ep.ⅩⅣ_ⅱ 愚者から魔術師へ
投稿頻度を上げるために、一話ごとの文量を減らして(分割して)投稿します。
「じゃあとりあえず、鑑定時の流れを言語化してみようか。最初のココノエさんを例にするのが分かりやすいな。彼女が鑑定を受け始めた時の印象はどうだった?」
「占い自体に緊張と不安がありました」
「抽選で選ばれた時に、『私でも大丈夫ですか?』って言っていたわね。水都くんは理由がすぐに分かっていたみたいだけど」
「うんうん。二人ともちゃんと見ていたね。お金目当ての占い師って、若い学生を敬遠することがあるんだよ。お金がないから」
「そんなこと!」
乙羽は憤りを交えた驚きを見せたが、二千花は「ああ」と納得した様子を見せる。
中学時代から占いにハマっていた二千花にも、経験があるのだろう。
「この店のコーヒーや紅茶はそれなりの品質の豆や茶葉を使っているから、価格も高めに設定されている。まあ正義さんの淹れる技術あってというのもあるけど。でもジュースはチェーン店のカフェよりも安い。これは学生に配慮した価格設定なんだよ」
「人の悩みに年齢は関係ないということですね」
「そういうこと。話を戻すけど、ココノエさんには不安と緊張の他に、もう一つ感情があった。二千花なら考えたら分かると思うぞ」
二千花は顎に手を当てて、俯きながら思案する。
自分が過去に占いをしてもらった時のことを思い返し、当時の自分を分析する。
いくつか記憶を掘り起こして、水都による直近の鑑定を浮かべたところで口を開いた。
「疑念…………ですか? この占い師は信用できるのか、と」
「正解。まあ君の場合は、あの店の雰囲気とか他の要因もあったと思うけどね」
見透かしたように指摘されて、二千花は少しだけムッとする。
「二千花やココノエさんに限った話じゃなく、初見の相談者さんは、占い師に対して疑念を抱きながら依頼をする。鑑定を受けなければ信頼する根拠を持たないからね。偽物の占い師が多いのも理由の一つだろう。長く占いを経験していれば、偽物に当たることは一度や二度じゃすまないだろうから」
「占いじゃなくても、初見は相手の実力の様子を見るわね。人をそう簡単には信用できないもの」
「うんうん。なら疑っている相手には実力を見せればいい。占い師の実力とは、ズバリ当たっていると思ってもらうことだ。分かりやすく当たっていると証明できるのは、過去と性格だね。特に性格はリスクなく話を広げやすいから、相談者さんの緊張も解きやすいんだよ」
「過去は触れられたくないこともありますが、性格は伝え方や表現次第だということでしょうか?」
「正解。長所と短所というのは、表裏一体なんだ。例えばきっちりした性格というのは、一見すると長所に思える。仕事では長所になりやすいよね。でも細かすぎると調和は取りにくいし、妥協が必要になることもあるだろう。場合によっては短所となるんだ」
性格はエピソードに繋がりやすいため、相談者側も占い師の指摘したことがイメージしやすい利点もある。
イメージをすれば細かいニュアンスの調整もできるため、語弊なく伝えやすいのもメリットと言えるだろう。
「占いで分かるのは真実ではあるんだけど、占い師が分かったことを正しく相手に伝えることまでが占い師の仕事だ。だけど占い師は相談者さんと同じ体験をしているわけじゃない。だから鑑定結果を伝えても、リアリティに欠けてしまう。そうすると相談者さんは納得できないんだ。情報として分かっていても、細かいニュアンスまでは難しいんだよ」
「な、なるほど…………?」
言っていることは分かるけど、いまいちピンとこない。
二千花の眉間には深いシワが刻まれている。
水都の言わんとしていることがしっくりこないのは、占い師の仕事を"体験”していないからだ。
「じゃあ極端な例を挙げよう。弁護士が依頼に来たとする。誹謗中傷の情報開示請求から訴訟を起こしたが、その過程で問題が起きたからアドバイスが欲しいと。この相談に対して、占い結果でこうしたほうがいいというのが分かったとしても、それを弁護士の業務に当てはめて説明はできないでしょ? 弁護士の業務なんてちんぷんかんぷんなんだから。あ、実際にこういう類の依頼は受けちゃダメだぞ」
「つまり、相談者様のリアリティに触れるために、細かい言動から情報を集めるということね?」
「正解。こういうことを言うと心理学だなんだと言うやつがいるけど、心理学で当てるわけじゃないからな」
