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第11話:歴史の真実

 菜緒は暗い闇の中をあてもなく漂う感覚に身をまかせていた。そして、自分の中でずっと疑問に思っていたことを頭の中でグルグルと考える。



  魔法を授けた女神。そして力尽き天へと還っていった。エトナは魔王に味方した悪魔の末裔。

  魔法は使えない。なぜなら、女神は魔法を自分に味方した人間達にしか授けなかったから......。



「違う……。そうじゃ……ない……」


 菜緒の中で何かが激しく否定していた。ランドールの歴史は嘘で塗り固められている。知らないはずなのに知っている。その奇妙な感覚に車酔いも相まって更に深い暗闇に身をまかせ、深く深く思考を沈ませていく。暗闇の底で光が見えた気がした。うっすらと目を開けその光を見つめる。好奇心からその光に手を伸ばそうとするが、一瞬怯んでしまう。


 まるでこの光が、自分にとって開けてはならないパンドラの箱の様に感じた。


「……でも、思い出さなきゃ……。私の……罪……」


 覚悟を決め、その光に触れる。まばゆい光が暗闇に広がっていき、あまりの眩しさに目を開けないでいた。そして、少しの静寂のあと激しい怒号と懇願が辺りを埋め尽くす。


「救世主様!! お願いです! どうかお助けください!!!」

「貴様らは引っ込んでいろ!! 聖女様! お下がりください!! ここは危険です!!」


 自分に必死に手を伸ばし、助けを求める者達の手を容赦なく叩き落していくその手に菜緒は激しい怒りを感じ、誰よりも大きな声で制止する。


「皆 静まりなさい!!!!!」


 女性とは思えぬその怒気に押され皆が菜緒に注目し、静まり返る。そして、縋るように見つめてくる。


「私は誰も見捨てはしません。落ち着いてその場にとどまりなさい」


 そう高らかに宣言すると、己の力を惜しみなくふるう。その場にいたすべての者達の魔獣につけられた傷や呪いを癒していく。


「おぉ……! 救世主様……!!」

「我らの聖女様! なんと慈悲深い!!」


 口々に喋る者達に喜びと悲しさで複雑な気持ちになる。


「私は救世主でも聖女でもありません。少し特殊な力を有して生まれただけのただの人間。皆と同じ <人> なのです。皆、分裂してはいけません! 皆の力を合わせ魔獣を壊滅させ、平和を勝ち取りましょう!!」


 その言葉に皆戸惑っていた。無理もない。いつどこで生まれ出でたのか分からない魔獣。倒しても倒してもどこからともなく現れる恐ろしい魔獣との戦いに皆疲弊しきっていた。だからこそ皆が必然的に特別な人間を、自分達を導いてくれる <神の使い> を求めている。菜緒にはちゃんと分かっていた。けど、自分は本当に皆と変わらないただの人間なのだ。確かに不思議な力は使える。だが、力が使えるだけで神のお告げの声など聞いたこともないのだ。


「……次に行くのでこの場は失礼します」


 悲しそうに微笑みその場をあとにする。皆が気まずそうに下を向く。誰を責めたいなどそんな感情、菜緒には一切ない。力を有した者の責任として次へと歩みを進めようとした時だった。突如、ボロボロの男が菜緒の前へと滑り込み大声で叫び、懇願する。


「救世主様!! お助けください!! 東の砦に魔獣の大群が……!!」


 その緊急事態に菜緒はすぐさま行こうと踵を返した。しかし、その行く手を阻む者達が幾人かあらわれる。


「聖女様!! そちらよりもまず、魔法を使える者を優先してください!!」

「そうです! 魔法を使えぬ者達よりも戦える我らの同胞が先です!!」



  これだ……。これが私の犯した最大の罪……。



「そこをどきなさい!! 魔法が使える使えないなど関係ありません!! それに、東の砦が落ちれば更に窮地に陥ります!! 事は一刻を争うのです!!」


 邪魔をする者どもを無理矢理にでも押しのけ、東の砦へと向かおうとする菜緒を必死に止めようとする者達。それを見ていた魔法を使えない者達は救世主を救おうと、魔法を使える者達に立ち向かう。


