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エーメス(混生)

随分と觔斗雲で飛び回ってみても、まったくウォーター・ブラインドの場所は見つからない。

あの猿獣人狩りの奴等は確かに、森を抜ければすぐ!とかと話し、西の方向と猿獣人達も言っていたから、この辺で間違いないはずだ。

けど、いくら探してみても目立つものといえば『ナイアガラの滝』みたいな超巨大な滝、それだけだった。

しばらく上空で待機して、よく観察してみる。


「まったくどこだよ、ウォーター・ブラインドってよー?」


ぶつくさ文句を言って、地上を眺め考えた時だ。

ふと、ある事に気がついた。


「これ、なんか変だな⁉︎」


超巨大な滝はある、けど何かがおかしい。

それを形成するに見合う、川が一本も合流していなかったのだ。

上空から見てみると、確かに都市一つがすっぽり入りそうな大きさの湖はあるけど、水源が無ければ必ず枯れ果てるはずだ。 だいたい湖の水も減っていく様子など見られなかった。

もしかして雨を水源にしているのかな? 

そんなはずはない。 これだけの放水を毎時しているってことは、貯まってからなんて悠長な滝、一時的に出来たようなものではないはずだ。 


その事に気づいたからか、どこか水面も平らではないように見えてきた。

よくよく眺めてみると、一瞬だけ水面がドーム状にも見える。

やっぱり何かがおかしい、とりあえず近くまで行ってみた。

確かに、ゴゥーゴゥーと滝らしい音は聞こえている。

でも、やっぱりおかしかった。

基本的なものが逆、水の流れが上から下ではなく、下から上になっていた。

おそらく、水の流れを逆にしてドームを形成していると思う。 なるほど、これなら水源は必要としない訳だ。


「もしかして、この中にウォーター・ブラインドって所が⁉︎」


そう思い、逆を向く滝の流れに腕を突っ込んだ瞬間だ。 いきなり電流みたいな衝撃が俺に襲いかかってきた。


「グッギャァァァァァーーー、しっ、しっ、痺れるぅぅぅーー!」


物凄い電流の嵐が身体の中を駆け巡る。

全身の筋肉が引き千切られそうだ。


でも……あれに比べれば、ぜんぜん大したことはない。

あの嫌がらせみたいな、婆さんの余計な演出を体感日数で7日耐えきった俺、こんなのぜんぜん余裕だ。


「こんなの、なんぼのもんじゃあーー!」


駆け巡る電流みたいなののせいで、身体を突っ張らせようとする作用に、おもいっきり反発してやることにした。

全関節を自分の意思で曲げて対抗してやる。

孫悟空の身体は、誰の支配も受けない!そう言いたげにだ。


「どりぁぁーー!」


一気に水流に突っ込んだ腕を曲げた瞬間だった。


バァーン!


まるで経年劣化によって電化製品がショートした際に発する、断線した轟音が上空から響き渡り、電流みたいものの痺れも止まった。


「よくわからないけど、これも魔法だったのかな⁉︎

……って、ええっー⁉︎」


どうやら、本当に魔法だったらしい。  

これは結界って言うのか、この電流みたいなのはウォーター・ブラインドを守る警備装置的なものだったみたいだ。

その証拠に、下から上へと流れていた水流は大雨みたいに降り注いでくる。

それが終わると、ゆっくりと本当の姿を現してきた。

巨大な湖の中央に聳え立つ、三国志に出て来そうな城、これがウォーター・ブラインドの真の姿だ。


「こりゃ凄いな。

まるで、万里の長城を生で見ている気分だ!」


あんな風な防御壁を幾重にも張り巡らした城。

見ているだけで5泊6日の中国旅行でもしている、そんな壮大な気分になれそうだ。


そう感心して眺めていると、こちらに何やら変な奴等3人が飛んで来た。 

そいつ等を例えるなら、子供の頃にテレビで見た気がする、二本足の人型蝙蝠って感じの奴等だ。


「なんだぁ⁉︎ エーメス様の結界魔法が破壊されたぞ!」


「そんな馬鹿な、エーメス様の結界だぞ⁉︎

では、侵入者がいるのか?」


「おい、あそこだ! 

あそこに侵入者がいるぞ、しかも猿獣人だ!

ぶっ殺せー!」


さっそく、凄い速さで襲いかかって来た。

『猿獣人だ!』とか『ぶっ殺せー!』とかと敵意満々で叫んでいるところからすると、こいつ等が『貴族』で『ヴァンパイヤ』とかいう奴等で間違いなさそうだ。


じゃあ俺も、ぶっ殺す気でやって良いってことだよね! 俺、ワクワクしてきたー!


「觔斗雲、来て下さーい!」


ここに来る前に、觔斗雲の性能テストは終了済だった。 おそらくスピードは、最高マッハ3くらいは出ていたと思う。

それにサスペンションと呼ぶべきか、緩衝装置機能も完璧、乗り心地は悪くない。

たぶん、制動距離も3mくらいだった。

まぁ孫悟空の身体と能力が無ければ、とても乗れたものじゃないのは確かだ。

でも今思うと、やっていないテストがあった。

それは空戦テストだ。

ちょうどいい、こいつ等で試すとしよう!


