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次の日曜日の夜。
私は今日も予定がなくて、家にいた。
にゃん三郎はソファの辺りで、マイペースにボールのおもちゃを追い掛けて遊んでいるけど、私はそろそろお夕飯の支度をする時間だ。
今日のメニューはカレーライス。
一度作れば数日分のお夕飯になるから、月に一、二度は節約も兼ねて、カレーを作るようにしていた。
炒めた材料がひたひたになるくらいに、鍋に水を入れて火にかけたところで、私は鍋が煮えるまでの暇潰しに、エプロンのポケットからスマートフォンを取り出す。
そうして会社や友達から連絡が入っていないことを一通り確認してから、例のアプリを起動させた。
最後に『山田』さんと話してから一週間近く――『ペンタブ』さんの推理が当たっていたのか気になるけど、あの後無事に手紙が見付かったのかはわからないままだった。
なまじ希望を持たせるようなことをしてしまったし、ちゃんと見付かっていたらいいのだけど。
『ペンタブ』さんも、あの後漫画を描けたのだろうか。
興味本位で知ろうとするのは良くないけど、ただ話を聞いていた時とは違う、ちょっと面白い経験だったから、あの後二人がどうなったのか、気になってはいた。
でも、私には知る方法がない。
私が少し残念に思いながら、アプリにログインしてみると、誰かが私宛てにレビューを書いてくれていた。
タイトルは「ありがとう」。わざわざレビューを書いてくれる人なんて滅多にいないけど、一体誰だろうと思いながらユーザー名を確認してみると、『山田太郎』と書いてあった。
あの人か。
もしかしてと思いながら、私は早速内容に目を通してみる。
初めてお願いしましたが、人当たりが良くて、頭の柔らかい人です。
孫に出された謎を、代わりに解いてくれました。
どうもありがとう。
どうやら、お孫さんの手紙は無事に見付かったらしい。
男の子の夢は守られた訳で、少しだけいいことができたような気がした。
流してはいけない情報を流した上に、『ペンタブ』さんの手柄の横取りまでした訳だから、いくら大義名分があっても不正行為を相殺し切れていない気がするけど、私を含めた全員がそれぞれに得をしたのは確かだ。
この際、細かいことを気にするのはやめよう。
終わり良ければ全て良し。
昔の人はいいことを言ったものだと思いながら、アカウントを「電話待ち」の状態にすると、ほとんど間を置かずにお客さんが入ったという通知があった。
予約日時を指定せずに、すぐに話したいというお客さんだ。
お客さんの名前は『ペンタブ』。
できればまた話したいと思っていたから、ちょっと嬉しかった。
私が早速電話をかけてみると、『ペンタブ』さんはワンコールで出る。
「ご利用ありがとうございます。『肉球ぷにぷに』と申します」
「こんにちは、『ペンタブ』です。先日はありがとうございました」
今日の『ペンタブ』さんは心に余裕があるみたいで、この間より優しい声をしていた。
何となく『ペンタブ』さんの漫画の結果は予想が付いたけど、確証が欲しくて、私は敢えて尋ねる。
「いえ、こちらこそです。漫画、上手く行ったんですか?」
「はい。おかげ様で担当さんのOKが出て、描かせてもらえることになりました」
声を弾ませてそう言った『ペンタブ』さんは、電話越しでもはっきりわかる程上機嫌だった。
きっと本当に漫画が好きで、描けるのが嬉しいんだろう。
真剣に打ち込めるものがない私は、漫画が描けることをこんなに喜べる『ペンタブ』さんを凄いと思わずにはいられなかった。