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ep.Ⅵ 女教皇と初デート


「牛房さんって真面目だよね」


 牛房二千花が、周囲からいつも言われているセリフである。

 別に仕切りたがりというわけでもないし、先生にチクるタイプでもない。

 基本的に人と関わらないようにしているのに、数少ない発言で真面目だと捉えられてしまう。

 当たり前のことを言っているだけなのにと、二千花はウンザリしていた。


 そんな二千花の水都への印象は、本心が全く見えない、である。

 自分も感情が分かりにくいと言われるものの、水都は異質さを感じるほどに底が知れない。

 しかしそこには不気味さではなく、惹きつけられる何かがあった。

 二千花は高校生の頃から、占いに対して本気で向き合っている。

 高校生で占いに興味を持つ女生徒は少なくないものの、皆趣味の延長線上な人が多い。

 最初はクラスで占いの話に混ざっていた二千花だが、次第に本気度が異なることに不満を持った。

 早々に話が合わず疎遠となってしまった。

 中には、本気で向き合っている二千花に対して、奇異の目で見ている者もいた。

 学生に占いは似合わないのかと辟易していたため、水都に対してもあまり期待していなかった。

 しかし水都は年齢に触れることなく、むしろ向き合っていることをストレートに褒めてくれたのだ。

 "真面目”を初めてまともに評価してもらえた気分だった。

 占い師は、三十歳でも若いと言われがちな職業である。

 自分で楽しむ趣味ならともかく、学生が社会人を占う資格はないんじゃないかと不安だった。

 その不安は、まだ消えていない。


「ダメね。こういうことを考えるから頭が固いと言われるのよ」


 周囲の喧騒を思い出したかのように取り入れ、二千花は自身の思考を散らす。

 二千花は今、土曜の改札口の前に立っていた。

 ぼうっと改札の流れを眺めては、携帯を見る。

 いつもより少しオシャレを意識して、前髪を携帯の反射で見直す。


「すみません、だいぶお待たせしてしまって」


 爽やかな雰囲気の高身長の男性が、背後から声をかけた。


「いえ‐‐‐‐‐‐考え事をしていたので、苦ではなかったですよ」


 彼は三十分遅刻し、二千花は待ち合わせの十五分前には到着していた。

 考え事をしていたのも、暇を持て余していたからである。

 彼はその言葉で納得したのか、「オシャレなカフェを予約したんです」とエスコートを買って出る。

 彼との出会いは、前日の大学での出来事だった。

 いつものように一人で授業を受けていたら、彼から話しかけてきた。

 授業で見かけることはあったけど、今まで話したことはない。

 いつも前の席で授業を受けていた二千花を、後ろから見ていて興味を惹かれたようだ。

 普段の二千花であったら、警戒心をマックスにして即デートを許可することはなかっただろう。

 しかし、前列で一生懸命勉強をしている姿を褒めてくれたのが好印象だった。

 水都の『出会いがある』という鑑定結果を思い出し、もしかしたらこの人かもしれないと思ったのも大きかった。

 自分でもチョロいなと思わなくもなかったが、自分を変える良いタイミングだとも思っていた。


 道中、趣味や休日の過ごし方など、他愛もない会話を続ける。

 占いが趣味だとはなんとなく言えず、当たり障りのない読書と答えた。

 彼は漫画なら読むと答えるも、二千花が読むのは少女漫画やラブコメ。

 彼が出すタイトルは名前くらいしか分からず、会話が続かなかった。

 それでも彼は取っ掛かりを掴むために質問を繰り返す。

 今まで二千花に話しかける男はすぐに諦めていたから、少し新鮮だった。

 話がつまらないから会話が続かないのではなく、二千花は会話の広げ方が分からない。

 諦めずに話し続けてくれる姿には感謝した。


「やっぱり牛房さんは可愛いですね! 大学でも思っていましたが、今日の私服姿を見るとなおさら思います」

「そ、そうですか? あまり言われないので現実味がないです」

「えー、周りは見る目がないんですね。駅で見た時から良い意味で浮いてましたよ」

「それは褒めすぎじゃ‐‐‐‐‐‐」

「そんなことありませんよ!」


 かなり食い気味に否定し、やたらと外見を褒めてくる。

 今まで言われたことのなかった二千花は、戸惑いがありながらも嬉しい気持ちが確かにあった。