話を聞いて、相談者のストーリーに占い結果を当てはめる。
難しそうに思えるが、普段の会話でも当たり前にやっていることだ。
相手の話を聞くことで、自分が話そうとしていることが鮮明になるイメージである。
「よく耳にする、傾聴力とは違うのですか?」
「いい質問だ。でもさ、緊張、不安、疑念のある人が、自らペラペラ喋ってくれると思う? 年配の方は比較的話してくれるけど、若い人は稀だよ。今日だって周りに他のお客さんがいたとはいえ、相談者さんから色々話した人はいなかったでしょ?」
「確かにそうですね」
「営業も7:3で相手に話させろと研修で言われるけど、ケースバイケースね。私の場合は、最初は私が7で話すけど、2回目3回目と繰り返すとだんだん逆転していく感じよ。だけど私から話を聞いてほしいスタンスの場合は、相手の心を開くために話してもらうことを意識するわ」
「相手側は情報が欲しくて来ることがほとんどだからな。むしろこちら側が提示しないと、モヤモヤした状態で帰ることになるよ。営業でも人間的な信頼が求められるものだけど、占い師の信頼とは鑑定力だ。だから相手に話してもらってスッキリさせることを目的にするのではなく、占いの結果で示して心を開いてもらう意識が必要だよ」
傾聴力が不要なのではなく、一番ではない。
一番は鑑定力だと、水都は付け加える。
ネットの情報と違うことに、二千花は新鮮な気持ちでメモをとった。
「やはりプロの占い師のお話は勉強になります」
「人の話は貴重な情報よね」
「話が早くて助かるよ」
チラッと夢義を見ると、「むずかしいねー」と言いながらジュースを飲んでいた。
話に耳を傾けてはいたようだが、理解しにくかったらしい。
「いろいろ話したから、流れをイメージしながらまとめようか。じゃあ、夢義!」
「はい!」
居眠りしているところを先生に指摘されたかのように、ビクッと立ち上がった。
「夢義はお客さんね」
「まかせろり」
ペロッと舌を横に出す。
偶然か気づいてか、口の周りについていたソースを舐め取った。
水都は椅子に座り、夢義が少し離れた位置でスタンバイする。
二千花と乙羽は、隣の席へ移動した。
「こ、こんにちは……」
元気なキャラとは正反対の、弱々しいキャラを演じていた。
珍しく水都がフリーズする。
二千花と乙羽の全員が驚くほどの演技力であった。
ピザのほとんどを食べていたにも関わらず、きちんと話を聞いていた証明にもなっている。
水都は数秒のフリーズから溶けると、柔らかい微笑を浮かべて口を開く。
「こんにちは。どうぞおかけください」
「はぁい」
「えー、まずは最初の挨拶で、相手の緊張度合いを把握しよう。他にもポイントはあるけど、とりあえずは緊張の有無だけでいい。続けて」
「…………」
夢義は心の扉を閉ざしている。
「失礼。本日はどのようなご相談でしょうか?」
「えっと……好きな人がいるんですけどぉ、なかなか進展しなくて…………」
「最初はざっくり悩みを言ってくる場合が多いから、まずは占いをしよう。性格から入ってもいいし、タロットを引いてもいい。みんなの場合はタロットだから、今回はタロットを引くとする」
夢義はジッとタロットを見つめ、微動だにしない。
初見の相談者あるあるだ。
「カードの結果を軽く見て、夢義の好意が伝わっていないという内容だったとしよう。その場合、なぜ伝わっていないかまで伝える。ここで、『好意が伝わっていませんね』とだけでは中身がない。相談者さんの反応を見て引き出そうとするのもいいけど、プロなら"なぜ”までがセットだ。僕なら性格と照らし合わせるけど、みんなはタロットで"なぜ”まで問いかけよう」
水都は2人のメモの手が止まるのを待ってから続ける。
「今回はよくあるケースを例として答える‐‐‐‐‐‐‐‐夢義さんはお相手に尽くすタイプのようですね。それ自体はお相手も好意的に捉えているのですが、ややお母さんのようなお節介とも捉えられています。それに他の人にも親切なので、お相手は自分が特別扱いをされている自覚がないようです」
「確かに、ついつい手助けしちゃってます。彼のスポーツの応援も欠かさずしていますし、飲み物の補充とかもしていますね…………全員分」
「お、おう」
夢義の実体験なのかと疑うくらい、リアリティのあるエピソード。
実は水都が想定していた相談者像と一致している。
「どうかしました?」
俯きながらの上目遣い。
身長の低い夢義はいつも見上げる視線を向けるが、初めて見る視線であった。
