アルバトロス先生によるありがたい授業①
二人は校長室を離れ、同じ階にある長い廊下を進んだ先の古びた部屋にいた。
「今日から君は1週間ここで過ごして貰いますねぇ~」
「長すぎるよー」
部屋の真ん中にひとつだけポツンと置いてある椅子に姿勢悪く座りながらセルディックは言った。
「君は力はあるけど知識がないですからねぇ」
「ぐぬぬ…」
「とりあえず簡単な算術とこの世界についてのある程度の基礎知識をつけていきますよ。
バシバシいきますからご覚悟を」
なんでウキウキしてんだ、この人…
それにしても、1週間もこのボロ部屋で暮らさないといけないのか。
お願いだから蜘蛛とか出るなよ……
パッン!!
ニコニコ教師が手を叩いた
「では早速ですが、授業に入らせて貰いますよ。
セルディックさん、挨拶!!」
「お、お願いします…」
1週間に渡る長いながーい授業が幕を開けた。
「では、最初ですから
しっかりとした私しの自己紹介をさせていただきますね」
「校長の孫とかいってたよね」
「その通りです。
改めましてアトリ=アルバトロスと申します。
普段は校長の補佐をしています。
副校長という役職ですね。
まだ23歳なのにすごいでしょ。ウフフ
なのでここでは、先生と呼んでくださいね」
俺はこいつと1週間過ごさないといけないのか…
「あなたのことは事前に聞いていますから、
自己紹介は不要ですよ。
あ、したいなら大歓迎ですよ」
「いえ、結構です」
「あら残念ですねぇ
では、授業に入りましょう。
今日はこの世界の常識について知りましょうか」
まぁ確かに、あんまこの世界のこと知らないからなぁ。
あんまりクロノスに聞いたことねぇし…
教えられたのは、ほぼ戦闘と読み書きばっかりだったしね。
あ、女の子の扱いについては念入りにいわれたな。
「知ってるとは思いますが、
この世界は大昔に初代世界皇帝によって、ひとつになりました。
そこで言語も統一されたんですねぇ。
その後、再び分裂することを防ぐために
3つの勢力で均衡を保ってるんですねぇ」
アルバトロスはチョークを持ち、前にある黒板に書き出した。
『皇帝直属特選騎士団』
『地方統率師団』
『私営ギルド』
アルバトロスによると、この3つがこの世界の勢力を三分しているらしい。
「それぞれについて詳しく説明しますねぇ。
まず、皇帝直属特選騎士団です。
10人で構成されています。
そのため、別名、十字の星影と呼ばれています。
カッコいいですよねぇ?」
そうニコニコしながら問いかけてきた。
「この騎士団は皇帝の指示にのみしたがって動く精鋭部隊となります。
無論、これに選ばれるには相当な実力者でないといけません」
「強そうだね」
「皇帝によって直接選ばれる猛者どもばかりですし、
何より三大勢力の一角ですからねぇ。
ですが、かなりの厚待遇を受けれますし、
あなたもぜひ目指してみれば?」
給料高いなら目指しても良さそうだな…。
「次は地方統率師団です。
こちらもかなりの強者が集まっていますねぇ。
この師団は世界に4つあります。
それぞれ管轄の、
各地方を統治する役割を担っていますねぇ。
ちなみに2、300人程度で構成されていますよ」
「それに入るにはどうすればいいの?」
「お、興味が沸いてますねぇ。
良いことです。
志願者は普通、試験を受けるんですが…
稀に向こうからオファーがくることもあるんでよねぇ。
あなたは神之間の操挙者ですし、
それを狙ってもいいかも知れませんねぇ」
愉しげにアルバトロスは語った。
「最後は私設のギルドですねぇ。
具体的に言えば戦力を持つことを許される世界経済機構を構成する、
10社の大企業の私設ギルドのことを指すんですねぇ。
巨大な経済力を活かし、近年、
勢力を伸ばしているのも事実なんですねぇ。
ここだけの話、
貰えるマネーがすごいですよ」
やっぱり世の中はお金なのね…
「さぁて、次はこの世の中心である八大都市について話しますねぇ」
「八大都市、なんか聞いたことあるなぁ…」
「あら、流石のセルディック君も知ってましたかねぇ」
なんかこいつ鼻につくな、さっきから。
「知っての通り、ここ皇都セイノールをはじめ
プフォレ、ドロニカ、ナイルトール、メラ、
フタソッシェ、ラザトニア、ナルホメガレル
から成る大都市の総称のことです」
「先生は全部行ったことある?」
「ナルホメガレル以外は行ったことありますねぇ。
あそことても寒いんですよ。
私、とんでもない寒がりでしてねぇ」
だから今もずっとマント羽織ってるのか、、
とはいえまだ夏の終わりかけぐらいだけど…
「だから私、カッコいいでしょう?」
「関係ないと思うけど…」
「はい、先生に反論しない!