「あ、ここです」


 彼が指さしたのは、外からでも分かるオシャレな雰囲気。

 窓から見える中の景色は、女子会が似合いそうなキラキラした空気感だった。

 二千花が立ち入ったことのないタイプであり、二人であっても臆してしまう。

 心の準備をする前に、彼はスタスタと扉を開けて入って行くので慌ててついていく。

 イケメンのスタッフが対応。

 よく見ると、スタッフは全員明るい雰囲気の美形。

 彼も顔は整っているから様になるが、自分に自身がない二千花はまたもや臆する。

 しかし今さら帰るなんて選択肢もないため、俯いたまま誘導に従った。


「どうです? けっこういいお店でしょう? ここはパンケーキがおいしいんですよ」

「オシャレすぎて場違いなんじゃないかと思ってしまいます…………」

「はは、こういうのは慣れですよ。女子大生なら一度は訪れなきゃ」

「そういうものですか…………」


 客層の大半は女性だが、男性も少なからずいる。

 食べ比べをしている様子から、カップルなのだろう。

 自分たちは今日が初見みたいなものなのに良いのだろうかと、二千花はそんなことばかり考えていた。


「飲み物は何にしますか?」

「あ、じゃあホットティーをお願いします」

「映え系の飲み物にしないんですね。了解です」


 他の人と違うことを良い意味で言ったのか、嘲笑の意が込められていたのか。

 運ばれてきたパンケーキは、フワフワ感満載のボリューミーな三段重ね+アイス&ホイップクリーム。

 パンケーキが嫌いなわけではないが、それほど食べるタイプではない二千花は、見ているだけで胃もたれしそうであった。

 ホットティーがどこのカフェでも見る見た目でホッとする。

 彼を見ると、ミリ単位を意識して食器を動かしていた。

 立ち上がったり姿勢を低くしたりして食器を見つめる。

 二千花からすると異様な姿であったが、周りにも同じことをする人がいたので、これが"映え”なのだろうと納得した。

 何枚か写真を撮ると、ゆっくりとパンケーキを切って再度写真を撮る。

 あまりの真剣さに、プロの方かなと二千花は捉えていた。

 ようやく満足して撮り終えると、先ほどの慎重さが嘘のように雑に切る。

 大口で食べて、パクパクと平らげてしまった。

 二千花は彼に目を奪われていたのもあって、まだ一口しか食べていない。


「あれ、牛房さんはまだ食べ終わってないんですね。もしかして口に合わなかったですか?」

「いえ、おいしいです。初めて食べる食感で新鮮です」

「でしょでしょ! これがおいしくない人なんていないですよ!」

「何度か来ているんですか?」

「え? ええ、まあ」


 露骨にごまかすような素振りを見せる。

 なぜだろうと不思議に思ったけど、追求するほどではなかった。


「そうなんですね。こういうオシャレなところはどうやって知るんですか?」

「SNSでどこでも紹介されていますよ。見かけたことありません?」

「ああ、周りがそんな話をしているのを聞いたことがあります。私はそういうのには疎くて……」

「へえ。まあ映えを意識していなかったのもそういうことか。人生楽しいですか?」

「え……?」


 予想外の問いかけに、二千花はフリーズする。

 真面目でつまらない人生を送っていそうだと、よく周りから馬鹿にされていたことを思い出した。

 そこでやっと、彼の真意に気づく。


「SNSやオシャレなお店を知らないことがおかしいですか?」

「いや、そんなことは…………」


 二千花の温度感に気づいて、彼は言葉を詰まらせる。


「外見を褒めてくださるのは嬉しいですけど、私は中身も見てほしいです。真面目でつまらないところも褒めてくれる人を。私、帰りますね。お代は置いておきます」

「え、ちょっと! この後もオシャレなお店を用意しているんですよ。ディナーも!」


 完璧なコースを予定していた彼の自信が崩れていく。

 二千花は彼の制止を無視して、出口へと向かう。

 背後で舌打ちが聞こえて、自分の判断が間違っていなかったことを確信した。

 外に出ると、空気が変わったことを実感する。

 今度は本当に好きな人と行きたいと思えるくらいには、オシャレなカフェも良いなと感じていた。

 でも今は、最近知ったカフェの居心地が一番だと思う。

 大切なのは場所よりも人だと。

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