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アイスフェス4

「ご馳走様でした。すみません、お待たせしてしまって」


「いえ、待ってるのも楽しかったですよ」


 どういうことだろうと首を傾げると、天野さんの表情がコロコロ変わるのでと言われた。

 そんなに変な顔はしていなかったと思うけれど。心外だ。


 少しムッとしてみると、するりと手のひらからカップが攫われた。


 捨ててきます、と数メートル先のゴミ箱へ向かう漆館さんの後ろ姿を目で追った後、自分の手のひらを見る。

 僅かに残る冷たさが今は切ない。数々のアイス達が残した冷気が熱い日差しに奪われていくようで、ギュッと手を握り込む。閉じ込められるわけ、ないのに。


「じゃあ、出ましょうか」


 戻ってきた漆館さんに声をかけられて、顔を上げる。


「ゴミ、ありがとうございました」


 ナチュラルに私の分までを取って捨てに行くものだから、咄嗟に言えなかったお礼を言う。気遣いの鬼だ。


 いえ、と短く返事をし、ふわっと目を細める彼にもう一つ言えなかったことを言う。


「あの……結局どのお店も付き合わせてしまった形で大丈夫でしたか?」


「アイスマスターの天野先生に絶対的な信頼をおいているので。どこもハズレなく美味しかったです。1日にこんな量のアイス食べたの初めてでしたけど」


「アイスマスター……マスターというにはまだ程遠い気がしますけど……あと、結構量もありましたし、お腹冷えたりとか……」


 最推し店舗の『gelato che ti fa sorridere』では行っていなかったが、店によっては、フェス用に一口サイズのもの、味見用のスプーン等、少量で手に取って貰いやすい工夫をしていた。丸々一個は多いけど、まだ食べたい、味は気になる、といった客の心理をよくわかっている。

 そんなわけで、無事に店の罠に嵌った私達は7店舗+リピート1店舗の計8店舗分の味を楽しめた。

 けれど、いくら少量といっても、胃の中で合わせれば同じこと。


「大丈夫ですよ。俺も天野さんと同じで明日休みなので、万が一体調不良になっても安全圏です」


 それなら良かった。とはいえ、明日健康チェックのメッセージを入れようと脳内スケジュールに書き足しをする。今は平気でも、もし明日体調を崩していたら何かお礼をしなければ。


「そういえば天野さん、言ってた通り、本当に方向音痴なんですね」


「……少し!少しです!というより漆館さん、マップ把握早すぎませんか!?」


 クスッと口角を上げる彼に必死の抵抗を試みる。


 待ち合わせ場所を決める際、◯◯の前といった具体的な名称ではなく、駅の東口としたのは、私の方向感覚の問題だった。

 案内表示を見ればなんとか辿り着けるので、とんでもない方向音痴ではないが、その手の感覚に若干疎いのは事実だ。

 念の為それをメッセージで伝えた結果、彼が私の着いた場所まで迎えに来てくれるという顛末になったのだ。


「そうですか?普通の速度だと思いますけど……」


「いえ、私が少し方向音痴なのを差し引いても、すごく速いと思います……気がついたら会場で、気がついたら目的のお店の前でした」


 私1人だったら、会場に着くのも一苦労、着いた後も地図を読み解くのにもう一苦労で何倍のも時間を要したであろう。


「いいナビになったようで良かったです。……あ、出口、そっちじゃなくて、こっちの方向です」


 斜め右に踏み出した足をピタッと止めて横を見る。


 口元を押さえて肩を振るわせる漆館さんがいた。


 「少し」と強調した側から恥ずかしすぎる。

 幸か不幸か、アイスで冷えた体が一気に熱くなった。


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