次は反省文書いて貰いますからねぇ」
やっぱり、
こいつと1週間なんて先が思いやられるな…
しばらく先生との会話が続いた。
ちなみにアルバトロス先生はナイルトール出身らしい。
一家のルーツがそこなんだとか…
あんまり詳しく教えてはくれなかった。
「それじゃあ、そろそろ今日の授業は終わりにしましょうか。
明日は算術をやりましょう。
あ、食事は私の特製料理を振る舞うのでご安心を」
不安しかないのだが…
「寝るときは?」
「もちろん、地べたですよ」
「え?」
なに当たり前のように言ってんだよ…こいつ、
「操挙者たるもの、
どこでも寝れないとだめですよ」
「えぇーなんで?」
「色んな仕事をしなくてはいけませんからねぇ。
そのための訓練だと思いなさい。
返事は?」
「はい…、先生」
そうして一日目は終わった。
予想通り先生特製鶏肉蜂蜜レモン雑炊は雑巾の味がした。
これを1週間食わないといけないのか……
ーーーーーー
2、3日目は算術の授業だった。
いままでほとんど数字に触れることのなかったセルディックにとっては、
これまた、地獄のような時間だった。
「あなた今日、九九が覚えるまで終わりませんからねぇ」
「もう、解放してくれぇ!」
この日の夜はバカでかい蜘蛛が出た。
もう助けてくれ…
ーーーーーー
4日目に入った。
やっと折り返し地点だ。
「7×8?」
「56!!」
「7×9?」
「え~と、あれだよあれ……63だ!!」
やっと最大の壁である7の段をクリアしたぜ、
クロノスが学問を教えてくれてたら
こんな地獄を見ることはなかったのに…
「まぁとりあえず、いいでしょう」
「よっしゃー!」
セルディックは九九をマスターした。
「では、次に進みましょう」
「やっと解放か…
で、何をやるんだ?」
腕を組みながら聞いた
「本を呼んで貰います」
「ほ、本…?」
「はい、読み書きは出来ると聞いているので、問題ないでしょう?」
「いや…読めるけどさ、どんな本?」
「過去の歴史や文化などを題材にしたものです」
うわ、全然興味ないぞ
「興味なさそうにしてますが、
読み出してみると意外と面白いですよ」
「もちろん1冊だよね?」
「もちろん10冊です」
セルディックの目の前にドサッと大量の本が置かれた。
おいおい、ひとつひとつのボリュームが半端ねぇな。
「今日と明日で読みきってくださいねぇ」
「まじ?」
「マジですよ。ウフフ」
仕方ない、
もう、やるからには読破してやるよ!
明日にはもう大賢者だな…
ーーーーー
2日間に渡る読書合宿が始まった。
まず約1000年前の初代世界皇帝による世界統一について書かれた2冊を読んだ。
物語仕立てになっている。
上巻は世界統一するまで、下巻は統一後の話だった。
上巻は面白かったけど、下巻は難しかったな。
フィクション色が強かったから学ぶことは少なかったけれど、初めて神之間に目覚めたのが初代世界皇帝なのは驚きだったな。
一日目は4冊読むことができた。
1000年前の話の後に読んだ2冊は、200年前にあった戦乱と世界経済機構が出来るまでについて書いてあった。
そう言えば、学んだことはその日の夜に紙かなんかにメモしとけって言ってたな。
書いておくか。
世界統一
·後の初代世界皇帝になるセイノールとその仲間のラピッド、ヤルン、ファルザンの4人を中心にして何十ヵ国もあった当時の世界を統一した
·セイノールは史上初めて神之間が覚醒した人物である。また、セイノール大学校は彼が統一後に建てたことで有名である。
·皇帝制はセイノールの死後も現在まで続いており、その血筋が代々皇帝を継いでいる。
·セイノールは4人いる歴代最高戦力保持者のひとりであると伝えられ、生命をつくる能力があったと言われている。
200年前の戦乱
·皇帝制保守のモルペウス派、反皇帝のカイロス派に世界が2つに別れて争った。
·モルペウス、カイロスはそれぞれ時に関する能力を持っていたと言われ、2人とも歴代最高戦力保持者に含まれている。
·最終的にモルペウス側が勝利して戦いは幕を閉じたが、カイロスの死は確認されていない。
·世間一般的にはモルペウスが正義、カイロスが悪という認識。
·カイロスは翼が生えていたと伝承され、その姿ゆえ堕天使と呼ばれており、今なおカイロスを崇める犯罪宗教団体もあるんだとか…
世界経済機構
·世界的に影響力を持つ10社の大企業によって組織される
·10年に一度入れ替わりの会議が世界経済機構の本拠地があるメラで行われるが、この機構が発足して以降、入れ替わったことはない。
·特権として私益のために動かせる兵団をそれぞれ設置することが認められている。
まぁこんなところかな。
先生の言った通り、意外と読書って面白かったなぁ。
本なんて別世界のものだと思ってた俺がここまでのめり込めるなんて、驚きだ。
明日も頑張ろっと。
ーーーーー
翌日になった。
セルディックは人が変わったように早朝から読書を楽しんでいた。
昔の話になればなるほど資料が少ないから、フィクションが強くなる傾向があるな…
まぁこの本が最後の1冊だから読みきってしまおう。
ちょうど10冊目を読み終わったときに、特製昼飯を持ってきたアルバトロスが部屋に入ってきた。
「え、もう終わったのですか?」
「うん、先生の言う通り面白かったね」
「あなたの集中力はすごいですねぇ。
また1つ、あなたの強みが知れて良かったです」
セルディックは速読をマスターした!
「では、明日からは空拳について教えましょう。
今日はゆっくりしてていいですよ」
「じゃあ、また新しい本持ってきて!」
「あなた、すっかり別人ですねぇ…」
そう言うと、アルバトロスの特製カエル肉ハンバーグをたいらげ再び読書を始めた。
読書合宿2日間に読んだ本
·八大都市旅行記
·失墜のドロニカ王国と再来の栄光
·消えたカイロス(ほぼフィクション)
·世の夢、メリンカ闘技場
·千年の最高戦力保持者(歴代最高戦力保持者の分析)
·世界経済機構の闇(作者の思想強め)