「救世主様!! ここは俺達にまかせて東の砦へ!! 我らの友を頼みます!!」

「得た者共!! いい加減にしろ!! 救世主様の邪魔をするな!!」


 揉みくちゃに争っている者達を止めたかったが、菜緒に時間は残されていない。


「……皆、ごめんなさい!!」


 後ろ髪を引かれながらも走り出す菜緒。その菜緒を追いかけようとする者とそれを止めようとする者で更にその場の争いは激しくなっていく。そして後方で大勢の悲痛な叫びと渦巻く炎や雷の激しい音が菜緒の耳に届く。


「得た者に無力な奴らが敵うわけないだろ!! 聖女様を連れ戻すぞ!!」


 おぉー!!っと大人数の声が上がる。菜緒はその声を振り切るため全力で走る。


  

  なぜ、こうなってしまったのだろう? 私はただ、傷や呪いを癒していただけなのに……!



 息を切らしながら東の砦にたどり着いた菜緒を皆が歓声をもって迎え入れる。と同時にその後ろから大勢の者が走ってきていた。最初は援軍かと思っていたがどうやら様子がおかしい。


「扉を閉めなさい!! あの者達は暴徒です!!」


「何!? おい! すぐに扉を閉めろ!!」


 砦の入り口を閉めさせる。少しすると外からは怒号と魔法を使う激しい音がし、止まる様子がない。


「おい! 嘘だろ!? あいつらこんな時になにやってんだ!!」


 息を整えながら菜緒は、自分のした事にどうしようもなく罪悪感が溢れて止まらなくなる。何事かと数人がこちらの様子を見に来てくれたが、皆ボロボロの姿だった。何度目か分からぬ力を使いその場の人々を癒す菜緒。


「おぉ! さすがは救世主様!!……救世主様? どうなされたのですか!? どこか痛むのですか……?」


 菜緒の目から涙があふれていた。そして心配そうに自分を気遣ってくれる優しい人達の手を握り締め、心からの謝罪をする。


「……ごめんなさい! ごめんなさい!! 私の力が半端なばかりに、あなた方に迷惑をかけて……!! 皆が魔法を使えないせいで不当な目にあわされるのはすべて私のせいです!! 本当にごめんなさい……!!」


 癒しの力は二種類の人間を生み出してしまった。なぜなのかは分からない。分からないが、癒しの力を受けた者達の中で魔法という力を使える者と使えない者とに分かれてしまったのだ。始めは良かった。魔法が使える者は率先して魔獣と戦い皆を先導していた。だが、次第に魔法が使える者が増えていくと、魔法を使えない者を差別するようになっていった。


 東の砦にいる者達は魔法が使えない。故に捨て駒扱いされているのだ。

 涙ながらに謝罪を繰り返す菜緒にその場にいた者達は手を握り返す。その温かい手に菜緒は顔を上げる。


「あなたが謝ることはありません! あなたは自分にできる事をしただけだ。俺達は感謝しているよ。だからどうか、謝らないでくれ……。ここにいるみんな、優しいナオのことが大好きなんだから!!」


 そう言って笑い合いうなずき合う優しい人達。この人達に報いたい。東の砦一帯に力を使おうとした時だった。後ろの扉が大きな音と共に崩れ落ちる。そして、そのもうもうと立ち上る粉塵から炎や、氷、雷が飛び交い砦を守っていた者達に襲い掛かる。


「あぁ……!! なんて事を!!!」


 人間の攻撃で同じ人間が死んでいく。その光景に菜緒の気が触れてしまいそうになった。だが少しの理性でそれを抑え、元凶となった者を睨みつける。


「自分が何をしているのか分かっているのですか!? 人同士で傷つけ合うなど魔獣の思うつぼです! 恥を知りなさい!!」


 元凶の男は仲間の攻撃を止めようともせず、菜緒の前に座り邪悪ともいえる笑みを浮かべる。


「聖女様。もうあなたは必要ありません。先程生まれた子供が魔法を受け継いだことが確認されました。これからは我々得た者が人類を導いていきます。」


 顔の前に手をかざされ、徐々に熱を帯びていく。火傷しそうになりながらも悔しさと絶望で何も言葉を発することができなかった。


「力をお与えくださってありがとうございました。そして、さようなら。愚かな聖女様」


 何の躊躇もなく放たれた炎は一瞬で菜緒の体を焼き尽くした。痛みはない。男の慈悲なのか、面倒だから早く終わらせたのかは今となってはもはや分からない。


 ただ、自分を殺した男の顔がエルバートの顔に似ているような気がしたのは確かだった。


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