すぐに觔斗雲に飛び乗り、こいつ等に向かっていった。 まずは回避性能を確かめる。

次々と3人掛かりで長い爪を突き立ててきたけど、即座に俺の意思を汲み取って容易に躱せた。

小刻みな動きにも忠実に対応は出来ている、これなら申し分ないだろう。

後は攻撃性能。 でも機銃やミサイルなんてものは、当然無いから俺との連携攻撃となるのは致し方ない。


「よし觔斗雲、あの真っ直ぐ突っ込んで来る奴からやるぞ!」


突撃してくるヴァンパイヤに向かって、真っ直ぐ飛ぶ。

ギリギリの瞬間で長い爪を躱してから、俺もパンチをヴァンパイヤの顔面に向けて放った。

いわゆる、カウンターパンチってやつだ。

そんな俺のパンチ、そして觔斗雲のスピードが合わさって生み出す威力は、壮絶で残酷なものになった。

ヴァンパイヤの顔面は一瞬で無くなり、代わりに紅い霧を残していくしかない。

それを見て逃げようとしたヴァンパイヤには、追いかけてからの急制動を利用し、跳ね飛ばされた威力を加味した飛び蹴りを放つ。

当たった瞬間、無残にも両手両足と羽は四散して木っ葉微塵になってしまった。

はっきり言って、これ弱すぎだろ。


「ぜんぜん、大したことないじゃん。

偉そうに『貴族』とか名乗ってんだろ!? だったら、もっと俺をワクワクさせてくれよ!」


ヴァンパイヤとかいう魔族らしいけど、正直拍子抜けだった。

ワクワクどころか失望感しか起こってこない。


「もういいよ、さっさとエーメスとかいう奴を呼んで来い! 

お前は生かしておいてやるからさー!」


でもだ、何を思ったのか、ヴァンパイヤは聞いてきた。 でも、それは当たり前のことだ。


「おっ、おっ、お前何者なんだよ⁉」


「えっ、俺か? ああっ、まだ名乗ってなかったな」


マギダリアに聞かれた時に決めた、『孫悟空』と名乗ろうかと思ったけど辞めた。

これからの猿獣人達のことを考えれば、この世界でインパクトのある名前の方を残しておいた方が良さそうだと思えたからだ。

だから、おもいっきり叫んでやった。


「俺はイクォール・ツゥー・ヘブンだ!

復活して帰って来たぞー!

よくも俺様のウォーター・ブラインドを、ヴァンパイヤ如きが乗っ取ってくれたな!

エーメスとかいう、ふざけたガキを今すぐ連れて来い、ぶっ殺ろしてやるぅぅー!」


自分でも、びっくりするくらいの大声が出てしまった。

でもウォーター・ブラインド全域を覆い尽くすには、これくらいで十分だと思う。 インパクトは残せたはずだからだ。

これが功を奏したのか、ヴァンパイヤは慌てふためきながら飛んで逃げ始めた。

どうやら、俺の思っている以上に『イクォール・ツゥー・ヘブン』は、この世界では絶大な存在らしい。


じゃあ一層のこと、攻め込んだ方が良くない? そう思えてきた。

逃げるヴァンパイヤを追いかけて、付かず離れずの距離を保って、後ろから怒鳴り続けてやる。


「おら、遅いぞ!

早く飛べ、もっと気合いを入れて飛べ!」


どんどん恐怖感に煽られて、ヴァンパイヤの翼がチグハグな動きになって、より遅くなった。


「ひっ、ヒィイイー」


「こんな風に、お前等も猿獣人達を虐めていたんだろうがぁ!

さぁ叫べ、もっと怯えろ!」


ふと、こんな感じで煽っていた時に思った。

俺って、こんなに嫌な奴だったのかと……。

静かに穏やかに暮らしていた、特に文句なんて言った覚えも無い、ましてトラブルに首を突っ込もうなんて思わない人間だったはずだ。

それが昨日今日会っただけの他人の為に、殺しまで平気でやり、高揚感満載で戦いの中に身を投じようとしている。

俺の魂が『孫悟空』という能力に、魂まで支配されつつあると思わざる得なかった。


そうこうしていると、大きな鉄のようなもので作られた門が見えた。

どうやら、あれが入り口みたいだ。


「おい……約束どおり生かしてやる。

二度と猿獣人達に関わるな!」


本当は、後頭部でも殴って殺そうと思っていた。

でも、それをすれば『俺』が『俺』で無くなる気がしてきて辞めた。

少しだけだったけど、恐ろしいと思えたからだ。


ヴァンパイヤが逃げたのを確認してから、本来なら殺すために握った拳で、おもいっきり門を3回殴った。

さすがにイクォール・ツゥー・ヘブンが防御を固めた門、一発では収まらず三発を必要する。 

けど結局はぶっ壊れて、城の奥へと飛んでいった。


「エーメスとかいう馬鹿野郎、すぐに出て来い!

