ep.Ⅶ 女教皇と相談者あるある
「ということがあったんです」
二千花は喫茶〈フールー〉にて、メンバーに先日のデートについて報告した。
水都と夢義が並び、対面に二千花と乙羽。
愚痴を話したかったのではなく、彼の真意がなんだったのかが気になったからだった。
水都は女子トークに気を遣って席を外そうとしたものの、聞いてほしいとのことで同席。
話を聞いていると、自分の占いが原因の一つでもあると気づいて同席して良かったと思う。
一方で乙羽は、二千花にどう伝えるべきかに悩んでいた。
同じ女性として、二千花のような経験をしたことはある。
しかし二千花は恋愛に憧れを持っているタイプだ。
あまり言いすぎて、恋愛が嫌になる可能性を危惧していた。
最初に快活な声を出したのは、夢義である。
「ハチだねぇー」
「「「ハチ?」」」
夢義以外の三人の声がハモる。
「前におばあちゃんが、『お前さんはバラだ。魅力的なバラだが、有象無象のハチが蜜を求めて集まってくる。害虫は駆除しろ!!』って、言ってた!」
人差し指で眉間にシワを作りながら、しゃがれた声真似で説明する。
声色はともかく、話し方はかなり似ていた。
「あー、言いそうだねえ。君たちはモテそうだから、駆除のコツは知るべきかもしれないな。まあ今回の場合は駆除というより、害虫かどうかの見極めかな」
「どの段階で気づけたのでしょうか?」
「最初」
「え?」
「確認するけど、改札で待っていたのは相手の指示?」
「そうです」
「たぶん君の性格だと、電車が着いて人が流れてきたら改札を注視していたよね?」
「はい、見てました」
「でも相手は後ろから来たと?」
二千花は首を傾げるも、乙羽が「ああ!」と納得の声を上げる。
「最初から着いていて、二千花ちゃんを観察していたのね。マッチングアプリなんかではよくある手口だけど」
「でも二千花さんはキレイですよー?」
意外にも夢義も経験があったらしい。
夢義の褒め言葉に二千花は一瞬目を伏せるも、続きを求めて水都を見る。
「決定的なのは予約。三十分遅刻したのに、予約時間はピッタリだったんでしょ? 事前に変更しておく気遣いができるなら、君にもちゃんと謝るし事前に遅刻の連絡もするだろう」
「「確かに……」」
二千花は顎に手を当てて得心する。
隣で夢義も同じ動作をしていた。
聞き入っていたようだ。
「ですが、なぜそのようなことをするのでしょうか? 顔はすでに知っていますし、結果的に意味があったようには思えませんが」
水都は困った顔を浮かべて乙羽を見る。
乙羽はしばらく目を瞑って思案していたが、やがて意を決して頷いた。
「さっき水都くんが、害虫の見極めの話をしたでしょ? それと同じで、その男も見極めていたのよ。普通、三十分も連絡なしで遅刻されたら怒るわ。二千花さんの反応や性格を見極めたかったんだと思う」
「私が途中で帰っていたらどうしていたんですか?」
「何食わぬ顔で現れるか、そのままキャンセルの連絡をしていたでしょうね」
水都や乙羽的には、全貌を解明しているつもりだ。
しかし異性に疎い二千花はまだ気づいていない。
乙羽が話を進めるほど、頭の中で疑問符が増えていた。
夢義は隣で、「ハチだねぇ」とぼやいていたが、それすらも耳には入っていないようだ。
「二千花ちゃんは押しに弱いでしょう? 褒められて悪い気がしなかったのもそうだけど、純粋なのよ。そして男は、そういう女性を狙うものなの」
「わ、私をそういう目で見ていたってことですか!?」
二千花は疑問符が消えると同時に、沸騰した。
世の中にこういう人もいるのかと、水都はある意味感心する。
乙羽は今気づけて良かったと、同じ女性として深く安堵していた。
