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ep.Ⅴ 愚者とフールー


「質問なんだけど、二千花ちゃんはなんで最初に六枚をよけたの?」


 四枚を展開する前に、六枚を引いて横に置いていた。

 その六枚は結局、カードを見てすらいない。


「本に書いてあったからです」

「え?」


 答えにならない答えに、乙羽は納得ができないとばかりに強めの疑問が口に出た。


「はは、二千花の回答は間違いじゃないよ。たぶんだけど二千花は、占いを始める前から占い師に占いをしてもらっていたよね?」

「はい」

「多くの占い師が、最初に六枚をよけていた印象が強かったんじゃない?」

「その通りです。当時は疑問でしたけど、本にも書いてあったので疑問が解消できた覚えがあります」


 それでなぜ疑問が解消できたのかと、乙羽は疑問符が増えるばかり。


「占いで重要なのが"しっくりくる"感覚だとさっき言ったけど、このしっくりは、自分のザ・占い師のイメージが関係していることが多い。実際に多くの占い師が六枚よけていたから、占いとはそういうものだと刷り込まれていたんだな。実は俺も、全く同じ理由で六枚よけている」

「なぜ占い師は六枚よけるのが普通なのかしら…………?」

「一説によると、七枚目というのに意味があるらしい。一週間の日にちやチャクラや音階など、七は一つの周期を表しているからって。まあ占いにおいて数字ってかなり重要な要素だから、占い師によってはよける枚数が違う人もいるよ。単純にその数字が好きだから、なんて理由の人もいる」

「奥が深いのかざっくりしているのか分からないわね。なんでもいいから自分の中で意味を持たせることが重要なのね」

「そういうこと」


 占いは感覚的な部分が多いジャンルである。

 明確な意味を持っていても、結局は「そういうもの」、に行き着くことも少なくない。

 相談者に占いとは、未来とは、と聞かれたらきちんと答える必要がある一方で、「なぜそのような占いなのか?」という疑問には答えにくい。

 感覚的なことのため、言語化できたところで他人には理解しがたいからである。

 ウォッシュシャッフルが一般的に右回りに対し、なぜ左回りなのか? という疑問に対して、「左利きだから」と、納得できるようで腹落ちしにくいのが、"しっくりくる感覚”なのだ。


「引き方は自由でいい。何回か試すことで、自分のしっくりくる感覚を掴むこともあるからな。とりあえず一枚出してみて」


 夢義は満足するまでシャッフルした後、一番上のカードを引いた。

 乙羽はしばらく悩んだ末に、四枚をよけて五枚目をテーブルの上に置いた。


「ほう。なんで四枚にしたんですか?」

「昔から迷ったら四を選ぶことにしているの」

「なるほど。占い師らしくていいね」

「ムギは一番上!」

「なんで?」


 水都はあまり興味がなさそうに、とりあえずといった感じに聞く。


「よく分からないから!」


 シンプルな返答だった。

 予想通りとばかりに、水都は適当に「うんうん」と頷いて見せる。

 そうこうしているうちに、二千花の準備が完了したようだ。


「【リーディング】が終わりました」

「さすがに早いね」

「四枚ですから」


 リーディングとは、展開したカードから内容を読み取る行為のことを指す。

 左から、【運命の輪】、【ソード2】、【節制】、【カップ8】。

 全て正位置で揃っている。


「興味深いカードたちだね。ちなみに、各項目は何?」

「左から、過去・現在・未来・アドバイスです」

「一般的だね。で、二千花はこれをどう読んだ?」

「はい。すでに良い流れに入っているようです。ただ、私はそれに対して戸惑いというか、流れの乗り方に戸惑っています。明日は良い流れの中に立ち止まっている感じでしょうか? もっと輪に入る行動をしたほうがいいと出ています」

「うんうん、いいね。ちゃんと読めている。それで良い流れというのは、恋愛とか学業とかでいうと、どういうジャンルか分かる?」

「分かりません…………」


 水都の問いに、二千花は即答した。

 二千花は己の力量不足に視線を落としたが、水都は笑顔を見せる。


「うん、素晴らしい!」

「え? 具体性がないのに良いんですか?」

「具体性があるに越したことはないけど、今回の結果から学びと力量が分かったはずだよ」


 水都は言葉を止めて、みんなを見渡す。

 全員に対して、この占いで分かったことを考えさせる。

 最初に勢いよく手を上げたのは夢義だった。


「はい! 分からないって言えたの偉い!」

「正解!」

「やったあ!!」


 キョトンとした顔をする二千花と、得心がいったと乙羽が頷く。


「己の力不足を認めることは確かに大切ね」

「うん。それに占い師って、『分からない』や『できない』がなかなか言えない生き物なんだよ。でも占いは万能じゃないし、得意不得意だってある。できないことや分からないことがあるのは当然なんだ。それをハッキリ言えることが、本物の占い師に必須の要素の一つと言ってもいい」

「社会人は『やります』、『できます』、『頑張ります』が前提だから、今知れて良かったわ。それに、分からないと即答できたのがもう一つのポイントね?」

「正解。独りよがりな占い師って多いんだけど、相談者の目線になって受け手の状態を把握できていた。一日の占いってテーマで考えたら、別にさっきの解説も悪くなかったしね。ちゃんと問題点を把握できていたのはさすがだ」