「ごほんっ。ここでエピソードを話してくれたから、このエピソードを利用しよう。例えば今回設定したケースで言うと、献身的な人は行動で気持ちが伝わると思っているタイプだ。飲み物の補充をする時に、『頑張って!』以外の言葉をかけているか? などをヒアリングしてみよう」
水都が言葉を止めて夢義を見ると、夢義は自然に続きを話した。
「恥ずかしくてあまり話していないです…………『頑張って』もあまり言ってないかも」
「みんなに親切にするのは悪いことじゃありません。夢義さんの場合、あからさまに一人だけというのも違和感が出てしまうでしょう。なのでまずは、彼にだけ追加の一言を意識してみてください」
「追加の一言……ですか…………?」
「応援や感想、なんでもいいです。今の夢義さんに重要なのは、2人だけの会話です。せっかく応援をきっかけに声をかけやすいのですから、まずそこから頑張ってみてください」
「一言だけならやれるかもしれません…………頑張ります!」
夢義は悲壮感漂う表情から一変、屈託のない笑顔を見せた。
笑顔のまま録画停止したかのように固まり、何かを待つ。
「はい、カット」
「ふぃ〜」
夢義は腕で額の汗を拭う仕草をしながら、伸ばした背筋を曲げて椅子にへたり込む。
もはやベテラン女優の振る舞いであった。
「夢義さん、ジュースでございます」
「うむ。皇さん、次のスケジュールは何かね?」
「この後はお菓子とジュースのパーティがございます」
「それは楽しみだ。今回の仕事でお腹が空いたものでね」
プレイヤー気質の強い乙羽だが、秘書も似合っていた。
隣で唖然としている二千花が、新人マネージャーに見えなくもない。
まだ食べるのかと内心で驚愕の連続を繰り返しながらも、水都は手を叩く。
「Listen」
二千花と乙羽はすぐに姿勢を正し、大御所モードを解いた夢義も、ジュースをちゅうちゅう吸いながら注目する。
「さて、全体を通して質問はある?」
二千花が挙手をする。
学校生活が想像できる真っ直ぐな挙手だ。
「アドバイスの量が少ないと思ったのですが、そういうものなのでしょうか?」
「いい質問だ。さっき、占いで必要なのは当たっていると思ってもらうと言ったね。じゃあどうすれば内容が納得できるかと言うと、"なぜ”を伝えられるかどうかなんだ。出来事を当てるだけでは、心の底から納得はできない」
好きな人の相談者に対する気持ちを占い、相談者の好意を認識していないことが分かった。
この事実だけでは、思い当たることがあったとしても相談者の心に響かない。
未熟な占い師はここで止めてしまうことが多い。
客観的な視点と相談者の性格を合わせてイメージができるように、具体性を提示する必要がある。
「占いから現実的な視点にも当てはめるのね」
「そういうこと。占いだけにこだわると、どこかで強引な内容になっちゃうからね。占いはあくまで材料として活用するわけだ」
「現実的………………あ、もしかして!」
二千花が夢義を見る。
夢義は大きな口に入れかけたポテチの手を止め、逡巡した末に二千花へと差し出した。
「アドバイスの量が少なかったのは、相談者さんがパンクしてしまうからですか? あ、夢義さん、大丈夫です」
夢義はポテチをそっと戻して、ジュースを飲む動作に変えた。
「正解。まだ付き合うどころか個人的にも仲良くなれていないのに、二人の細かい性格的な相性や未来のことを伝えても意味がない。相談者さんが相性を聞いてきたならともかくね」
まず何をするべきなのか。
なぜするべきなのか。
人は時間が経つと忘れる生き物である。
占いにおいて重要な記憶とは、感情的な理解と納得感だ。
深く理解するほど感情は強くなり、感情が強くなれば記憶は薄れにくくなる。
「思った以上にロジカルな鑑定だったのね」
「まあこれは僕の理論だから、必ずしもこれが正解ってわけじゃない。でもなんか当たってて、どんどん相談者さんが満足していく謎の現象から、単純な仕組みだったって印象に変わったでしょ?」
「どれだけ占いで材料を集められるかと、それをいかに分かりやすく当てはめるかが重要ということですね」
「そういうこと。意識するべきことはたくさんあるけど、大前提がその二つ。だから君たちはまず、とにかくリーディングを頑張って。ちゃんとやれば、この二つは簡単にできるようになるよ」
人が飛躍するきっかけは些細なものである。
皇乙羽は今回のレクチャーをきっかけに、リーディングが上達していく。




