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ep.ⅩⅢ 魔術師と隠者


 その後、女性客にチヤホヤされながらも(二千花談)、抽選番号を配り終える。

 店内の様子を外から見て興味を持った来客もあり、店内はほぼ満員状態となった。

 スタッフたちはてんやわんやとしながら、初日にも関わらずクレームなく対応し切る。

 程なくして時間となり、公正さを示すために配った抽選券を半分に切ってもらって、スタッフの持つ抽選箱へ入れてもらう。

 参加を辞退されたカップルの一人に引いてもらった。


「今日のラッキーなあなたはぁ‐‐‐‐‐‐‐‐どぅるどぅるどぅる〜!」


 巻けてない舌でハイテンションなMC。

 ヒーローショーの進行のお姉さんを経験したこともある夢義は、やや待ちくたびれたお客さんたちを盛り上げる。 


「きゅーばーん! 九番のラッキーガールはどちらですかー!!」


 マイクいらずの声量で、少しハウリングが入る。

 残念がる人も多かったが、夢義のテンションのおかげで大きな拍手が店内を埋めた。

 夢義の声でおずおずと手を上げたのは、高校生の制服を着た女の子だった。


「あの、参加しておいて申し訳ないのですが、私でも大丈夫ですか?」


 質問の意図が読めなかった夢義が首を傾げる。

 代わりに水都が夢義からマイクを受け取って答えた。


「大丈夫ですよ。条件を満たした方はどなたでも歓迎です。責任を持って私が占いをさせていただきますね」


 水都の淀みのない回答に、女生徒はホッとしたような顔をして頭を下げる。

 周りも空気を察してか、より大きな拍手をしてくれた。


「ではカウンターで占いをします。カウンター上部にあるモニターに私の手元を映しますので、皆様はその様子をご覧ください。選ばれたお客様は、事前にご相談内容とご生年月日を記入していただきます」


 夢義がカウンターまで誘導して用紙を渡す。

 水都がタロットカードを取りにバックヤードに入ると、心配そうな顔の二千花が出迎えた。


「昔の私を見ているようです」

「大変そうな子だろうね。でもうちではああいう子たちも受け入れたいから、良い子が選ばれたよ」

「頑張ってください」

「おう。師匠の背中をちゃんと見てな」


 緊張した様子を欠片も見せない水都と共に、二千花もバックヤードを出る。

 乙羽がつきっきりで見ていたようで、選ばれた女生徒は一生懸命書いていた。


「鑑定の前に、皆様にお願いがあります。鑑定中は私語を抑えていただき、ご注文の際は無言で手を上げてください。スタッフが伺いますので、小さな声でご注文をお願いいたします。また、今回はデモンストレーションとして占いをさせていただきます。今後、スタッフたちも占いをすることになりますが、基本的にタロットのみです。ですが今回は、複数の占術を使って鑑定します」


 本場の占い師が複数の占術を使うということで、一部から「おおー」という声が上がる。

 夢義も混ざって「おおー」と言っていた。

 元々の予定ではタロットのみで行う予定だったが、水都の独断で変更を加えた。

 静かな空気にしようという意識を持ってくれたお客さんたちは、無言で何度も頷いて見せた。

 乙羽が女生徒を誘導して椅子を引き、カウンター席に座らせる。


「通常の鑑定は内容をお伝えするのみですが、今回は皆様にも占いに興味を持っていただくために、解説を意識してお伝えしていきますね。では、始めます。まずはお客様のお名前を教えていただけますか? ニックネームでも構いません」

「ココノエです。よろしくお願いします」

「ご相談内容は…………人に関心が持てなく、目標もない。そんな自分を直さなきゃと思いつつも、どうしたらいいか分からないと。ではまず、生年月日から性格を視てみましょうか。今回は西洋占星術と数秘術を使用しますね。生年月日や姓名判断で占うことを【命術(めいじゅつ)】と言います。今はインターネットのサイトや携帯のアプリで、たいていの命術に必要な計算などを簡単に出してくれるので学びやすくなっています」


 水都は予め準備をしていたパソコンに生年月日を打ち込んで内容を確認する。


「ココノエさんは元々、他人に対して気遣いのある人だったんじゃないですか? 細かいところによく気がつくし、自分より他人のための行動が多かったんじゃないでしょうか?」


