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レディレディー  作者: YB
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#01 オープニングソング

 恋の話をしよう。

 放ってしまったらもう忘れることができないような、素敵な恋の話をしよう。

 あたしはまりあとマリア‥‥二人いるの。

 まりあのあたしは海の見える高校に通う普通の女子高生で、マリアのあたしは果てのある海に囲まれた島の学園宮殿で暮らすキゾクだった。

 二人いるあたしは、二人ともあたしで、見てることも聞いてることも二人分だけど、あたしは一人しかいない。

 そう、あたしは二つの世界で生きているってこと。

 難しいことじゃないって。

 あたしは二つの世界で楽しい毎日を過ごしているから、心配しないで。

 そして、あたしは二つの世界でたくさんの恋を見つめる。

 恋する少女は輝きと儚さを同時に共存させて、たまにゾッとするような美しさをのぞかせる。

 でも、それはほんの些細な一瞬を切り抜いただけってことをあたしは知っている。

 少女は恋をしていても、子供のまま友達と笑い合うこともできるし、将来のためがむしゃらにもなれるし、家族に優しくもできるのだ。

 二人いるあたしは、二つの世界の澄んだ空を見つめ両手を捧げる、祈りを込めて。

 どうか、みんなの恋がうまくいきますように。

 もし、うまくいかなかったら近くに誰かがいてくれますように。

 そして、また準備が整ったら走りだせますように。

 願い終えると、ジャガジャガジャジャガ♪と軽快なエレキギターのリフが聞こえ、思わずあたしは肩を揺らす。

 空気をよんでベースのドゥーンドゥーン♪と安心感のある音が聞こえ、たまらずあたしはスキップを踏む。

 ウィンクを投げかけるような絶妙なタイミングでドラムがビートを刻む、嬉しくなってあたしはくるりと回転する。

 歌が始まる‥‥覚悟を決めたガールズバンドのボーカルは、泣いている女の子の近くに誰もいなかった時、この歌を聞いてほしいと思い、声に乗せる。

 そんな歌が聞こえる。

 二人いるあたしは歌を聞きながら、二つの世界の少女たちに届けって思う。

 恋よ、届けって。

 あ、オープニングがはじまる。



   胸の痛みを教えて

   高まる思いを聞かせて

   短い恋文なら一緒に書かせて

   背中合わせに空を見つめる



 丸顔のかわいらしい結奈はずっと片目で運命の人を追いかけていた。

 廊下のすれ違いざま、窓から見えるグラウンド、放課後の自転車。

 この恋は運命で、きっと二人は結ばれると信じている。

 その思いは、丸顔のかわいらしいナルシアも同じだった。

 ナルシアはまだ彼に出会っていないが、運命を感じている。

 離ればなれになったとしても、私と彼はもう一度出会えると信じている。



   心惹かれて、恐れ忘れて

   そめき切なくなる時は

   流し目の君をさらってやる

   ひとつしかない表情守るんだ



 ラヴィのまっすぐな瞳はみんなを惹きつける。

 フリフリのついたスカートを指ではさみ、一礼する彼女はまだ見たことのない恋を望む。

 自分の身を焦がし、殺してしまうような、そんな焼けつくような恋がしたい。

 手紙をたしなめるラヴィは9月に想いを馳せる。



   夢の通い道

   強烈な光を放つ君を

   ジーンズで追いかける

   忘れるもんか、忘れさせるもんか



 自信のない弥生はピアノが弾けなくなった。

 自分のことも他人のことも、よく分からず隠れて泣いていた。

 しかし、涙はピタリと止まり、自信なさげな弥生の表情は精悍な少年の顔へと変わる。

 立ち上がると、肩を切って乱暴に歩き始める、行き先も知らぬまま。

 彼女は二重人格だった。



   夢の迷い道

   憧れる二人の心を

   ジーンズで追いかける

   忘れるもんか、忘れさせるもんか



 カーボン製の容器に入った脳みそだけの女の子は光速戦闘機で想い人をサポートする。

 世界の滅亡なんてどうでも良かった‥‥ただ少しでも長く、彼と一緒にいたかった。

 脳ちゃんはこの恋が叶わない恋だって知っている‥‥物理的に。

 それを無機質のコルタナは何も言わず呆れていた。



   恋心、名残惜しむ月まで届け

   たゆたう思いに涙ぐむなら

   やらず雨になって袖を握る



 化け猫と呼ばれる遊女の吉野は、億劫そうに窓の外を見つめる。

 満開の桜が途切れなく、風の存在しない場所でヒラヒラと散っていた。

 すぐそこにすら手が届かない此処は、牢獄と変わらなかった。

 お迎えはいつ来るのかい‥‥なあんて、ほざいても明日は変わらない。

 猫の目を借りて、暇な一日過ごすだけ。



   今ひとたび出会うため

   知らない星で再会しよう



 若くして旅館の女将になってしまった深雪は、小さな黒猫を抱いて涙を流す。

 高校を辞めて旅館を続けるか、旅館を辞めて高校を続けるか。 

 深雪が大人になるには、あまりにも時間がなさすぎた。

 黒猫は深雪のほっぺをぺろりと舐めると、どこかへ走り出してしまう。

 彼女は決められない、決められるわけない。



 余韻を残して、音楽は鳴り止む。

 さあ、そろそろ物語をはじめよっか。

 息を吸って、吐いて、ほらいい顔しましょ。

 準備はいい?



 ──レディレディー




 堤防から海を見つめる小さな黒猫と大きな灰猫。



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