真面目
ランチ会の続きです。
前話と合わせてお楽しみください。
ガヤガヤとした店内に、食器の音が吸い込まれていく。
なんて声をかけて良いかわからず、暫く皿の中身を減らすことに専念していたが、このまま今日を終わらせたくはなかった。
「このカレー、野菜の甘みがしっかり出てるのに具材が大きくて食べごたえがあります。野菜って煮込んだらどんどん小さくなってくイメージがあるんですけど、どうやってるんでしょう」
ここは食の力を借りようと話を逸らすことにした。流石ランチに力を入れている店とあって、味は抜群だ。
「……私、真面目って言われることが少し苦手なんです」
「え?」
「高校生の時に人から真面目でつまらないって言われたことがあって……真面目って褒め言葉でもあると思うんですけど、それ以来マイナスの意味で捉えることが増えてしまったんです」
彼女が箸を置きながら俯く。長い前髪に隠れてしまって表情はよくわからない。
「勿論、皆がみんな、悪意を持って口にしているわけではないとは分かっています。それでも、時々理屈と感情がチグハグになってしまって」
真面目は素晴らしいことだ。でも、一定層から強く嫌われることがある。
今まで「いい子で正しい子」が陰口を言われたり除け者にされているのを見てきた。
真面目さを嫌う人間は、自分ができない正しさを、真面目な人を排除しようとする。その理由が恐怖心からか仲間意識を感じないからかは分かりたくもないが。
人間誰しも苦手なタイプはいるだろう。俺だっている。そこは仕方がない。
けれど、嫌なら関わりを持たなければいいだけだろう。仕事でどうしても関わらなければいけないというのは話が別だが、高校生だ。せいぜい席が近いだのグループワークが一緒くらいの関係で終わらせられる。
接触を極力減らせばいいだけのはずが、わざわざ彼女にナイフを突きつけたやつに怒りが込み上げてくる。そのナイフ、後ろから突き返してやろうか。
「あの、俺の真面目の定義はプラスの方の意味なので!」
「……ありがとうございます」
なんて声を掛ければいいんだろう。苦笑いをして欲しかったわけではなくて。
天野さんが俺を救ってくれたみたいに、俺も少しでも彼女の痛みを減らしたい。だけど上手く言葉を紡げない。彼女と俺では語彙の量に差がありすぎる。
「暗い話をしてしまってすみません。そろそろお昼休みが終わるので、失礼しますね」
席を立つ彼女の後ろにある時計の長針は気がつくと一周目前で、手元のグラスは汗をかいていた。
「あの!天野さんは真面目だと思います!」
見るからに影が宿って、彼女の色が消えていく。ああ、心が痛い。
「いや、そうじゃなくて……素敵、だと思います。本当に、心から。でも天野さんが嫌ならこれからは真面目って言わないようにしようって、そう思ったんです。でも、それも違うと思って、天野さんの真面目さは天野さんの素敵な部分の一つだから、俺は、殺したくなくて、だから……」
これからも真面目と言っていいかと許しを乞うのは強要するようで嫌だった。けれど後に続く最適な言葉が見つからない。そもそも自分が何を言いたいのかもわからなくなってきた。
「こんなに向き合ってくれる漆館さんの方が真面目じゃないですか?」
「いや、それは……」
好きだから、なんて口に出せるわけもなく再び口籠もる。
「そういう所、素敵だと思います」
その返しは卑怯だ。いつも彼女の方が一枚上手で敵わない。でも、花が綻ぶように笑う彼女を見て、身体の強張りが解れた。
「あ!時間!俺が引き留めたせいですみません、急いで出ましょう!」
今日の発見は3つ。1つはアイスが大好きなこと。2つ目はアイスルールがあるくらい真面目だということ。3つ目は、真面目な評価が少し苦手だということ。
もっと色んな面を知りたい。