 水都が話している時は目を見ていたものの、またもや二千花は視線を落とす。

 今度は耳が赤かった。


「じゃあ学びはなんだと思う?」

「…………テーマを絞らなかったことでしょうか?」


 二千花は俯いたまま数秒思案してから、顔を上げて答えた。

 水都は大きく頷く。


「正解。まあ明日の一日って程度なら、ざっくりでいいんだけどね。ただそれは、ワンオラクル(一枚引き)ツーオラクル(二枚引き)ならだ。四枚だと必然と情報量が多くなるから絞ったほうがいいって感じだな」

「テーマ選びはいつも悩みます。細かすぎてもうまくいかないことが多いですし…………」

「その辺は感覚の慣れだね。スプレッドや自分の経験から、どの程度の範囲にするかを感覚で掴んでいくしかない。占いはリーディングの練習も大事だけど、自分の感覚を掴むのが何よりも大事なんだ。これは何十回、何百回と繰り返して掴むものだからね」

「精進します」

「うん、頑張って。ちゃんと考えられている二千花なら大丈夫。じゃあ次は乙羽さん、やろうか」

「分かったわ」


 乙羽は先ほどすでに引いた一枚のカードを掴んで見つめる。

 だんだんと眉間にシワが寄っていき、空いた手でもう一枚カードを引いた。

 二枚目を引く際、再度四枚を避けてから引いていた。

 出たカードは、最初が【ワンドのキング(逆)】で、二枚目が【戦車】。

 乙羽は買った本をめくってそれぞれのページを確認する。

 やがて寄せていたシワを緩めると、大きなため息を吐いた。


「嫌な想像が容易にできてしまったみたいだね」

「ええ。ワンドのキングは上司ね。こだわりが強すぎていつもぶつかるのよ。悪い人じゃないんだけど、やり方が合わなくて。いつも通り、私が奮闘しているのが分かるわ」

「なるほど。ワンマンな感じか。まさにワンドのキングの逆位置っぽい人だ。でも戦車が正位置だから、乙羽さんはうまく立ち回るんだろうな」

「うまく立ち回れているのかしらね。私もいろいろと強引にやってきたから、敵が多いのよ」

「舐めてかかるやつには潰すつもりがちょうどいいものさ。じゃないと、自分が損するだけだから」

「あなた、本当に大学生?」

「見た目は子ども、頭脳は大人、その名は最強占い師ミナト!」


 真面目な話をしていたところにハイテンションなぶっこみを入れてきた。

 ムギである。

 周囲がポカーンとしていることにも気づいていないのか、キメ顔を引っ込めない。

 最初にフリーズを解いた水都は苦笑して、「ま、そういうことです」とだけ反応を見せた。


「じゃあ次は‐‐‐‐‐‐‐‐」

「ムギもやる!」


 キメ顔からもう待ちきれないと両手を上げて主張した。

 水都の返答を待たず、タロットをカシャカシャとシャッフルをする。

 雑にシャッフルをした後、一番上のカードを引いた。

 出てきたのは【愚者】のアルカナである。

 思わず水都は失笑した。


「このカード面白い?」

「すまんすまん。そういう意味じゃないんだ。で、夢義はこのイラストからどういうイメージを持った?」

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」


 水都の反応を気にすることなく、愚者のカードを食い入るように見つめる。

 「うーん」や「んー」と唸った後、パッと破顔させて(おもて)を起こす。


「家から飛び出した! 裸足だから!」

「おお、いいね。なんで飛び出したんだ?」

「待ち切れないから! 楽しみ? みたいな感じ!」

「じゃあそのイメージに合う意味を本から探してみな」


 水都は店にある初心者用の本を持ってきて渡した。

 奪い取るように掴んでパラパラめくり、愚者のページを見つめる。


「『始まり』かなあ。ゲームの新しいステージに飛び込んだみたいな感じ」


 少し自信なさげに言うが、水都以外の二人も驚いたように夢義を見た。

 それから乙羽は、何かに気づいたように「ああ」と一人納得した反応を見せる。


「正解だよ。占いにワクワクして意欲が湧いている、今の夢義そのものだね」

「直感的なイメージからそんなふうに分かるんですね」


 夢義が現実的な思考で予測をしたとは思えない。

 予備知識もなしに、イラストのイメージから愚者に合うワードを導き出した。

 頭の固い二千花には真似できないリーディングである。

 乙羽も占いの柔軟性に気付かされ、感嘆の声を漏らしていた。


「乙羽さんは別のことにも気づいたみたいだね」

「ふふ、愚者のカードにはなんて書いてあるかしら?」

「ふーるー?」

「あ!」


 二千花がカウンター内の上部を見る。

 そこには店名である『フールー』と書かれていた。


「占い師が考えつきそうなネーミングだけど、まさに君たちのことを意識してばあさんが名付けたんだろうな。愚者は新しい始まりを意味しているけど、その始まりは一本道へのスタートって意味じゃないんだ。そこからは選択肢が広がっていて、無数に選べる段階でもあることを示している。占いを学んでそれをどう活かすか、どんな占い師になるかを、これから考えていくといい。少しずつな」


 それからフールーのメンバーは、小さなテーマの占いを繰り返した。

 それぞれ課題はあれど、ある程度占いが当たることを楽しむ。

 解散したのは日が落ちきってからだった。

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