「その男は詰めが甘かったから気づけたけど、もっと狡猾な人もいるわ。まあ基本的に、見た目を褒めまくる男にロクなやつはいないわね。常に警戒心を忘れちゃダメよ」
「はい…………」
分かりやすく落ち込み、おそらく恐怖心が植え付けられているのだろう。
これを恐れて水都と乙羽は躊躇していたのだが、先ほどの反応を見るに正解だったと後悔はない。
夢義は謎にうんうんと頷いている。
「リッスン! じゃあ占い講座に入ろう」
水都は淀んだ空気をクリアにするために、大きく手を叩いて注目を促す。
すぐに水都を注視した二千花は、良くも悪くもといったところだろう。
「これはね、相談者のあるある問題だ。君は出会いがあるという占い結果から、出会う人全てが運命の出会いだと思ってしまったんじゃないか?」
「うっ…………」
「まあタイミングが良すぎたのはしょうがない。今回はハチだったけど、普通に相性が悪いのに無理やり良いと納得しようとするケースもある。そうすると、良い人と出会える機会を失いかねないからね。占いで教えてもらっても、普段通りを意識することが大切なんだよ。逆に意識しすぎて、良い人に悪印象を与えてしまうケースもあるからな」
占い結果は、占いを受けなかった時の未来が示される。
つまり、普段通りの自分が前提の結果なのだ。
未来を知ることで、良くも悪くも未来を変えかねない行為であることを理解しなければならない。
「意識しすぎて、普段通りのアプローチや反応ができなくなる可能性が考えるというわけね」
「そういうこと。だから良い結果ほど、占い師はかなり釘を刺しておかないとならない」
「そういえば、私が好きになった人を好きになってと言われましたね…………」
「そうだね。まあ今回は教訓として大事みたいな話になったけど、実際はちゃんと気づいて拒絶したんだ。ちゃんと実行した証拠だよ」
「ありがとうございます」
「課題を指摘しながらも褒めるところは褒めるなんて、良い上司ね」
「僕は事実しか言わん」
「あ、照れてるぅ〜」
「照れてる照れてる!」
「うるさい!」
謎に肩を叩いてくる夢義をデコピン。
「ところで、先日に自分で占った結果はどうだった?」
初の占いということで、一日の内容を占った。
簡易的な占いだから漠然かつありきたりなものだったが、方向性が正しかったかの確認には意義がある。
「私はよく分かりませんが、皆さんに相談できる現状がアドバイス通りに行動できたと思っています」
「いいね。あの内容は一日の中身というより、今後の簡易的なアドバイスだったからな。着実に活かせているようでなによりだ」
二千花の内容は、占い喫茶〈フールー〉という新しい環境に戸惑いながらも、輪に入る努力をしようというものだった。
人と距離を置きがちな二千花が相談をしたことは、良い一歩と言える。
「私はいつも通りね。上司とぶつかって、企画の難癖修正案を突っぱねてやったわ」
「ストレートな結果を出せたのはいいですね」
乙羽の内容は、上司とぶつかるけど、奮闘して成果を求めるというもの。
力を十全に発揮できたからと言えよう。
「ムギはねー、ずっとカードを見たり、占いをやったりしてた! 気づいたら夜で、お腹が空いて動けなくて寝ちゃった!」
「…………休憩はしなさい」
夢義は【愚者】のカードを引いた。
店名と同じ愚者。
占いというワクワクに興奮して、良くも悪くも愚かに過ごしたといったところだろうか。
愚者には自由人という意味もあり、夢義そのものを示していた人物カードだった。
「うん、いいね。じゃあ今回は、少し練習の仕方を変えてみよう。実際にお店で占いをする際は、目の前の人に口頭で伝えることになる。でもいきなりそれはパニックになるだろうから、一歩手前の段階で伝える練習をするよ」
こういう男性、実際に存在します。
次話から本格的な占い師講座に入ります。




