アイスフェス3
「こんにちは」
「本当にまた来たのか!?」
凄い記憶力だ。いくら閑古鳥が泣いていても、これだけ人が集まるフェスの来場者の顔を覚えていられるだなんて。
「はい。最後にどれを食べるかで迷って、原点回帰しました。また来てくれと仰ってましたし」
「はぁ〜!?嬢ちゃんも兄ちゃんも変わってんなぁ!俺ぁまた来てくれって言って1日2回も来る客なんて初めてだよ!」
確かに私達は変わり者の集まりなのかもしれない。2人とも自覚はないけれど。
「あれから計7店舗を巡って2人で総選挙をしたのですが、このお店の最高評価は揺るぎませんでした」
横で漆舘さんが首を縦に振るくらい、満場一致だった。満場といっても2人しかいないけれど。
「……そりゃありがてぇ話だ。そんで、フレーバーはどうする」
おじさんが毛量の少ない頭を掻きながら視線を斜め下に逸らす。
「勿論、ノッチョラで。あとサイズはまたピッコロでお願いします」
「即答で前と同じフレーバーにサイズか。お前さん達は本当に面白ぇな……ちっと待ってろ、直ぐに用意する」
くつくつと笑われるが、面白い要素はないと思う。
最初に食べた味が忘れられない魔法をかけられたのだから仕方がない。至極当然だろう。
そんなおじさんは、言葉通り直ぐに2つのカップを用意してくれたが、前とは表面が僅かに異なっていた。
「……これは……ヘラの返し跡が……ない……」
「嬢ちゃんはまたよく知ってんなぁ」
「サービスってことですよね?ありがとうございます!」
「そういうのは口に出すなや」
盛り付け使われたヘラがカンッと音を立てる。少し荒々しくヘラをホルダーに戻すおじさんはやはり照れ屋さんなのだろう。それでも道具を扱う丁寧さが見え隠れするくらいの軽い金属音だ。ジェラートへの愛も変わらない。
「どういうことですか?」
漆舘さんが首を傾げてジェラートに顔を近づける。右から見たり、左から見たり。
「盛り付けの最後にヘラで戻し撫でを入れるんです。そうすると表面の線がなくなって、均一な光り輝くジェラートになります」
「へえ……?俺には違い、分からない気がします」
首の角度が増す漆館さんだが、少し楽しそうで。早くこの凄さを知って欲しい。そうしたらもっと、もっと幸せな気持ちになるはず。
「食べたら分かると思います!スプーンが入りやすくて、軽い味わいで、溶け方が均一なんです!」
「じゃあ早速移動しましょうか」
このアイスフェスでは、トラブル防止と行列回避のため、食べ歩きと店前の立ち食いが禁止されている。
先程同様、おじさんにお礼を述べてから、宝物のような小さなカップを手に『gelato che ti fa sorridere』を後にした。
『gelato che ti fa sorridere』ージェラートが君を笑顔にするー