イクォール・ツゥー・ヘブン様が来てやったぞ!」


これまた大声で叫んでやると、すぐに先程殺してやった奴等と同じようなヴァンパイヤ達が殺到して来た。

ざっと見て90くらいだと思う。


「イクォール・ツゥー・ヘブンの襲来だぁ、囲んでぶっ殺せー!」


「やってみろやー、クソ雑魚供がぁー!」


もちろんだけど、大したことはなかった。

単に数で押してくるだけだ。

時にパンチ、時にキック、面倒くさくなると張り手一発で始末していく。

その度に全身が返り血で染まっていくけど、むしろ誇らしくなっていった。

楽しくて仕方ないんだ、笑いが止まらない。


「気合いを入れて掛かって来い、もっと俺を楽しませろ!」


圧倒的な力に酔いしれて、どんどん気は大きくなり、そして楽しくなっていく。


あの時と同じになってしまった。 気が付くと、ヴァンパイヤ達の無残な死体が俺の後を追うように倒れ、軽く見渡しただけでもわかるほどの豪華な大広間にいた。

目の前には、昔やった記憶のある歴史ゲームに出て来そうな中華風の立派な鎧を着込んだ3人と、明らかに場違いなタキシードみたいなのを服を着た男が真っ青な顔をして立っている。

たぶん3人は副官とか幹部あたりで、タキシードの男はエーメスで間違いないだろう。

では、さっそく戦いの狼煙を上げてやろう!


「お前がエーメスだな……さぁ、遠慮なく勝負させて貰うぞ!」


「ちっ、違います、間違ってます!

エーメスは、こいつです!」


どうやら間違えたらしい。 タキシードの男が一番近くにいたヴァンパイヤの後ろに隠れながら言った。


「えっ……違うの⁉︎」


「違わない、違わない!

やめて下さい、エーメス様!」


「馬鹿野郎、お前がやられている間に俺の最大魔法を喰らわしてやろうと思っていたのに!」


「そんなエーメス様……殺生な……」


部下達でさえ、あの程度の強さだった。

あいつ等の十倍の強さと考えても、きっと大した強さではないのだろう。

もっとも頼りにした部下でさえ盾にして、身の安全を確保しつつ、隙を狙うような戦い方を選択するような嫌な奴だ。

きっと今までも、そういった戦い方を選んで上がってきたヴァンパイヤなのだろう。

こういった輩には、圧倒的な戦い方を披露して絶望を与えてやるまでだ。


「おい……その最大魔法とやらを俺に使ってみろ。

準備している間は待ってやる。 ってか、敢えて受けてやるよ」


「えっ……そんなこと言って、詠唱中に襲い掛かるつもりだろ⁉︎ 俺は騙されんぞ!」


「じゃあ条件を付けよう。

その最大魔法を俺が耐え切ったら、三発だけ殴らせろ。

たった三発だ、頑張れば耐えられるかもしれないぞ」


「えっ……えっ⁉︎」


「俺は、どっちでもいいんだ。

今すぐ、お前に殴り掛かっても……さぁ、どうする?」


「……約束は破るなよ」


「あぁ、約束は守るようにしているからな」


少し安心し、且つやる気になったのか、さっそく何やら長い呪文を唱え始めた。

聴いていても、さっぱり意味はわからない。

けど部下の3人も固唾を飲んで見守ってはいるが、どこか勝利を確信した表情も浮かべ始めている。

随分と自信があるみたいだ。


そして、ようやく終わったのか叫んだ。


「イクォール・ツゥー・ヘブン、さぁ死にやがれ!

我が最大魔法にして最強魔法、『ウルトラ・スペシャル・ライトニング・ストライク』!』


バリバリバリバリバリバリバリバリーーー!


途轍もない雷が俺に襲い掛かる。

しかも一瞬じゃなくて長い間、まるで強烈な電子レンジにでも入れられた気分だ。


グッギャャャー!


確かに凄いとは思う、あの人間達の使った魔法よりも遥かに強力、でもそれだけだ。

強いて言えば、あの滝の流れに手を突っ込んだ時に痺れた、あれの1.5倍って程度だろう。


「どうだ、我が最大にして最強魔法『ウルトラ・スペシャル・ライトニング・ストライク』は!

……えっ、あれ⁉︎」


「あぁ、人間達から分捕った服がボロボロだぁ。

お前の服、後で貰うからな。

じゃあ約束だ、三発殴るぞ。 

まずは一発、しっかり耐えろよ!」


「やっ、やっ、やめ……」


「まずは虐められてきた猿獣人達の恨み」


普通に腹を殴った。 さすがにヴァンパイヤ達の上に立つ者、少しは耐久力はある。


「次二発目、これは攫われた猿獣人の子供達の恨み」


今度も腹を殴った。

今度は身体が九の字に曲がり、嘔吐物まで吐き出した。


「最後……三発目。

これは……これは……これは俺の恨み。

あの婆ぁ……間違えてんじゃねーよ!」


これには最大の力と感情を込めて、おもいっきりエーメスの顎を目掛けて殴った。

最期に『婆⁉︎』という呟きを残してエーメスは、やっぱり紅い霧となって死んだ。


「これで終わりだ……」


こうして俺は、ウォーター・ブラインドを奪還した。





















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