 ココノエに対する客観的な印象は、丁寧だけど感情表現の乏しそうな子、である。

 教室の隅で一人本を読んでいそうな雰囲気であり、積極的に世話を焼くイメージは持てない。

 しかし水都の問いかけに、ココノエは目を見開いて身を乗り出した。


「そうです! 中学まではみんなからお節介だと言われていました」

「今では周りが子どもっぽく見えてるでしょ?」

「…………はい」

「ココノエさんは優しいし精神的に周りより大人なんだけど、真面目すぎるがゆえの悩みにハマっちゃっていますね。自分を表現するのが苦手だから、相手のためにという想いが伝わらず、合理的ゆえの手助けだと受け取られがちです」


 思い当たるのだろう。

 食い気味に水都の顔を見つめ、ココノエは何度も頷く。


「ここで質問です。ココノエさんは無理にでも仲良くなりたいですか?」

「え……?」

「ココノエさんは仲良しグループに入れないことに悩んでいるのではなく、このままではいけないという漠然とした不安から相談したんですよね? 目的が友だち作りならその方向でアドバイスをしますし、そうではないなら違うアドバイスをします」


 水都はココノエの後ろに座る、もう一人の女生徒を一瞥する。

 店内の誰かを占うことは決まっていたため、いつもの癖で全てのお客さんの様子を観察していた。

 ココノエと共に来店した女生徒とは仲良く話しており、友だちがココノエのために付き合ってくれたのだろうと推測できた。

 そしてココノエの性格から、友だちをたくさん作りたいタイプではないことも。


「コミュニケーションができないと社会に出て困ると思っていましたが、そうではないのでしょうか?」

「有名大学か否かで就職の幅が広がるのと同じで、コミュ力があるかどうかで立ち回りの幅が広がるのは間違いありません。ですが、自分に合わないコミュニケーションを取り続ける必要もありませんよ」


 こうあるべきという考え方は非常に多い。

 昨今、SNSを見ているだけでそういうものだと勝手に洗脳されるケースが少なくない。

 しかし何事にも前提はあり、合う人と合わない人も当然ある。


「優しい自分が嫌であれば、他人を二つに分けてみてください。自分の時間と労力を払ってでも助けたいか否かを。優しいに越したことはありませんが、優しさを義務付ける必要はありませんよ。お友だちの気持ちを読んでみましょうか」


 水都は最後のセリフだけ、少し前かがみになって小声で話す。

 タロットカードをいつも通りシャッフルして引いたのは、【カップのクイーン】だ。


「このカードは愛情深さを示すものですが、抱えているカップに女性が注目しすぎていることも表しています。つまり、他者というカップばかりに集中していて、自分のことが見えていないんです。お友だちは、もう少し自分を気にしてあげてと思っていますよ」


 ココノエは振り返って友だちを見る。

 友だちは祈るように手をギュッと握っていた。

 周囲の人の自分に注目する視線に気づき、ココノエは顔を赤くしてサッと戻す。


「人との関わりを極端に避けることはせず、あとは流れに沿って適応することだけに挑戦してみてください。学校ならグループワークや共同作業があると思いますし、アルバイトをすればその機会はもっと増えます。それ以上のことは気にしなくて大丈夫。それよりも、身近な人たちを大切にする方法を考えてみてください」

「ありがとうございます! あの…………また相談に来てもいいですか?」

「もちろんです。占いは有料ですが、その後のご相談は報告も兼ねていただければ歓迎です。ただし、お小遣いに無理の範囲で、ね」

「はい!」


 ココノエは深くお辞儀をして、友人のもとへ戻る。

 その道中、周りからは温かい拍手が送られた。

 気恥ずかしそうに俯きながらそそくさと戻りながらも、席に座って上げた顔は晴れやかであった。


「皆様の中には、これは占いなのか? と思われた方もいらっしゃると思います。ですがこれも占いです。多くの人は自分への理解に悩まれています。命術は自己の理解を深めることができ、客観的な視点で気づきを与えられるのです。神秘的に当てることだけが占いなのではなく、現実的な考えからアドバイスをするのも占い師の役目と言えます」


 占いは様々なきっかけに繋がる。

 良い未来に繋がるきっかけ、悪い未来を回避するきっかけ。

 それだけではなく、頭の中を整理するきっかけや、自己を理解するきっかけにもなる。

 当てること自体にはあまり意味はなく、その先で何を得るかが重要なのだ。


「じゃあ二人目のラッキーな人を引きましょう! どぅるどぅるどぅる〜!」


 その後のイベントではタロットをふんだんに使い、計三名の晴れやかな顔に変わった相談者を見送ることができた。

 イベント後も鑑定依頼の予約の確認で殺到して、お店としては大成功と言える成果を残す。

 一方、占い師の卵たちは不安感が強くなるのだった。

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次話では番外として、今回の占いで使用した運命数と星座から導いた性格解説をします。

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