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第1話:喧嘩してたら異世界に召喚されました

 うららかな春のもと、ここ北河高等学園の新入生達は新たな門出に不安と期待を胸に続々と体育館へと歩みを進めている。そんな祝福ムードの中、学年を1つ進めた2年3組の教室の中からは、それとは真逆な不穏な空気が醸し出されていた。


「菜緒って幼稚園の時からそう! なんでうちらに何も言ってくれないの? とくにうちのこと見下してバカにしてるよね!!」


 そう言って怒りをあらわにするのは、片方の髪をオシャレに編み込み、派手な茶髪が良く似合う少し頭の軽そうなギャルが自分の幼馴染に容赦なく詰め寄っていた。


「別に侑香のことバカにしたことも見下したこともないよ。言いたくても言えないことってあるじゃん! 何でそんな風に詰められなきゃいけないの?」


 菜緒と呼ばれた少女は、ストレートの綺麗な黒髪を少し乱雑に掻き、美しい猫目の形をさらに吊り上げ、怒りと呆れをにじませつつ、こうなった原因であるもう一人の可愛らしく震えている同じクラスの少女を睨みつける。


「ふぇ! ご、ごめんね菜緒ちゃん! 愛梨、菜緒ちゃんが悩んでたから力になってあげたくて……。だから菜緒ちゃんの幼馴染で仲良い二人にどうしたら元気づけてあげられるかな? って相談しただけなの! まさか二人に言ってなかったなんて……うっ……!」


 そう言って申し訳なさそうに泣きじゃくる度にふんわりボブカットに愛らしい顔をさらに魅力的にするためにピンクベージュに染め上げた髪がふわふわと小刻みに震えていた。そんな三人の様子を利発そうなもう一人の少女が冷静に立ち回る。


「三人とも落ち着きなって。侑香もいい加減こんなことで菜緒を責めるのやめな?菜緒は昔から自己完結させないと何も言わない性格だってわかってるでしょ」


「葵っていつもそう! なんでも見透かした気になってさ!! 昔からの友達なのに信頼してくれてないのって悔しいと思わないの!?」


「別に思わないけど」


「……んだと! てめぇ!!」


 葵と呼ばれた少女の胸倉を掴み上げ、ヤンキーよろしく前後に振る侑香。葵の下に左右にゆるく結び、毛先を軽く巻いた黒髪に一部青いメッシュを加えた髪がバサバサと無残にも崩れていく。


「侑香やめてよ! 葵はいつだって周りを冷静に見て言ってくれてるだけじゃん! 二人を私が信頼してないわけないでしょ!?」


「じゃあ何でアメリカに留学するってそんな大事なこと教えてくれなかったの!? 愛梨に聞いた時どんだけショックだったか知らねぇだろ!!」


 その時のショックを思い出したのか段々と口が悪くなっていく侑香。彼女にしては珍しく目尻に涙がにじんでいることに気づき菜緒は勝手なことをしてくれた、たかが高校一年の付き合いしかない愛梨に怒りをぶつける。


「まだ留学するって決まってないし、愛梨にも言ってない! こいつが職員室での会話盗み聞きして、勝手に喋っただけなんだって!! 私だってちゃんと決めて自分の口から二人に伝えたかったよ!!」


「こいつって菜緒ちゃんひどい……! 愛梨、盗み聞きなんてしてないもん……! 偶然聞いちゃって……。それから菜緒ちゃん元気ないから~!!」


 そう言ってさらに泣きじゃくる愛梨に菜緒は我慢の限界をむかえようとしていた。


 が、その前になぜこんなことになっているのか振り返ってみる。


 有坂菜緒に親はいない。というか親を知らなかった。生まれてすぐ、孤児院の前に捨てられていたところを優しい先生達に拾われ育ててもらったからだ。とても寒い冬の日だったそうで。それを5歳の誕生日に聞いた菜緒は、きっと両親は私を愛しておらずあわよくば死んでくれたらとでも思ったのだろうと、子供ながらに悲しい自己完結をさせた。


