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第10話:侑香の異変……!?

 嬉々として車に乗り込んだ菜緒達。道中色々な話が聞けると思っていたが、それは大きな間違いだった。


「~……っ!!!」


 整備の行き届いていない悪路のせいで車内の揺れは半端なく、うっかり口を開こうものなら舌を噛んでしまいそうになるほどの激しさだった。もともと車酔いしやすい体質の菜緒には更に厳しかったようで、村に着く頃には顔を真っ青にさせ、車を降りても何も喋れなくなってしまっていた。


「あーあ。途中で菜緒はヤバいかもとは思ったけど、やっぱダメだったか」


 かわいそうにと侑香が菜緒に肩を貸し、フラフラと歩く菜緒を丁寧に介抱しながらバルトに案内されて小さな一軒家へと入って行く。その間に葵は村の様子を観察していた。村といってもほとんどの家が体を為しておらず、ここも魔獣に幾度も襲われたのだろうと容易に想像ができた。だが、この場所には何か違和感があった。家の中を見てもまるで生活感を感じない。そして、なぜかエトナの軍人に混ざってランドールの住人であろう、中世寄りの恰好をした者が多くいた。その様子をじっと見ていた葵にルーイが話しかける。


「ここは、エトナとランドールの軍事境界線の近くなんだ。こっちはもちろんエトナだけど、彼らはランドールから亡命してきた者達だよ」


 なるほど、と葵は納得する。確かにランドールの人達は敵対心を見せるどころか、安堵しているように見えた。


「ランドールは独裁政権なんですか?」


「そうだね。あの国は完全な専制君主だから王の言う事が絶対なんだ。まぁ、今は王が不在だから王太子のエルバートが中心みたいだけどね」


「……やっぱり王は不在だったんですね」


「……! やっぱりってどういう事?」


葵は召喚の儀の時のことを自分と菜緒の疑問も含め、もう一度詳細にルーイに説明した。その説明を聞いたルーイは焦りを隠そうとはしなかった。葵はそんなルーイを見ながら別の事を考えていた。変に取り繕うことはせず、ありのままの姿を見せるこの大人を完全に信頼していいのかまだ測りかねていた。返答次第では心を閉ざすつもりだった。


 だがそこは葵よりも長く生き、過酷な世界を生き抜いた軍人。しかも指揮官でもあるルーイは、葵のことをよく見抜いていた。葵の信頼を得るにはこちらの手の内や情報をすべて見せなければと決意する。


「俺は、君の気持ちを大人として理解しているつもりだ。この何も分からない世界で自分のことじゃなく、常に友達の事を考え立ち回ろうとする葵君の力に俺はなりたい。だから、話をしよう。そしてお互いの理解を深めないか?」


 信頼してほしいではなく、理解し合いたいというルーイ。その真剣な目に葵は戸惑っていた。いきなり連れてこられて酷い仕打ちを受けたのだ。しかも自分の軽はずみな質問のせいで、親友達を危険にさらしてしまったことへの罪悪感が捨てられずにいた。ルーイの言いたい事は分かる。が、まだだ。見極めなければ……。


「わかりました。では、ルーイさんが答えられる範囲内でいいので質問させてください」


「いや、君の質問に嘘偽りなくすべて答えるよ」


 間髪入れずにまっすぐに答えるルーイに一瞬止まってしまった葵だったが、ここで弱みは見せられない。言葉を慎重に選びながら質問する。


「エトナとはどういう国なんですか?」


「エトナは正式名称をエトナ連邦共和国というんだ。だから王はいない。国家元首は大統領で、民意からの選挙でだいたい5年に一度変わる。まだまだ情勢が不安定だから安易に変えられないってところはあるかな。そして気づいているとは思うけど、魔法は使えない。だから、科学や医療がランドールよりも遥かに発達している。とは言っても、君達のいた世界はもっと進んでそうだ。」


「……あたし達のいた世界に魔獣という脅威となる生物がいませんからね。でも銃なんかはこっちの方が威力が高そうな気がします」


「採れる鉱石なんかが君達の世界よりも優れているのかもしれないね」


 簡単に説明されたことによると、エトナの武器が強いのは、エトナの首都近くで採れる鉱石などの原料の性質が、元いた世界よりも有能みたいだ。例えば小銃の威力は、普通の羆レベルの魔獣に対して1,2発で本来は仕留められほど強力らしい。そして、火薬に使われる原料が元いた世界の数倍以上の火力を秘めているようだ。その銃の器となる原料もその火力に耐えることのできる硬度を誇るらしい。


