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アイスフェス

アイスフェス編は、柚木ちゃん視点のお話です。

彼女からの目線も楽しんで頂けると幸いです。

 文月に入り、ようやくカフェメニューにも夏の味覚が出てきた頃。漆舘さんの誘いで、何度目かのランチに来ていた。


 彼からは、頻繁過ぎず、稀過ぎず、適度な頃合いでメッセージが届く。

 踏み込まれ過ぎず、突き放すこともないような程よい感覚は、嫌ではない。


 最初こそ緊張感と多少の警戒心はあったが、いつの間にか解きほぐされて、無言の間も怖くなくなった。


「天野さん、これ……」


 閉じられたメニューの代わりに、スマホの画面が差し出される。


「……アイスフェス、ですか?」


「はい、今週末からムーンシャインの屋上でやるみたいで」


 ムーンシャインといえば、図書館からやや離れた場所にある大型のショッピングセンターだ。その近くには大きめの本屋もあるため、私も時々利用する。


 けれど屋上には行ったことがなかった。そこで行われる催し物には縁がないし、通常は自分と関わりがない、所謂陽キャの人達で溢れかえっているからだ。


「それで……もし良ければご一緒しませんか?地方限定のものや有名ホテル監修人気スイーツ店だとか、とにかく色んなアイスが味わえるみたいで。天野さん、この前アイスお好きだと言ってたし、どうでしょう?」


「行きたいです!是非!」


 漆館さんの大きく開かれた目を見て、はっと我に返る。

 自分でも驚く程条件反射で返事をしてしまったが、アイスフェスだなんて天国のような場所への誘いを断る選択肢は、微塵もなかった。


「あ、でも、私でいいんですか?ご友人や恋人とか……」


 彼はファッション不自由さといった悩みを抱えているが、友人と呼べる友人がいない私より遥かに交友関係は広そうだ。

 整った顔立ちに華やかな服装。加えて一度助けただけの私へのお礼をする義理深さと優しさに惹かれる特別な相手がいても何ら疑問はない。


「天野さんと、行きたいんです。すごく親しい友人や恋人もいませんし……天野さんこそ、恋人とか……」


「私もそういった相手はいないので大丈夫です」


「良かったです」


 彼はほっとしたような、フワッとした笑みを浮かべる。


 そんなに安堵しなくとも、と思ったが、修羅場にならないから都合が良いのだろう。私と行きたいというのも、自由な格好でのびのび過ごせるから楽というのが関与していそうだ。


 それにしても、彼も親しい友人がいないのか。少し意外だけど親近感。

 約束をせずとも、毎日学校で会うことのできた学生時代と違い、社会人になると連絡を取り合う意思がなければ友情は解けていく。大人になって友人が減るという人は案外少なくないのかもしれない。


「いつにしましょうか。アイスは休日前限定ルールでしたよね?俺、今は仕事落ち着いてるのて、もし休みが合わなければ天野さんの休みに合わせて有給もぎ取ります」


 アイスルール、覚えられていたなんて。記憶力良いなあ。


「ありがとうございます。きっとその日に限っては1日1個の決まりは破ってしまうと思うので……翌日が休みの時に行けると助かります」


 鞄から手帳を取り出し、休日の印である赤丸を探す。


「直近だと来週の水曜日と木曜日が休みなので……火曜日の終業後か水曜日は如何でしょう?」


彼は来週の火曜か水曜ですね、と言いながらスマホを手に取る。どうやらスケジュールは電子管理派らしい。


「じゃあ、一旦水曜日で良いですか?駄目そうだったらまた連絡します」


「わかりました。私は来週に備えて体調万全にしておきます」


色とりどりのアイス、ショーケース一面に広がるアイス。少し想像しただけでも胸が高鳴る。


 来週まで、禁酒ならぬ禁氷菓をしてもいいかもしれない。禁氷菓明けの快感を思えば、1週間くらいアイス抜きでも持つ気がする。


 まだ見ぬ夢の空間に想いを馳せて、彼に別れを告げた。

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