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私から要求した訳でもないのにお礼の話をしてくるなんて、やっぱり『ペンタブ』さんは悪い人ではなさそうだった。
多分、漫画を描くために手段を選ばないだけなのだろう。
倫理より漫画を優先させるのは人として大問題だけど、真剣に物事に打ち込むこと自体はいいことだし、その気持ちを安易に踏みにじったりしてはいけないとも思う。
謎を話してくれるお客さんがいても、「そんなお客さんはいない」ということにして適当にやり過ごすなんて真似は、しない方が良さそうだった。
漫画に打ち込んでいればいる程、私が適当な対応をしたら、『ペンタブ』さんは逆恨みで録音をインターネットに公開するかも知れないし。
私がそんなことを考えているとも知らず、『ペンタブ』さんは続けた。
「何か欲しい物はありませんか? 五万円くらいまでなら相談に応じます」
「いえ、お気持ちだけで十分です。こうやって私のお客さんになってもらえたら、ちゃんと私の収入になりますから」
下手に何かもらったら、それこそ泥沼だろう。
私達はあくまで只の『愚痴聞き屋』とそのお客さんであって、それ以上でも、それ以下でもない。
ただ世間話の途中で、私がちょっと口を滑らせることがあるだけだ。
そういうことにして、私は訊いた。
「それより、お客さんから謎を聞けた時、どうやって連絡すればいいですか?」
あのアプリを使えば、電話番号をやり取りせずに連絡できるから、私も『ペンタブ』さんも互いの連絡先を把握していない。
電話でちょっとやり取りしたことがあるだけの人に連絡先を教えるのは抵抗があるし、それは多分『ペンタブ』さんも同じだろう。
何かいい方法があればいいのだけど……。
私が考え込んでいると、『ペンタブ』さんが言った。
「じゃあ、こうしましょう。お客さんから謎を聞けたら、『肉球ぷにぷに』さんのプロフィール画像をバラに差し替えて下さい。いつも同じ合図を使うと、その内誰かに気付かれるかも知れませんから、その都度合図を変えましょう」
「わかりました。バラですね」
私の今のプロフィール画像はにゃん三郎の写真だから、変えるのは少し寂しい気もするけど、直接やり取りせずに合図を送れるというのは、私達にぴったりの方法だろう。
「じゃあ、謎を聞けたら、その時にはまたよろしくお願いします」
「了解です。じゃあ、失礼します」
私は『ペンタブ』さんが電話を切るのを待って、小さく溜め息を吐いた。
何だか妙なことになってしまったけど、無理矢理前向きに考えれば、これはきっと私が待っていた『ちょっとわくわくするようなこと』だろう。
想像していたものとは随分違ってはいても、ごく平凡な恋愛より、この秘密の方が面白そうだと言えなくもない。
私と『ペンタブ』さんのこの秘密が、いつかバレるんじゃないかという不安もあるけど、こうなったらできるだけこの状況を楽しんでしまおう。
こんな秘密を抱えた『愚痴聞き屋』は、きっと世界中で私だけだ。
景気付けに、後で久々に発泡酒でなくビールを買って来よう。
私はそう決めると、カレー作りを再開した。