いかに先程戦った魔獣が規格外だったのかがよくわかった。他にも説明されたが、化学が苦手な葵には少し難しかったようで、化学の得意な菜緒なら理解できるかもしれない。あとで聞いてみようと、次の質問をしようとした時だった。


「葵! ちょっといい?」


 侑香が菜緒を連れずに戻って来た。どうやら菜緒は完全に酔って立てないらしい。昔から車酔いに弱いとは思っていたが、立てないとなるとさすがに心配になる。


「何? 菜緒そんなに気分悪いの?」


「いや! まぁ寝かせてるから大丈夫なんだけどさ……」


 ちょっと、と言ってコソコソ小声で話す侑香に葵は不安を覚えた。もしかして侑香の体調が思わしくないのだろうか。いつもより真剣な顔をし、言いづらそうにしている侑香に話しかけようとした時だった。突然胸元が明るくなり熱を感じ、思わず顔をのけぞらせた。


「あっつ!! 何!?」


「ご、ごめん!! てか! どうしよう!! うち手から火がでるようになっちゃったんだけど!!」


「……はぁ!?」


 侑香の手元を見ると確かに小さな火が浮いていた。侑香は熱くないのだろう。平気で小さな炎を手に近づけられている。だが葵には確かに火傷しそうなくらいの熱を感じた。


「「…………」」


 イレギュラーすぎて言葉を失い小さな火を見つめることしかできない二人に、ルーイは驚愕しながら侑香の手の中にある火を見つめる。


「これは……!? 葵君! 君も聖女の力で傷が癒えていたが、何か感じないか!?」


「え!? い、いや、あたしは特に……何も感じないですが……」


「侑香君! いつこの力に気づいたんだ!? どんな風に!?」


 矢継ぎ早に質問を重ねるルーイに少し答えに詰まってしまった侑香だったが、ルーイのあまりの剣幕に押され、ゆっくりとだが自分なりに答えようと努力する。


「え、えっと、実は怪我が治ってからわりとすぐに胸のあたりに変な感覚がしてて、……それで、えーと!えー……と! 火が出せそう!って思って、追い出された時のあの騎士みたいにやってみたら……出た……!!」


 物凄く頑張って自分の感覚を言葉にしたのだろうと葵は感じていた。ルーイは侑香の説明を聞いて少し考えたあと、己が出した結論を口にする。


「本当に……。エトナの伝説は、救世主の歴史は真実だったのか……」


「エトナの伝説?」

「救世主の……え? 何? 歴史?」


 歴史と聞いて嫌そうな顔をする侑香だったが、葵はルーイの答えに胸騒ぎを感じていた。なぜなのかはわからない。だが、なぜだか菜緒が自分達の所から遠くに消えていってしまいそうな感覚に襲われ、ルーイに質問をするのが怖くなった。


「ちょっ、ちょっとまって! その話は菜緒が元気になってからにしません? それに侑香も疲れてるでしょ。とにかく今日はもう休まない?」


 珍しく慌てる葵に侑香も急に不安になってしまったのか、葵の案を受け入れ大人しくなる。


「そうだね……。明日菜緒君が元気になってから続きを話そうか」


 葵の不安を察し、続きはまた明日と切り上げるルーイに葵はホッとする。ルーイは、侑香と葵に申し訳なさを感じていた。あの三人の友情は自分達が思っている以上に深く強固な絆で結ばれているらしい。


『葵君は頭の回転も速いが、勘も鋭いらしい……』


 二人の背中を見つめながら心の中で今一度謝罪する。そしてランドール国に心底怒りをぶつけたくなった。あの愚かな国が聖女召還の儀などしなければ、あの三人は元の世界で今も平穏の日々の中笑っていられただろう。


 きっとあの子達は大きな勘違いをしている。あの葵でさえ気づいてはいない。エトナの伝説を聞けば、きっとその真実にショックを受けるだろうとルーイは苦しい表情を隠すことができなかった。


『俺は、あの子達の選ぶ決断を何があっても支えてあげよう……』


 そう心に決め、ルーイは今自分がやるべき仕事をするため、指揮官として村の中心へと戻って行った。



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