 そんな冷めた菜緒に二人の友達ができた。それが、七瀬侑香と中島葵だった。


 近所の公園で一人ブランコに乗っていた菜緒に二人が話しかけてきてくれたのだ。最初はどうしていいかわからず戸惑っていた菜緒だったが、侑香はもちまえの明るさで、葵は優しさと冷静さを兼ね備えた性格のおかげですぐに打ち解けることができたのだった。


 二人の両親もそれぞれ素晴らしい人達で、菜緒を孤児だからと敬遠せず暖かく受け入れる。自分はこんなにも優しい人達と一緒にいても許されるんだと心から嬉しかったときの事は菜緒にとって、昨日のことのように思い出せるほど大切な思い出なのだ。


 そんな暖かい日々に不穏な影を持ち込んだのが、桃原愛梨だった。


 推薦入学が決まっていた菜緒と合格確実な葵は、一緒の高校に入りたいと受験勉強を死ぬほど頑張っていた侑香の合格を三人で泣きながら喜び、そして高校入学してすぐの頃であった。同じクラスになって浮かれていた菜緒達に愛梨が時々近づいてきたのだ。始めは様子見だったのだろう。それが段々と図々しくなっていき何をするにも同じ班に入るようになり、同じ委員になるようになり、泊りの社会科見学まで同じ部屋になろうとしてきたこともあった。


 友達になりたがっている。根が優しく男女どちらにもオープンな侑香はそう言って特に気にしていなかったし、愛梨を受け入れてさえいた。葵はあまり感情を表に出さないため、どちらともはっきりとしたことは言えなかったが、悪いようには思っていないように見えた。


しかし菜緒は違った。愛梨から向けられる自分に対する嫉妬と少し執着に近いものをなんとなく感じていたのだ。そして、菜緒から侑香と葵を取り上げ、あまつさえ愛梨が自分の場所に居座ろうとしている気配さえ敏感に感じ取っていた。


 なぜ自分なのだろう?


 それだけがわからなかった。愛梨は菜緒と真逆といってもいいくらい違ったのだ。両親は優しく裕福な家庭に加え、持ち前の愛らしさから男女共に侑香とは違った人気もある。成績も中の上と悪くない。そんな何でも願えば手に入れられそうな愛梨が自分を狙っている……。そんな薄気味悪さが菜緒は苦手でしょうがなかった。


 『信頼してくれてないのって悔しいと思わないの!?』


 先程の侑香の言葉が胸に突き刺さる。信頼してないわけがない。ただ怖かったのだ。二人にこの気持ちを打ち明けて呆れられるのが、自意識過剰だと思われるのが……。



 あぁ、なんだ。私二人のこと信じてないじゃん。最低……。



 愛梨に対する怒りと自分に対する失望に菜緒の心はぐちゃぐちゃになりそうだった。そんな三人の様子を冷静に見ていた葵は、菜緒のいつもとは違う悲痛そうな顔が気になり話しかけようと手を伸ばす。しかし、そんな冷静に物事を見ていた葵でさえ気づかなかった。床に不思議な魔方陣が次第に浮き上がっていき、徐々に光を帯びていく光景が。揉めている四人は気づかない。そして、その魔法陣が一気に強い光を放つとその強すぎる光に驚くと同時に目が痛くなり混乱する。


「な、何!?」

「見えない! 侑香! 葵!!」

「……っ!!」

「きゃー!!なにー!?」


 それぞれの反応を尻目に今度は吸い込まれる感覚に四人は吐き気を感じるが、我慢することしかできなかった。やがて不快感は落ち着き、一瞬の静寂のあと割れんばかりの歓声が(とどろき)、驚いた四人は目を開ける。


「やった! 成功だ!! 召還の儀は成功した!!」


 一人の男が両手を広げ、目に涙をにじませ喜びの声を上げている。その男の喜びに呼応するように不思議な恰好をした大勢の大人達も大声で喜びを表現していた。


「聖女様だ! 聖女様がご降臨されたぞ!!」

「これでランドール国は安泰だ!! よかった! よかった……!!」

「聖女様! 聖女様のお力で魔獣とエトナの悪魔共にお裁きを!!」


 口々に大声で喋る大人達に四人はどうしていいかわからず恐怖から固まった。

 


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