思春期のお茶会
秋終わりの、肌寒い気温。注文したほうじ茶が、手先を温める。友人の三津も同様に、かじかんだ手先を温めている。
「そう言えば、大学はどこに行くんだ?」
「都成にいくよ」
「都成大学? 聞いた事無いな」
「いいところ、じゃないからね」
冷まさずに飲んだほうじ茶は、味わう事無く反射的に喉へと流し込む。熱で喉をつたっているのがよく分かった。
火傷はしていないが口の中が若干痛い。とはいえ数秒もすれば引く程度だ。
「炭下なら、もっと上にいけるだろ」
「いいんだよ下で。ほどほどにやれる所を選ぶんだよ」
「今からでも偏差値65は行けるだろ」
「みっちりやればね。そんな意欲ないよ」
「だがな~」
「そんな事言って、三津はどこに行くの?」
乾燥した唇を狭め、ほうじ茶に軽く息を吹きかける。水面が波打つ所を見て、今度は火傷しないようにゆっくり、口の中へと含む。
香りが……とか言いたいが貧乏舌が細かい反応が出来るはずもない。
ため息をつくように息を出す。店の中と言う事もあり白くはならなかった。
「東大だ! 当たり前だろ」
「1+1=」
「馬鹿にするなよ!」
「数1の教科書持っている人に言われてもね」
三津の手提げカバンからうっすらと見えるのは、高校1年の時に使っていた数学の教科書だ。
「これからやるんだよ!」
「がんばれ」
「最低でも炭下がいく所よりも頭いい所に行ってやるからな!」
「ははは、からかいすぎた。応援するよ」
「わかればいいんだよ……つか、なんで都成なんだ?霜上大学くらいなら行けるだろ?」
「……勉強しなくても行けるラインだから」
「そんなに勉強が嫌なのか?」
「別に嫌では無いんだけどね」
「ならなんで」
熱いお茶を飲み温まった体から汗が出てくる。
「妥協だよ。頑張れるほど心が強くないから。遊べる程度のお給料をもらって、昇進して、結婚して……ほどほどに生きるための最低ラインがそこだったんだ」