀っていうのは菜緒の前世がこの世界の人だったから、別の世界に生まれた菜緒を呼び戻すためにしたってこと?」


「そうだね……。そのせいで近くにいた三人を巻き込んだみたい。ごめんね……。」


 悲し気にうつむく菜緒に侑香は怒りを感じずにはいられなかった。


「菜緒が謝ることじゃないっしょ!! ランドールのせいじゃん!! てか、今更何なの? 何で菜緒を呼ぶ必要あった? うちらの平穏返せっての!! うざー」


 侑香の怒りに元気をもらいつつ、菜緒も葵も確かにと考える。エルバートは1500年以上も前の話だと言っていた。なぜ今更、聖女の力が必要となるのか?その疑問にはルーイがエトナからの報告を分かりやすく共有してくれる。


「多分、ランドールの王が捕虜になって焦ってるんじゃないかな? 現状の王の様子を聞いたんだがどうやら彼も、始めはランドールの歴史を信じてエトナを敵視していたんだが、実際のエトナ国を見て考えが変わってきているみたいなんだ。その証拠にランドールに唯一権威ある教会の大神官を王が直接手紙を書いてエトナへと呼んだらしい。そのことをどうやらエルバートは知ったみたいだ。だから今、エトナにはランドールにとって権力と権威ある二大巨頭が敵国にいるっていう状況だね。」


「なるほど。それを知ったランドールが聖女を召還することによってエルバートの地位を王へと確立させようとしているのか……」


 葵の発言に菜緒は城にいる愛梨の事が心配になった。自業自得とはいえ、もし愛梨が聖女ではないことが分かったら最悪あの国だと処刑になってもおかしくはない。


「……愛梨やばくない? 下手したら殺されちゃうかも」

「自分のせいとはいえ、さすがに死んだら気分悪いよねー。どうする? あのバカ女」

「愛梨も調子に乗っただけでこんな事になるとは思ってなかっただろうしね」


「「「…………」」」


 愛梨に思い入れのなさすぎる三人には答えが出そうもなかった。そんな中、侑香が一つどうしても気になることがあるようで、菜緒に思い切って確認するために恐る恐る問いかける。


「愛梨のことはいったんおいといてさぁ……。菜緒ってどうなるの?」


「え?」


 侑香が心配そうに菜緒を見る。一瞬どうとは? と思ったが、すぐに侑香の心配事の意味を察し確かに菜緒もどうしていいのか分からなかった。


「……確かに。私ってどっちの世界にいればいいんだろ?」


「前世はこの世界だったかもしれないけど、今はあたし達と同じなんだから、菜緒の好きに決めていいんじゃない?」


「葵、冷たくない? 好きに決めていいはないでしょ。離れ離れになっちゃうかもしれないんだよ?」


 仲間想いの侑香にとって葵の無責任ともいえる発言に少々ムッときていた。だが、葵とて菜緒のことをどうでもいいとか思っているわけではもちろん無い。むしろ菜緒の気持ちを尊重してのことだ。


「侑香、この世界の現実見たでしょ? 未だに人間同士で争ってんだよ。ランドールの奴らが自分達を特別だと思ってる限り何も変わらないどころか、現状は悪化していくだけなんだよ。菜緒はそこが申し訳なくて苦しいんでしょ? だったら、こればっかりはあたし達が簡単に一緒に帰ろうなんて言えないよ」


「そうだけどさー!!」


 唸る侑香に葵は怯んだりしない。菜緒は意見は違えど自分の事を一番に考えてくれる親友達を嬉しそうに見ている。そんな三人だからこそと、ルーイは決意し、口を開く。


「エトナの伝説によると、東の砦の惨劇を生き残った者の中で、救世主が夢にあらわれ最後の言葉を残したという言い伝えがあるんだ」


 ルーイの言葉にあまりいい予感がしなかった侑香と葵が、チラッと菜緒を見る。菜緒にも覚えがないのか困惑しつつルーイの言葉の続きを待っていた。


「言い伝えによると、救世主は死んだあと魔法のない世界をその身をもって経験し、またこの世界へ還ってくると。それまでに、魔法に対抗できるよう自然との共存、知恵や知識を身につけることを怠らないように、と言ってこの世界を去ったようだ。だから、我々エトナの祖先は化学というものを発見し、己を守るために発展させ続けている」


その説明にバルトがさらに付け足す。


「その、 <この世界に還ってくる> って言葉をランドールの奴らは自分達に都合の良いように歪曲させて、ランドールの伝説として広めてるんだよ」


「……思い出したかも……」


 菜緒の声に侑香と葵は不安を覚える。二人だけではなくルーイとバルトも真剣な表情で菜緒を見つめ、皆が菜緒に集中する。


「私、日本で死んだ後にこの世界へ還って、エトナで生まれるはずだったの。それで、魔法が無くてもみんな魔獣と戦える、幸せになれるって伝えようと思って……」


「……菜緒君は、無理矢理この世界へ連れてこられた事になるから……」

「ますますどっちの世界でいいかわかんないじゃん!!」


 皆が静まり返る中、葵は考えていた。そして、自分なりにまとめて一つ提案をする。


「仮に、菜緒を含めて元の世界に帰れたとしても、また召還されたら意味がない。だったら現状を変えるのが一番じゃない? あたしはエトナ国にいるランドールの王と菜緒を会わせた方がいいと思う。ランドールの王に菜緒の力を見せて聖女として認めさせ、ランドールと協力したい事を話す。幸い伝説の通り、侑香は魔法を得てあたしは得られなかった。向こうが信じるかどうかは分かんないけど、伝える価値はあるんじゃない?」


 それだ! とみんなの表情が一瞬で明るくなる。さすがは、困った時の葵様。ずっと先のことも考えられるが、今できる最善を導きだしてくれるのはいつだって葵なのだ。


「よし! まずはそこを最大の目標にしよう。本当はすぐに行動したいんだが、明日から3日程はこの村に留まり亡命者を救助したり、エトナに帰るための次の隊への引継ぎの準備をしなければならないが、大丈夫かい?」


 大丈夫! と元気よく返事をし、今度こそ本当に休むためそれぞれの部屋へ戻っていった。まだまだ問題も謎もあるが、やっとひとつの道筋が見えてきた。


 その希望を胸に皆が明日のため静かに眠りにつく。


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