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ep.ⅩⅣ_ⅰ 愚者から魔術師へ


「だーいせーこー!!」


 音響機器の片付けを終えた夢義がバックルームから飛び出しながら叫ぶ。

 閉店作業の片付けを各々しながら、乙羽が一拍置いて答えた。


「そうね。水都くんの占いはもちろんのこと、私たちも問題なく仕事ができたと思うわ」

「そうだね。僕はほとんど手伝えなかったけど、安心して任せられたよ」

「私は、ほとんど乙羽と夢義さんに任せっきりになってしまいました」

「あら、二千花ちゃんも大きなミスはなかったし、充分戦力になっていたわよ」


 先ほどから、興奮冷めやらぬといった感じで会話は止まらないものの、心ここにあらずという様子も垣間見えた。

 二千花はブツブツと今日の反省点を呟いたかと思うと、急に静止する。

 そして思い出したかのように業務の質問を乙羽にする。

 まるで、壊れたロボットかのような様子だ。

 乙羽は二千花の質問に答えながら、己の片付ける手を止めない。

 たまに雑談を投げかけるものの、頻繁に一拍遅れた反応を見せていた。

 夢義は、「うおー!」と言いながら機器を片付けていた。

 いつもと変わらない。

 水都はそれらの様子に気づきつつも、黙々と片付ける手を動かす。

 夕方まではオーナーのババ友が助っ人に来てくれていたのだが、以降は少ない人数で切り盛りしていた。

 時間が経つほど噂で来客が増えたものだから、片付けがかなり溜まってしまったのだ。

 みんなもそれが分かっているから、一心不乱に手を動かしている。


「みんなお疲れ様。細かい掃除などは明日の朝に私がやっておくから、遅くなる前に帰りなさい」


 レジ締め作業を終えた正義(まさよし)が、薄手のロングコートを腕にかけて出てくる。


「何から何までありがとうございます」


 乙羽のお礼に、正義は英国紳士のような仕草で帽子を被って微笑をチラつかせる。


「なに、若い女性を遅くに帰らせるわけにはいかないからね。戸締まりを忘れずに」


 入口扉についている『カランコロン』という音でさえ、英国紳士の演出を思わせるスマートな帰宅だった。


「さて、みんな何か話したそうだし、開店祝いも兼ねて夜食にしようか。ちょうど来たし」


 宵月が地面だけを照らす中、バイクのエンジン音が帳を振動させる。

 店の前でふかした音に変わり、ドアが開いた。


「出前でーす」

「ご苦労さまです」


 水都はポケットから丁度のお代を出して食事と交換する。

 配達員が軽い挨拶をして去り、静寂が戻る前に全員が口々に言葉を発した。


「いつの間に頼んだんですか?」

「もしかして裏にあるお菓子の入ったコンビニ袋も水都くん?」

「わーい! お腹ペコペコだったのー!」

「正義さんほどじゃないけど、僕もスマートだろう?」


 料理を広げながら冗談ぽく言い放ち、紙皿と紙コップまで用意している。


「お店が繁盛しないことはないって疑わなかったのね」

「まあ占い師だからね」

「おー、てんちょーすごーい!」

「水都さんの場合、推理なのか占いなのか分かりませんね。今日の鑑定を見ていても思ったのですが、やはり洞察力も必要なのですか?」

「早い早い。とりあえず料理を並べて一息ついてからだ」

「うっ、すみません……」

「本気なのはいいことだよ」


 水都がつまみ食いをしようとしていた夢義の手をピシャリと叩き、すでに袋から取り出している乙羽がこっそり夢義に餌付けする。

 仕事で二千花も手際を掴んだのか、心なしかテキパキしていた。

 注文をしたのはピザ屋で、四枚のピザとポテトが並んでいる。

 ジャンク系だからコーヒーや紅茶を用意することもない。


「全部食べられるかしら?」

「4人でも食べきったら太ってしまいそうです」

「ムギが食べるからだいじょうブイ! ムギ、太らないから! 全部おっぱいにいく!」

「あ、リアルに胸に栄養がいく人っているんだ」


 ストンッと何かが落ちる音が響いた気がしなくもないが、理解していない夢義以外の2人は目を背けた。


「ピザはたまに食べるとおいしいよねえー」

「ホントね。一人ではなかなか食べる機会がないから余計においしく感じちゃう」

「私は一回しか食べたことないので新鮮です」

「喜んでくれて何よりだ。お菓子は余ったら置いておけばいいから無理せず。補充用も含めて多めに買ったからな。特に夢義」

「うぃうぃ」


 ピザが減っていくに連れ、女性陣の口数が減っていく。

 若干一名は食べるのに夢中なだけだったが、二人はタイミングを見るかのように慎重な手つきでピザを手に取っていた。

 打ち上げ代わりの食事会なのにと、水都は小さく息を吐いてから口を開く。


「悪かった悪かった。じゃあ本題に入ろうか。意識が高すぎてビックリだよ。ああ、夢義は食べてていいよ」

「もぐもぐ、ふぁーい」

「で、何が聞きたいの?」


 水都の質問に二千花は口の中のものを急いで飲み込み、お手拭きで手と口を慌ただしく拭う。

 両手を膝の上に乗せて姿勢を伸ばし、真っすぐと水都を見つめた。


「私も水都さんのような占い師になれるでしょうか?」

「シンプルかつ、いろいろと詰め込まれた不安だね。乙羽さんも同じ?」

「そうね。他にもあるけど、私の不安はその先のことだから、今は二千花ちゃんと同じ。慣れというのは分かっているけど、占い師の印象がかなり変わったのが大きいわね」

「あまり僕を基準にはしないでほしいけどね。じゃあとりあえず、鑑定時の流れを言語化してみようか」


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