ep.Ⅳ 愚者とシャッフル
一行はフールーに集まり、各々タロットを手に取っている。
休日のため、水都は買い物後に解散するつもりだったものの、夢義の「カードで占いたい!」という純粋な申し出に周囲も賛同した。
まるで、代弁してくれてありがとうと言わんばかりの賛同速度だったので、水都はすんなり許可を出した。
「リッスン」
一瞬クエスチョンが浮かぶ水都の呼びかけに、周囲は動きを止めて注目する。
「ああ、すまない。癖なんだ。まあこれを言ったら注目する癖を、みんなもつけてくれると助かる」
「ふふ、分かったわ。水都くんは面白いわね」
いつの間にか「水都くん」呼びに変わった乙羽。
「はーい! ミナトさんは面白い!」
「君に言われたくはない」
乙羽を真似してか、夢義も名前呼びになっている。
「出師さんが変わっているのは事実ですね」
二千花は名字呼びに徹している。
少し笑顔を見せるようになったので、心を開き始めてはいるようだった。
「俺からすると、みんな変わり者だよ。まあ占い師には変わり者が多いからね」
「そうなんですか?」
変わり者と呼ばれて、心外とばかりに二千花が問いかける。
「好きが講じて占い師になる人もいるけど、大半は様々な過去を持っていることが多い。占いの技術は大事だが、何よりも大切なのは経験と知識だ。年齢が若くとも、他者の経験を学びに変えられることが、占い師にとって必須の技術と言ってもいい」
回答になっていない内容だが、水都は回答のつもりだ。
人生に紆余曲折、右往左往した先で占い師になる人が多い。
一足先に、ある種の小さな悟りを開いた者が占い師になると、水都は思っている。
「そうね。管理職も平社員の時の経験が大事だもの。人にアドバイスをするのだから、経験があって損はないわね」
「学生の私でも大丈夫でしょうか?」
「社会人経験の深い乙羽さんに比べたら、確かに厳しいものはあると思う。でも占いをしていると、他人の様々な経験談を聞くことになる。そこをちゃんと知識として受け止めていたら問題ないよ」
「ムギはー?」
「…………君はたぶん大丈夫」
「そっかぁ!」
明らかに濁した回答だったものの、ムギは満足だったようだ。
水都は軽く咳払いをして、話を続ける。
「まあ心構えは追々覚えていくといいよ。技術と同じで、やっていくうちに掴んでいくものだから。じゃあ本題に戻るけど、今日は【ワンオラクル】をやってみよう」
「【スプレッド】一覧の最初に書かれているものね」
「スプレッド?」
帰りの電車で買った本を読んでいた乙羽は、すぐに内容を把握する。
一方で本を買っていない夢義は、初めての専門用語に疑問符を浮かべた。
「タロットがカードを並べるものだっていうのは、なんとなく分かる?」
「うん! いろんな形があるよね!」
「そうそう。カードを展開するって言うんだけど、展開した形のことをスプレッドって言うんだよ。占い師によっては、【展開法】とも言うね。ワンオラクルっていうのは、一枚だけカードを引くスプレッドだ」
「おお、かんたんそー!」
「それがそうとは限らない。二千花は苦手なんじゃないか?」
水都がワンオラクルを提案した時と、夢義が簡単そうだと言った時。
二千花が表情を曇らせていたのを水都は見逃さない。
「はい。私は最低でも四枚は引かないと読めません。というより、ほとんど当たりません。なぜでしょうか?」
「まず最初に言っておくと、未熟だからとか才能がないからじゃないよ。占い師によって、枚数が少ないほど読むのが楽だと言う人もいれば、多いほうが正確に読みやすいという人もいる。向き不向き、得意不得意の問題だよ。もっと言えば、その占い師の特徴によるとも言える」
「特徴……ですか」
「まず大前提として、占いは占い師の数だけ種類がある。タロット一つをとっても、千差万別なんだ。自分の特技や癖などの特徴を掴むことが、ベテランになるために必須の要素と言える」
「考え方は社会人と同じね。それぞれ発揮できる分野は違うし、やり方も違う」
「そういうこと。すぐに別の分野との共通点を見つけられる乙羽さんは、占い師に向いていますね。柔軟性がある」
「ムギには難しい!」
「君は大丈夫。気づかせるのも俺の役目だ」
「よかったー!」
夢義は言葉ほど不安にはなっていないようだが、二千花は少し安堵した様子を見せる。
不安が可能性を狭めることを知っている乙羽は、水都の手腕に感心していた。
そんな乙羽の視線に気づいた水都は咳払いをして話を続ける。
「話を戻すけど、二千花は四枚引きでいいよ。夢義と乙羽さんは、とりあえずワンオラクルをやってみよう」
「【テーマ】は何にしますか?」
「最初だから限定的かつ小規模なものにしたいから…………明日のアドバイスにしよう。明日の運勢でもいいよ。まずは二千花から見本がてら、やってみてくれ」
「うっ」
「緊張は今のうちに慣れとけー」
「わ、分かりました」
二千花は七十八枚のデッキを三分割にし、一つをシャッフル。
それを三つ分行い、二つを重ねてシャッフル。
残りの一つも重ねて軽くシャッフルして、テーブルにバラけさせた。
カードをぐちゃぐちゃにかき混ぜて正逆をも混ぜる【ウォッシュシャッフル】だ。
ビギナーシャッフルとも呼ばれるが、タロットでは必須のシャッフルである。
ある程度左回りに混ぜた後に掻き集めて、綺麗にまとめた。
目測でデッキの半分のところでカットする(割ったデッキを入れ替えること)。
それから上からカードを六枚引いて横に置く。
七枚目からカードを目の前に置いて、四枚並べた。
「うん、さすがに慣れた手つきだね」
「思ったより丁寧にシャッフルをするのね。そのやり方が一般的なの?」
「私はちゃんと混ざっている実感があるので、このやり方になりました。本にも書いてありますから、一般的だとは思いますが」
「占いにおいて、納得ができるシャッフルを見つけることはかなり大切なことだよ。大雑把な人はシャッフルに意識をあまり向けないけど、神経質な人は向けがちだ。ちゃんと混ざっているという、"しっくりくる”感覚を掴むことから占いは始まると言ってもいい」
占いのカードは比較的大きいサイズが多く、タロットなら枚数も多いことから、トランプをシャッフルするのとは勝手が異なる。
慣れない作業となるため、最初に苦労する人は少なくない。
「ベテラン占い師の中には正しいシャッフルの仕方があるなんて言う人はいるけど、気にしなくていい。例えばウォッシュシャッフルは右回りが一般的だと言われるけど、それは右利きが多いからとも言える。二千花みたいに左利きからすると、左回りがやりやすいだろうからね。ルールなんてないから好きにやるといいよ」
各々デッキを手にとってシャッフルを始める。
乙羽は二千花の見本から少しアレンジしていた。
二千花よりは手が大きいことから、最初の分割を三つではなく二つにする。
右回りのウォッシュシャッフルの後、軽くシャッフルをして終了した。
「カードが大きくてやりにくいねー」
一方の夢義は、一つにまとめたままシャッフルをしていた。
たまにカードを取りこぼしては戻すを繰り返し、サイズの大きなカードに苦労している。
夢義の選んだカードは乙羽と二千花のに比べて、サイズが大きい。
しかし楽しそうだったので水都は良しとした。




